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「#お仕置き」のBL小説を読む
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番外編
「は?あんたたちまた別れたの〜!?」

よくやるね〜なんて言葉は呆れを含んでいた。
いや、わかってる。
本当にいい加減何度目の別れては寄りを戻してを繰り返しただろうか。

アキはすっかり大人の女になって、結婚したーいなんて言っている。
顔が良ければすぐ結婚するもんだと思っていたけど、そういうわけでもねぇんだな。

俺たちはもう社会に出て何年になっただろうか。
それこそ高校卒業したばかりの頃は年に何回も開かれていた同窓会も、気が付けば年に一回、数年に一回と集まる回数を減らしていた。
アキに会うのももう大学を卒業してぶりぐらい。



「なまえは、今日仕事で遅れるらしいよ〜」


間延びした声で食えない表情をするところは相変わらず、高校の時から一つも変わらないアキらしい。

「今日は撮影があるんだって〜」

昨日早朝から福岡でロケして、今日は大阪で撮って、戻って都内のスタジオで撮影と打ち合わせだったか?
そう言えば少し前に、んなこと言っていた。

みょうじなまえは今や日本で有名なトップモデル。
あの地味でブスを絵に描いたような女は、高校卒業間近にモデル事務所にスカウトされて、華街道を闊歩していった。
俺やアキと同じ大学に進学しながら、モデルの仕事をこなすあいつは日増しに忙しくなるわ…綺麗になるわ…

なんかすっげぇつまんねぇ女になっていった。

大学入学してすぐに付き合いだしたけれど、仕事が忙しくて別れたのが一回目。
あいつから俺との時間を大事にするつって復縁したけど、俺の浮気がバレて別れたのが二回目。
その後もなんだかんだあって戻ったり離れたり。
正直何やってんのかわかんねぇ関係。

一昨日喧嘩してあいつのほうが別れるつったのが、もう何回目か忘れた別れ。


「何時に来るんだ?」

「あと一時間は遅れるって〜」

「それまでには帰るわ」

プロの道へ進んだ倉持や御幸の登場に沸く同級生たちを遠目に、アキが頼んだカクテルを煽った。
げ、結構度数強ぇ…

「仲直りしたら〜?どうせまた麻生が浮気したか、約束すっぽかしたんでしょ〜?」

だったら苦労しねぇよ。
謝りゃ済むんだから。
今回ばかりはなんつーか…。




何度も付き合ったり別れたりを繰り返してる俺たちに記念日なんて存在しない。
まぁ祝って俺の誕生日とか、あいつの誕生日とか。
今日がその、あいつの誕生日なんだけど。
そんなにマメな男じゃないから、気が向いた時ぐらいしか祝ったりなんてしてこなかった。
今回は、ふと気が向いたから祝おうかと思った一週間前。
何をしようか、何を贈るのか、考えるだけで面倒になる。

今やトップモデルのあいつと、片や普通のリーマンやってる俺。

稼ぎの違いなんて段違。
俺が何か贈るより、モデルの友達からもらったというカバンのほうが高価だったりして。
今更、俺があげれるものなんてねぇか。
無難にケーキだな。ケーキ。

ロウソク立てて、火を点ければ心底嬉しそうに笑う顔が浮かび上がるだろう。

バカだから、あいつは変なとこ素直だし、単純なことでアホみたいに喜びやがる。
はぁ…しかたねぇな。
会社のメグちゃんにでも美味しいケーキ屋聞いてみるか。
俺って優しー。


そんなことを考えながら家に帰ったら、久しぶりにあいつも家に来ていた。
連絡も無しに来るのは珍しい。
ふと思い返すのは、この部屋に戻るまでに不審な人間はいなかったよな、という心配。
こんなバカ女でも、世間では立派な芸能人様だ。

「おかえり、尊」

「おう」

こいつの向こうに見える部屋はまだ暗くて、まだ来たばかりだっただろうか。

「んだよ、珍しいな」

「…来ちゃ悪かった?」

帰り道に買ったコンビニ弁当は一つしかない。
冷蔵庫もビール以外入ってねーし。
こいつがまさかご飯作ってるわけでもない。

「来るなら連絡ぐらいしろよ」

それが悪かったのか、なんだったのか。

酷く傷ついた顔をして、目には涙を溜めて、小さく「帰る」と言った。

「は?今来たんだろ?」

女っつーのはこういうとこ本当によくわかんねー…。
情緒不安定かよ。
決壊した涙は黒くなることもなく、さめざめと泣くなまえは認めたくはないがトップモデルと謳われるだけあるわ。
こいつが泣く度、高校の時のダマになった睫毛を思い出す。
あの頃は本当にブスで、まだ誰でも手が届くような女だったのにな。

引きとめる間もなく、高いヒールを履いて出て行った。

「…なんなんだよ」

こんなことは日常茶飯事。
追いかけたところでキレられるし、追いかけなくてもキレられるから放っておくことにした。
買ってきた弁当をレンジに突っ込んで、ビール片手にテレビを点ければ全画面にあいつのCM。
塗られた赤い唇はよく知ったそれ。
最後にキスしたの、いつだったか…。







そして一昨日、突然仕事中にかかってきた電話で言われたんは「別れよう」の一言。
くそ忙しい二十日過ぎの月末前に面倒くせぇこと言ってんじゃねーよ。

「勝手にしやがれ」

怒り任せに出た言葉を後悔したのはケーキを頼んだ後だった。


「へぇ…じゃあ、なまえが怒ってる理由〜わからないんだ〜?」

そもそも怒ってんのか、なんなのか。
さっきのカクテルのアルコールマジで強すぎ…
ソフトドリンクを流し込んでも全然抜ける気がしない。

「麻生はなまえのことどう思ってるわけ〜?そろそろ結婚とか考えないの〜?」

「ッゴフ…け、っはぁ!?何言ってんだよ別れたんだからんなもんあるか!」

「ええ〜?別れてなかったら考えてたわけ〜?」

考えなかったわけではないし、でも、考えないようにはしていたかもしれない。
あいつが俺と結婚?
結婚つったら、家に帰れば女房がいて美味しいご飯ができてて、温かい風呂が沸いてて。
それを、なまえに置き換えて考えろと?

「…麻生、顔赤いよ。気持ち悪い〜」

「う、うるせぇ!!んなもん考えられるかよ!!」

飲み干したソフトドリンクのグラスを置いて、ジャケットを羽織った。

「…あいつは今仕事が楽しいんだから、家庭に入ってる場合じゃねぇだろ」

そろそろ一時間になる。
貸切にされたバーには見知った顔しかいねぇ。


「なまえも、そう思ってるんだと思うよ」

そばにはいたいけど、今の仕事も楽しいし、どっちかは選べない…

「こんな私ならいっそそばにいない方が〜とかってね〜。むしろなまえはこんな男のどこが良いのかね〜」


未だに疑問と言うが、それは俺の方がよっぽど聞きてぇよ。
さっき俺が飲んでしまったカクテルをもう一度頼んで一気に飲み干すアキは余裕そうな表情。
華やかな世界を生きるお前とどこにでもいるような俺。

「こんなクソみたいな麻生でもなまえだけはずっと好きでいてくれたもんね〜本当に謎〜」

「一言多いんだよお前は!!…帰る」

「ばいば〜い、なまえに今度ご飯行こうって言っておいて〜」





何言ってんだこいつ、もう会いたくても会わねぇよ、と思ったのにバーを出て地上へ戻る階段で鉢合わせた時にはアキを心底気持ち悪いと思った。

「「あ」」

夜だというのに大きめのサングラスに、マスクが逆に不審者染みてて笑える。
そんな表情も見えない格好なのに動揺だけは見て取れた。
それもすぐに下を向いて、俺の横を駆け足で通り抜ける。


「おめでとさん」


引きとめる言葉とかそんなの出てこねぇけど、これぐらいは良いだろ?
夜中までやってるケーキ屋で良かったよ。
甘いものはあんま好きじゃねぇけど、取りに行かねぇのは悪いし。

前に踏み出しかけた一歩は、後ろに引っ張られた。

「うぉ!?危ねぇな!!」

背中のジャケット越しに感じる温もり。


「…た、けるっ…ごめ、すき……でも、わたし」


女っつーのはなんでこうも急に泣き出せるんだよ。

「後悔すんなら、勝手なことばっか言うな!」

「ごめん」

おい、これクリーニング出したばっかなのにお前の涙と鼻水でぐちゃぐちゃにするつもりじゃねぇだろうな…。

「別にお前に家にいろっつわねーよ!好きなだけ働いてろ!好きなだけ働いて、お前が仕事に飽きたら……養ってやらない、こともねーから」

贅沢はできねぇけど。
別に食っていけないほどじゃねぇよ。

「…え…」

「帰るぞ。ケーキ頼んであんだよ」

「え!?ケーキ?尊が!?」

さっきまでのしおらしさはどこへ行ったんだよ。
サングラスとマスクを外した顔は泣いた痕で鼻が赤い。
まだケーキケーキ言ってるバカは、ようやく少し嬉しそうに笑った。
ほらみろ。予想通りだわ。

ふと思い出したのはこの前見たCM。
ドヤ顔で赤い唇魅せびらかしてたくせに、素に近いこいつの唇は薄いピンク色だった。
幸いにもここはバーに通じる狭い階段通路。
こういうの柄じゃねぇことわかってるし、絶対もう二度とやんねぇから。

一段下にいる分少し持ち上げた顎。
こんなに近くで見ても化粧なのかなんなのかわかんねぇほど透き通った肌。
思い出せないほど久しぶりの、唇の感触。


「た、た尊っ!?」


何度目別れを繰り返したかわからないように、何度寄りを戻したかもよく覚えてない。
でも、この面倒くさい関係はこれからも続くらしい。




AofD 恋色メイク [ 番外編 ]