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午後練始まりますか?

「あかーしー!!!なー!!なまえはー?!」

「探してるじゃないですか。…うるさいですね」

「マネちゃんズいねーと俺の心が癒されねぇよー」

「マネちゃんズというより、みょうじだけ呼んでましたよね、今」

「…え?そうだった??」

土曜の午前練が終わった昼休み、ふらりとどこかへ消えたマネージャーたち。
それを探しに行こうとか先輩特権使って面倒なこと言い出した木兎さん。
木兎さんは、自分が誰を探してるかわかっていながら認識はしてないこの状況。
それをなんと呼ぶのか、俺も、まだ知らない。

体育館の周りを回ってみたがそれもいなくて。

「あ!俺教室に課題忘れてたわ!」

「…なんで金曜に持って帰らなかったんですか」

自然と足は三年の教室へ。

「課題やる気なかったでしょ?」

「んなこと…」

「あるでしょ「しー!!」…は?」

先行していた木兎さんは教室の入り口で足を止めて、口に指を当て、俺に視線だけ振り返った。
彼の向こうに、机に突っ伏してるお目当の人物たちが見えた。
あー…日当たりが良いからか。
ちょうど彼女たちが机をくっつけて寝ているそこに朗らかな陽射しが降り注ぐ。
影は少し肌寒いけど、あそこだけは暖かそう。

木兎さんはまっすぐみょうじのところへ行き、屈んで彼女の寝顔を覗き込んだ。
その表情は一生懸命口元の緩みをこらえているようだけど、嬉しそうにしか見えない。

「かぁーいー…」

にへっとついに緩んだ頬で、そう言うもんだから思わず吹き出しそうになった。

「……あれ…、ぼくとせんぱい?」

薄く開いたその瞳が彼だけを映す。

「起こしたか?」

「へ?いや…今……あ!もう午後練始まります?!」

何か言いかけた言葉を飲み込んで、時計を確認する。

「んー!…あれ?赤葦と木兎じゃーん」

「ふぁぁ、あれ?ほんとだ。どったのー?」

他の二人もその声で目覚めたようで。
その時、ようやくみょうじも俺を見た。

「なまえ、ヨダレ出てる」

「な?!…ッ!?」

木兎さんはそれを一瞬のことにしてしまった。

みょうじの口の端を自分のジャージの袖で拭いて、「きったねぇー」とか思ってないことを言って、みょうじを赤らめさせる。
それを見つめる雀田先輩たちの表情も陽だまりを見つめる優しい視線。
きっと俺もそんな視線を向けている。

つもり。


「木兎さん、課題のこと忘れてますよ」

「おお!それだ!!なまえ、ちょっと退けて」

みょうじが寝ていた机はどうやら“偶然にも”木兎さんの席だったよう。
椅子を少し引いて離れても、机を漁る二人の距離は触れる程度。

「はー…昼寝も邪魔されたし、行きますかー」

ぽんと背中を叩かれ、先輩マネ二人に押されるように教室を出る。

「赤葦、先行ってよーねー」

「あ、かおり先輩、雪絵先輩!待っ…!」

「午後練、遅れるなよー」

陽だまりに残した二人に抱くのは、言葉にできない二つの感情。
でも、ドロリとした感情は、見たくないから、そっと蓋を閉じた。


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