- ナノ -
Restyle 1
亮介×美容師(同い年)

中学卒業後美容課程のある専門系の高校に進んだヒロイン。
二年の専門学校生活を終えたあと一年アメリカに留学していた。
※美容師について詳しいわけではないです。
不適切な表現等あったとしても大目にみてやってください。





「はぁ、バカだなぁ。なまえは」

「…え?」

「俺を置いてホントに海外に行っちゃうなんて」

美容課程のある高専を二年で卒業しアメリカへ留学することを決めた幼馴染のなまえ。
その報告に、部活中の俺を訪ねてきた。
フェンス越しにみるなまえは溢れんばかりの夢を抱えていて、輝いているもんだからつい皮肉の一つも言いたくなる。
でも背中を押したのは、まぎれもなく俺なのにね。



小学生の時に美容師をする大好きな母親を亡くして以来、なまえの夢は執着するぐらい美容師一筋だった。
家庭を一人で支える父のため、早く美容師になりたいというなまえが最短ルートで美容師になる道を、一緒に探してあげた。
それがいま彼女が順調に進んでいる道。
中学での進路希望を出す時に、

「亮くんと同じ学校へ行きたかったな…」

とぽつりと呟いたその言葉は、彼女の最初で最後の本音だったのかもしれない。
でも幼かった俺は聞いてないフリをした。
それが、なまえのためだと思っていたから。




「…なんでそんなこと言うかな。亮くんが行けって言ったんじゃん」

寂しいなんて言う間柄じゃない。
お互いの気持ちがどういうものかはっきりさせるには、幼馴染として過ごしてきた期間が長すぎる。

「そうだったね。体に気を付けて頑張りなよ」

「う、ん…」

なまえが堪えている涙の意味を考えたところでもう遅い。

「亮くんも、野球頑張ってね」

それでも、なまえの決意は揺るがないことを俺は知ってるし、だから応援している。
俺が言えることがあるとすれば一つだけ。


「待ってるから。ちゃんとお前のこと」




そうして触れることもなく、フェンス越しに手を振ったのはもう一年前のこと。
たった一年。されど一年。
数か月に一度送られてくる写真にその姿はなく、いつも海外らしい風景ばかり。

『元気してる?』

『元気だよそっちは?』

『うん、元気』

同じやり取りが並ぶ無機質なメッセージライン。
近況も何もない、ただ繋がっただけのこの状態はなんて呼べばいい?
思い出せるのは最後に会った時に見た笑顔だけ。

それでも繋がっていたことに意味があったように思えたのは高校を卒業し、大学の寮へと引っ越したばかりの日の事だった。

『帰国した』

受け取った一つ目のメッセージは相変わらず簡素なもの。

『春から亮くんの大学の近くで働くことになりました。今日の夜会えませんか?』

二つ目のメッセージの後に送られてきたのは新しい住所。
返す返事は、ただ一言、「良いよ」の肯定のみ。
自然と口元が緩んだ。



「亮くん!」

久しぶりに聞く声は、少し大人っぽくなっただろうか。

「玄関先で待たされるとかストーカーか変質者になった気分」

「ごめん、思ったより職場への挨拶が遅くなっちゃって…。亮くんがストーカーとか陰湿そうで怖いよ」

繋がっていただけの一年を経ての再会。
感動的なシーンなんてなく、憎まれ口叩くいつもの調子が崩せない“幼馴染”という関係。
一年という月日の中で、一人暮らし、海外生活、仕事、その経験はきっと彼女を大人にしているだろうと思っていたのに、中身は相変わらずのようだね。

それでも、ごめんね、と申し訳なさそうに眉尻を下げたなまえは、慌てて玄関のカギを開け中へ入るよう勧めた。
職場への挨拶だけでなく、この部屋の大屋や管理者に直接挨拶に行って電気やガス水道などのもろもろの手続きを行っていたらあっという間に今日が終わりかけていたらしい。
1LDKの部屋には何もなく、大きなキャリーバックが鎮座しているだけ。
備え付けのエアコンのスイッチを入れれば、ふわりと空気が動き始める。

「質素な部屋だね」

「今日着いたばかりだから何にもなくて…」

ベッドもソファーも何にもない。
電気が付くのが幸いだな。
ほとんどの荷物は明日届くのだと言う。
おかげでお茶も出なければ、まだ肌寒い季節になかなか温まらないこの部屋の冷たい床に座って向き合った。

大きなキャリーを開けたなまえは、ごそごそと袋を取り出し差し出してくる。

「はい!亮くんへのお土産!マリナーズのキャップとTシャツ!」

「ありがと。でも他に持って帰るべきものあったんじゃない?」

「あ、ちゃんと向こうで使ってた仕事道具は持って帰って来てるよ?」

そういうことを言ってるんじゃないのに。
キャリーの中には必要最低限の数日分の服や下着、タオル、化粧品、ヘア用品、ドライヤー…ごちゃごちゃと適当に入っていて、その中でも奥底のほうから、大事そうに包まれたものを出す。

「こっちのは向こうのバイト先の店長さんが帰国前にくれたんだー」

なんて、呑気なやつ。
きれいに床にその道具たちを並べているけれど、俺にとってはどれも同じようなはさみ。

留学先でのことを話すわけでもない。
もちろん俺も自分のことを話し始めるわけもない。
続く沈黙は、離れていた間に拗らせた時間の顕れ。

「夜も遅いし、なまえの顔も見れて安心したからそろそろ帰るよ。帰ってきたばっかなら、お前も疲れてるだろ?」

拗らせた時間に、お互い少しは大人になったかと思ったけどやっぱりそう簡単には変われない。
出直そう、そう思って立ち上がろうとすれば、掴まれる袖。
何か言いたそうに、ゆっくりと視線が俺を見返した。


「亮くん…あの、良かったら、髪切ってあげようか?」


「え?耳とか切り落としたりしない?」

きっとそんなことしないのは知ってる。
けれどそう言って笑って誤魔化さずにはいられない。
立ち上がったなまえが手を伸ばし、後ろ髪を梳くように触る。
顔が近いことに気付いてないの?
いくら幼馴染と言えど、異性相手ならもうちょっと警戒しろよ?
煩く警鐘する心音がどうかこいつに聞こえませんように。

「こうみえて結構上手になったんだよ?
…このへん伸びてる。少し短くしても良い?」

目つきが変わった。
俺の意見なんて聞く気はさらさらなさそう。

「はぁ…この俺を実験台にするなんて、お前ホントいい度胸だね」

ため息ついでに未だ髪に触れてる、なまえの手にわざと頬を寄せる。
それに気づいたなまえは一気に顔を赤く染め飛び退いた。

「ご、ごごごめん!お、お風呂場で切ろっか?鏡あるし!」

その動揺は俺に期待させてるけど、良いの?
触れた手をもう片方の手で握り、視線をさ迷わせていたが、なまえは慌てていくつかの道具を持って浴室へ向かった。
帰国したばかりの幼馴染に会いに来てそうそう髪を切られることになるなんて思いもよらなかった。
本当に少し腕前のほどが心配だよ。




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