「クーロ先輩!」
人気のない校舎裏。
少し肌寒い空の下。
雲行きは薄曇り。
俺の頬はジンジンと痛んでいた。
こんな時にやってきた人物を見やれば、部の後輩マネージャー。
こいつのことは呑気なやつだと思っていたが、こんなタイミングでやってくるんだから、やっぱ空気の読めない呑気なやつ。
「ア?」
「そんなビンタされた顔で凄まれても怖くないですから。これ、はい」
差し出してきたのは、白くて可愛らしい封筒とイチゴミルクの紙パック。
「知らない同級生に、クロ先輩に渡してほしいと渡されました。渡しましたよ。ちゃんと拝読して感想聞かせてくださいね」
口を吊り上げで笑っているこいつはどうやら封筒の中身も知ってるし、なんならこの頬の理由も知ってるんだろう。
「おモテになりますネェ。我が部の主将さんは」
「なんなら変わってくれよマジで」
付き合ってほしいと言うから付き合えば、携帯での連絡が続かないとか、放課後や土日に遊べないとか、そんなくだらない理由を述べられ挙句に
「クロくん、私のことなんて好きじゃないんでしょ?!」
なんて。
あたりめーだろ。
そっちから告白しといて、距離詰める間もなくフッたのもそっちで、どこを好きになれというんだ。
来る者拒まず、去る者追わず。
そういうスタンスが良くないのはわかってるけど、そりゃ高校生ですし?
恋愛とか性的なんちゃらとか興味しかありませんよ。
だけど、なんつーか……上手くいかないもんだな。
一緒に手渡されたイチゴミルクを頬に充てれば、冷たくて痛みが少し麻痺する。
「その手紙の子は、クロ先輩のバレーしてる時の真剣な表情や点が入った時の笑った顔が大好きです!だってさ。顔の作りが良いと言われることも顔のことばかりなんですねー」
「アラアラ、おモテにならないみょうじさん。それは僻みですか?」
「僻み……」
冗談でそういえば、みょうじは少し考える素振りを見せて、今度はニッと笑った。
「どっちかっていうと、嫉妬ですかね!」
コツンと俺の胸に当たったその言葉。
嫉妬?
「あ、あとそのイチゴミルクは私からです。フラれてまた新しい彼女と出会えた記念おめでとうございます。
どうか早く女に懲りて独り身になるか、誰か一人を愛して幸せになって爆発してください」
爆発しろって…なに?俺、こいつに嫌われてんの?
言ってることが意味わかんなすぎて笑えるわ。
「じゃ、私教室戻りますんで。ラブレターの返事はご自分でしてくださいね」
手に持たされた白い封筒。
いっそみょうじからの呪いの手紙だったほうが笑えるのにな。
「みょうじ」
振り向いたみょうじに持っていたイチゴミルクを投げ返す。
彼女の手の中に落ちた。
「返す。甘いの嫌いなの知ってるくせに、こんなの寄越すなよ」
「嫌味ですから」
どういう心境なんだよ、ホント。
雲間から差した光のように、みょうじはキレイに笑った。