「なーなーなまえー」
朝から鬱陶しい。
人の机に突っ伏して、私が持ってきたポッキーをもしゃもしゃと食べているのは我が校で有名人の宮侑。兄の方。
顔が良いし、人当たりも良いし、スポーツできるしで、人気者。
難点もあるけれど。
割と誰にでも人懐っこいし、弟に比べれば明るい性格。
全日本ユースにも選ばれるほどバレーのセッターとしての才覚もある。
けれど、その裏返せば捻じ曲がった性格が顔を出す。
「俺、めっちゃかっこええよなー?」
ほら、でた。
「治よりもイケメンやと思わん?」
またどうせ彼女にフラれて、しかもその理由が治くんの方が良いという理由だろう。
くだらない。
「なんでやっちゅーねん」
心底凹んだような顔しているけれど、立ち直りもきっとすぐ。
「ま、別にええけど。俺のかっこよさわからんよーなやつこっちから願い下げやわ」
フンと鼻を鳴らして、また人のポッキーを啄んだ。
彼と過ごしてきたのはこの高校に入って、バレー部のマネージャーを始めてからだから一年と少しの付き合い。
他の部員のことはあんまりよーわからんとこもあるけど、なぜかこいつだけはわかりやすい。
こうやって懐いてくるからというとこもないこともないけど…。
「アホ。それは、侑の女を見る目がない」
「うっわー、なまえちゃん傷心のツムくんになんてこと言うんやー」
大して傷ついてもいないくせに。
きっともう自分をフった女などどうでも良いと思ってて、すぐ他に彼女作って「ほらな?俺ってやっぱ人気もんやん?」ってドヤ顔で言ってくるんだから。
フラれて反省もする気ないなら、いちいち相談になんて来なくて良いのに。
「表面しか見てないような女選ぶ侑が悪いに決まってるでしょ。そんなんやったら永遠に愛してもらわれんよ」
言いながら思うのは、関西弁は使い慣れないなー、ということ。
一瞬顔をじっと見つめられたかと思えば、また机に埋まった。
「ちゃんと見てくれとる女が全然靡かへんのんやもん…」
はぁ、と深い溜息を吐く侑。
なんだ。
ちゃんといるんじゃん、自分から好きだと思える人。
「好きな人いるなら、そのチャラチャラした行動改めなよ。嫌われるよ?」
「バーーーーカ」
バカってなんだよ、バカって。
ん?
関西人にとってのバカは、アホより本気度が強いんだっけ?
「嫌われるほど関心持たれてるなら苦労せんわ」
「はぁ?何やら辛い恋をしているんだね?まぁ、頑張れ」
「ムカつくわー。これでも食うとれ」
侑が一口齧ったポッキーを私の口に押し付けてきた。
もともと、これ私のポッキーだけど…?
黙って咀嚼する私に、侑はもう一度深い溜息を吐いて自席に帰って行った。
本当に朝から迷惑な話だ…。
間接キスじゃんっ…!!
先生が教室に入ってきて、みんなが席に着いた。
今頃になってそんなことに気付くなんて……本当に私バカだわ…。