嵐山准という男を見ていると、時折眩しすぎて目を細めてしまう時がある。表裏のない穏やかな性格と爽やかな容姿でボーダー隊員からも一般市民からも人気な彼は、私が隣に立って愛されることを許されるには上等すぎる男だからだ。
だからと言って自分なんかよりふさわしい子がいるのではないかと思うのはもうやめた。そうやってうじうじ悩む時期は付き合い始めの頃に嫌という程過ごしたし、その度にいたたまれなくなるほど彼はストレートに愛を表現してくれた。だから、私がそうやって悩むのは彼のことを疑うのも同じだという考えに行き着いて、堂々とすることにしたのだ。それでも、元来めんどくさい性格をしている私は、ふとした時にその一面が首を擡げてしまう。
「みょうじさんって、嵐山さんと結構長いっすよね?」
「もうすぐ3年だけど、長いのかな?」
「3年は長いですよ」
「ふーん、そっか」
「なんかもっと長く付き合ってそうな雰囲気ですけどね」
「何それ」
「熟年夫婦的な?」
「あぁ〜、わかる」
「それはさすがに言い過ぎじゃない?」
「いやいや、俺ん中じゃ嵐山さんと言えばみょうじさんみたいなイメージついてるっすよ」
3年もあれば嵐山隊の作戦室でこうして佐鳥や時枝と話すのもすっかり日常と化してしまっている。何も言っていないのに准の所在を教えられたりすることだってある。それを当たり前に享受して、これからもそんな日々を送るんだろうなと思っていた。
「そういえばクラスの女子が最近彼氏とマンネリだ〜とか話してたんっすけど、みょうじさんと嵐山さんはそういうのなさそうっすよね」
「そう?」
「落ち着いてるけど、仲良さそうじゃないっすか」
「どうなんですか?」
「えー、どうなんだろう…」
別に准からの想いにあぐらをかいていたつもりはないのに佐鳥の何気ない疑問が深く刺さる。マンネリとかそういう事は思ったことはないし、スキンシップが減ったとかそういうのもない。倦怠期だとか全く思いもしなかったけど、それは私だけなのかもしれないと思ってしまった。
今までの付き合いの中で私は特に変化を起こそうと思っていなかったのだ。だから、手を繋いでいる時、キスしている時、セックスをしている時、もしかしたら准はマンネリだと思ってしまったかもしれない。そう考えてしまうと、佐鳥と時枝になにも言えなくなった。
「悪いなまえ、待ったよな」
「お疲れ。佐鳥と時枝が相手してくれたから大丈夫」
「そうか、二人ともありがとな」
「どういたしましてー」
「嵐山さん、根付さんの話ってなんでした?」
「あぁ、今度受ける雑誌の取材についてだったよ。詳しい事は明日話す」
ほんの少し気まずく感じ始めた沈黙は准の爽やかな声で破られた。付き合い始めた頃より精悍さが増したけど、それでもまだ幼さを残した笑顔で私の名前を呼ぶ。A級部隊の隊長としての立ち振る舞いもすっかり板についているものだと今更ながらに感じて、佐鳥の言葉を思い返した。准は少しずつ変わっている。けれど、私は?なんて疑問が頭をよぎる。ああ、だめだ。めんどくさい部分が顔を出してきている。
「じゃあ、俺らは先に帰るな。お疲れ」
「お疲れ様です」
「みょうじさんもお疲れ様です」
「お疲れ。お邪魔しました」
ひらひらと手を振って相手をしてくれた2人に微笑んでいたら、サラリと手が繋がれて作戦室の外へと連れ出される。いつの間にか准の手に移っていた私の鞄を受け取って、准がトリガーを解除すればまっすぐ出口を目指すだけだ。准が今日あった事を語ってくれるのを聞きながら本部を出て、目を閉じたままでも歩けそうな程歩き慣れた道のりをゆっくりと進んでいく。楽しそうに語る准の声が心地の良い。
「准は私に不満とかない?」
「なまえがそんな事聞くなんて珍しいな」
「そうかな」
「何かあった?」
「別に何も。ねぇ、答えてよ」
「不満はないよ。俺はなまえが大好きだ」
話の切れ目に投げかけた言葉に、准は少し笑ってから返事した。准の言葉を疑うつもりはない。でも、私を気遣って何も言わないのではと思うところもある。嵐山准という男は優しい男なのだ。大好きと言われて黙り込んだ私に准は「あれ?違った?」なんて
をかきながら首を傾げている。
「私も准の事が大好きだよ」
「ありがとう」
ぎゅっと握った手に力を入れると准がさらに力を入れて握り返してくるから、態とらしく痛がって戯けてみる。「ごめんごめん」なんて笑う姿は少年そのものなのに、向き合って視線が交わるとスッとそれを納めて男の人の顔をする。
「今日はどうする?泊まっていくか?」
「どうしようかな」
恋は3年で冷める、という説がある。恋愛をし始めた頃に分泌される脳内ホルモンが3年で作用しなくなるかららしい。恋を長く続けるのなら、再びその相手に恋に落ちて、脳内ホルモンを分泌し続けなければいけないんだとか。
私は嵐山准という男を見て眩しいと思う時、彼に再び恋に落ちている。それだけ彼は魅力的な男性なのだ。
じゃあ、彼の方はどうだろう。私の見た目は盛ったとしても中の上、性格は特別良いわけでもなく普通。ボーダーに所属しているとはいえ特に秀でた所もないオペレーターだ。
彼はそんな私に再び恋に落ちる時はあるのだろうか?
私の家と彼の家の分岐点まであと5分足らずの距離。私の頭の中はその疑問でいっぱいだった。
担当:ちゆさん
WT liebe refrain [ 01 ]