- ナノ -
次って今でいい?
束の間の連休。
別に帰らなくても良かったんだけど、会いたいってうるさいやつがいるから。
久しぶりの実家だから読みたい漫画とか雑誌とかゲームとか誘惑がたくさん。
それに帰る途中で買った新しい野球雑誌も早急に読みたい。

そんなわけで、部屋でいわゆる“お家デート”ってやつ。

なまえはそんな俺を気づかってか、ベッドの下に座って携帯を触ったりテレビを見ていた。
まぁ、だから俺も気にせずベッドに横になって雑誌を読むわけで。

ブーブーッ
ディスプレイがメッセージを告げる光。
ちらりと視線だけ向ければ立て続けに送られるメッセージが目に映る。

『くらもちせんぱーい』

『ねーねーもっちーせんぱーい』

もっちー言うな。
腹立つがとりあえず無視。
少しだけ緩んだ口元を引き締めて何事もなかったように雑誌に視線を戻した。

『もっちもっちもーっちー』

歌かよ。
人の名前で歌うなよ。

『久しぶりなんですけどー』

『あいたかったんですけどー』

うんうん。
可愛くてしかたないけれど、無視。
返信の来ない携帯を睨んでるなまえは頬を膨らませていた。

『倉持先輩』

おうおう。
少しの間が空く。
そろそろ本気で不貞腐れちまうだろうからかまってやるか…。
そう思った矢先にもう一度震える。


『すきなんですけど』


膝を抱えて丸くなったなまえから小さな溜息が聞こえた。
もう可笑しさが堪えきれなくて、ヒャハと思わず笑いが漏れてしまう。

「お前、ホント素直じゃなねぇなぁ」

起き上がってぐしゃりと髪をひと撫でしてやれば勢いよく顔を上げて飛びついてくる。
この反応が見たくて、毎度すぐにはかまってやんねぇの。

「そんなことないですー」

腰に回される腕。
すりすりと腹にすり寄られるのはさすがにくすぐったい。
やめろのつもりで両手で頭を押さえつけると、その反応が気に入ったのか脇腹まわりをくすぐってくる。

「おい、バカ!やめろって!」

ホント調子のんなよ?
止めるつもりはないらしく、ニヤリと笑った口元が腹立つ。
だからその両腕を掴んでベッドに抱え上げ覆いかぶさる。
そうすればさきほどのニヤリ顔はどこへ行ったか、みるみるうちに朱に染まる。
それを見てこみ上げるのは、可笑しさと…


「なぁ、キスして良い?」


欲しくなる欲求。

「…だ、だめ!だめ!!だめですー!」

慌てて、手で顔全体を覆ってしまう。
まぁもちろんそんな手はすぐに振り払うけどな。
容易く片手を奪えば恥ずかしそうな顔があらわになって、もう、こいつマジなんなの…
キスぐらい何度目だって話なのに、いまだにそんな反応しちゃう?
可愛すぎかっつの。

「お前の意見はきかなーい!」

「え?今疑問形で聞いてきたじゃないで…んっ!」

重ねるだけ、角度を変えて何度も。
その柔らかな唇の感触を愉しむように食む。
少しだけ緩んだ隙に舌を入れ込んで、なまえのそれを追い回す。
逃げる、けれど応えようともする。
ああ、ホントたまんねぇよ…。
呼吸が限界で離してくれと、下から緩く押された。

「もう!くらもちせんぱいのバカ!ダメって言ったのに…」

バカなのどっちだよ。
荒い呼吸はそれだけで卑怯。
なまえの首元に顔を埋めるように倒れ込む。
体は離してるけどな。

「マジいい加減、俺も限界なんですけど?」

「いや、それは、っその…」

何を言わんとしてるか理解できたのか隠れ場所を探すように、俺の腕の中でもぞもぞと動く。
離してやるか、と思っていたのに、驚いたことになまえから回される腕に囚われた。

「あの…次は、ちゃんと…」

少しだけ、震えているその肩。
誤魔化すようにぎゅうと強くなる。
もう、こんなのってしかたねぇとしか言えねぇよ。

「おい!」

「は、はい!」


「次はちゃんと、覚悟しとけよ!」


次はぜってぇ止めてやんねぇから。
そう言って、そのほそっこい体を抱きしめ返した。
くそ。
もー…バーカ。

「倉持先輩」

「あ?なんだよ?」


「…ありがと、好き、ですっ」


次って今で良い?



AofD short [ 次って今でいい? ]