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Side Bokuto

梅雨のある日。

俺はふとあいつが雨に濡れて帰るんじゃないか心配で、降りた電車にまた飛び乗った。
どこの車両だったっけ?
幸い持っていた一本の傘に、二人で入ることを想像して、なんか、楽しくなった。
ただ、一人盛り上がる気分は、あいつらを見つけた瞬間に何故だか下がっていく。

俺がいなくなったら、そうか、あいつは赤葦と二人になるのか。

バカだななんで今まで気づかなかったんだ?

別に二人になったからどうのってわけじゃねーけど…



何故だか俺は一定の距離を保ってそのまま二人を見てた。
モヤモヤする感情が、二人のところへ「行け」「行くな」と邪魔して動くことができず、ただ見ていただけ。

特に会話らしい会話をしている風ではない。
次の駅で二人は前の出入り口から降りて、俺も慌てて後ろから降りる。
電車が走り去ってよく見えるようになった駅のホームからは大きな雨粒が落ちていた。
何やら話し始めた二人は、人混みでこちらに気づくわけもなく。
声をかけるなら今しかない。

決心の末、踏み出した一歩はあいつの笑顔と二人が歩き出したことによって、空ぶった。



赤葦にも…そんな笑顔向けんのかよ…



…あれ?
俺、今何を思った?
並んで歩く二人を見て、俺は今なんでこんな嫌な気持ちになってるんだ?
可愛いマネと頼もしい後輩が二人で並んで歩いてて、俺が“そうするはずだった”相合傘で、お互いにくっつきそうな距離で歩いてる。

ソレダケノコト。

いつもみたいに規則正しくない心音。
それが意味することは“なんか嫌だ”以上。
ずしりと重く、甘く、ヒリヒリと痛む心に気付かされた感情が追いかけようとする足を止めた。
気が付けば、シャツの胸のあたりを皺が寄るほど握りしめていた。


「なまえ…」


タイミングよく振り返ったあいつは、それでも俺には気付かない。

「なまえ…なまえッ!」

出る声は掠れていて届かず雨音と喧騒に紛れる。
何度呼んだってもう振り返ることはなかった。


思い出すあの笑顔が、焦がれるほどに恋しい。


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