- ナノ -
チラシ裏のメモ
仕事終わりに一通のメッセージ。
『おめでとう!ご飯作って待ってる!』
たくさんのハートで彩られたそれ。
でも受信したのは午前中のようで、どれだけ早くから料理作ってんだよ。
まぁでも、招待されることは予想通りで、夕方頼んでいたものを取りに寄って、それからなまえのアパートに向かおう。
彼女の部屋で、小さなキッチンで忙しなく料理しているであろう姿を思い浮かべて、勝手に緩む口の端。



「お前なぁ…彼氏の誕生日に熱出すとかどーなの?」

それなのに、なまえの部屋に来てみれば、サプライズ的な出迎えもなくソファに突っ伏す姿。
逆に驚いたわ。

「ご、めん、なさい」

息も絶えだえで真っ赤な顔と潤んだ目は普段なら誘ってるそれ。
さすがにこの状況でそんな気分にはなれそうもない。

「ソファじゃなくて布団行けよ」

つか、なんでソファで寝てんだよ。
そんなことしてるから、余計に悪化するんだろ?
なまえはなんとか起き上がるが、座っていてもフラフラしている。

あ、ダメなやつだわ。

チラリと机の上をみれば、俺が好きなものがたくさん並んでいる食卓。
今日だけで、こんなに食えるかよ。
張り切りすぎて熱出したとか笑えねぇから。


「…よーいち」


「あ?」

いつものなまえらしくない弱々しげな声に振り向けば、嘘みたいな大粒の涙をこぼして泣いていた。
喧嘩したって、理不尽にキレたりしたって絶対泣かねぇくせに、こんな時にどうした?!

「は?!なに泣いてんだよ?!」

「おたんじょーび、おめでとー、ごめん、ね」

途切れ途切れ嗚咽を交えながら呪いのような祝い。

「んなこと良いから布団行けよ」

「あと、」

「あ?!まだなんかあんのか?」

ソファの背に体を預けながらぐしぐしと目を拭っている。

「あとね、」

「おう」

「…しんどいの、抱っこしてぇ」

もったいぶったくせに、そんなことかよ…。
普段ならこんなことも絶対言わない。
みっともなく泣きじゃくり甘えてくる姿は激しすぎるギャップ。
どうした?何があった?なんでこんな可愛いんだ…
あ、熱のせいか。
普段からこんくらい可愛げがあれば良いのに。
笑いと漏れるため息。

「はぁ…しかたねぇな」

なまえの伸ばす手の中に囲われ、腰と膝の下に手を入れた。
浮遊感におびえたのか、抱きしめる力が強くなる。
ソファから布団までそう距離があるわけじゃない。
けれど触れる体から、熱いと思えるほどには熱が伝わった。

「明日、病院行けよ?」

布団におろすが案の定、腕は解かれない。

「よーいち、ここにいてぇ」

「離せ。薬持ってきてやるから、それ飲んで寝ろ」

それでも決して離れようとはしなくて、呆れて一緒に横になる。
着ているスーツが堅苦しい。

「…お前なぁ…人の誕生日にワガママ言いやがってどういう神経だ?」

密着した状態で寝心地悪くないか?と思うも少しずつ嗚咽も止み穏やかになる呼吸は、おそらく安心の証。
バカじゃねーのと繰り返す内心は、動揺の表れ。

「よーいち…ねても、そばにいて」

「明日仕事だから帰るっつの」

「じゃあねない、薬ものまない」

肩口にスリスリとすり寄って本気で離す気がなく、頭を抱えた。


「…飯、お前が作ったやつ、食いてぇから…」


恥ずかしいったらない。
でも、ようやく手は緩んで少しだけ開いた距離。
なんだよもう寝そうじゃねぇか。

「あ、そうだった…がんばって、つくったよ」

辛いだろうにトロンとした目で少しだけ笑っていた。

「薬持ってくっから」

すぐに踵を返す。
通り抜けざまに、リビングの鏡に映った自分の様子は本当にらしくない。

バーカ本当にバカ。
俺の誕生日に風邪引くとか腹立つ。
色々考えてたのに、全部台無し。
計画を練りなおさねぇとじゃねーか。
ポケットの中でコロンと転がる。

あー、そう。
最初からこいつのせいで動揺してたんだった。
それなのに、俺の気も知らず今日に限っていつもと違うなまえ。

「ほら、薬」

少しだけ開く口に、無理矢理タブレットを突っ込む。
そのまま、重ねた唇。
驚いたなまえの手が俺の服をつかんだ。
流し込む水は少しだけ口の端からこぼれる。
離した唇はペロリと舐めた。

服をつかんでいた手をつかみかえし、そっと指にはめ込む。

いつ気付くだろうな。
慌てふためく様子を拝めないのが残念だけど、まぁいいか。
いつまでも焦らしててもしかたねーし。
すぐに眠ってしまったなまえの涙で濡れた頬をそっと撫でる。
調子狂う。
なまえが突然風邪引くとか、泣くとか、甘えてくるとか、心臓に悪い。
あー…これからもこんなのに付き合わされんのかー…
なまえの薬指にはまったそれをみて、諦めと、決意のため息。





翌日。

『ちょ?!もしもし!!?ねぇ!!!!洋一?!!!』

「あ?なんだよ。風邪は治ったか?」

『う、うん、熱は引いて……じゃないよ〜?もう…なんで…もう〜っ!!!』

「牛になったか?」

『茶化さないで!!』

「飯、美味かったけど作りすぎな」

『そんなの、良かったけど良くない!!何よこのチラシの裏のメモ!!誕生日プレゼントにお前をくださいって!!もっとマシな紙に書いといてよ!!』

「おい!!バカ!!読み上げてんじゃねぇよ!!!」

『…はぁぁぁ…いつ間に指輪だって……ねぇ、わたしで、良いの?洋一の誕生日に風邪引いちゃう女だよ?』

「ヒャハ!もう二度と風邪引くなよ!あと泣くな!!
…仕事、終わったらちゃんと言うから。
良い子に寝てろバーカ!」

一方的に切った電話。
きっとあと何回かは泣かせる自信がある。



 2017/5/17 倉持B.D.




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