- ナノ -
方舟と鎮火
いま、体育で本気になり過ぎて転け、膝を思いきり擦り剥きました。出血する膝に水を盛大にかけられています。

「みょうじって女の子だよね?」

赤葦くんに。
天使様にこんなことさせるなんて申し訳ない。痛い。雑で結構痛い。性別疑われてるけど、そりゃこんな激しく転んで怪我する高校二年生なんてそういないよね。しかたない。
何はともあれ、赤葦くんが体育委員で良かった本当に!ありがとうくじ引き!

「本気になり過ぎ。今時の女子高生が体育のテニスで本気になったりしないと思うけど」

「見てた、の?!」

落雷が私を貫く。
赤葦くんに見られていたなんて、恥ずかしくて埋もれたい。
中学の時、テニスをしていて、高校では色々あって辞めてしまった。別に嫌いになったわけではないから、やればつい本気になってしまう。し、本気になっちゃうぐらい、実はまだ好きだったのかと痛む傷をみて思った。

「みょうじとテニス部の時期エースが本気の戦いになってるって騒いでて、男子も応援がてら観てたよ。気づかなかった?」

「う、そ…全然…」

腕を掴まれたかと思うと、ビリリと走る痛みに肘まで擦りむいていることに気づいた。そこへも水をかけられる。い、痛い。


「まぁ、真剣だったみたいだしね。みょうじ、輝いてたよ」


かが、かが、かが……?赤葦くん、何言ってるの?あ、蚊が飛んでたよかな?聞き間違えたよね、きっと。

「みょうじが楽しそうにしてるの、なんか新鮮で良いなって思った」

「あ、あか、しく…………いま、なんて?」

「タオル取ってくるから待ってて」

現在総力をあげてノアの箱船を作成中です!ですが、ですが、私乗れません!ここでお別れです…。山が次々に噴火して森中が火事となり、体中が熱い。足を引きずる私が乗れるはずない…。
なんて脳内では自分とのお別れムード。あ、現実逃避してた。
体が熱い。
頭から湯気が出てるよきっと。だって噴火してるもん。

彼がこの場を外れてくれて良かった。こんな自分、とてもじゃないが見せられない。好きだと言うことがモロバレに違いない。
……赤葦くん、本当に優しいな。
言われた言葉を思い出して、胸がキュウとなって、へへって思わず笑いが漏れた。でも、自分らしくないなと口を引き締めた。

「(ヤバ……俺、なに言ってんだ)」

だから、タオルを取りに行った彼の耳が赤くなってることには、全く気づかなかった。



しばらくしてタオルを持って戻ってきてくれた赤葦くん。傷口を覆わないように、傷口の下へタオルを結んで血が滴るのを防いでくれる。

「歩ける?」

「も、もちろん」

ゆっくりと立ち上がって、一歩踏み出せばズキリと痛む。けれど、我慢してもう一歩踏み出す。

「あとは、大丈夫だから、授業戻って」

お礼、お礼、お礼の言葉よ出てきて!!……あれ、お礼の言葉ってなんていうんだっけ?

「保健室までついていくから」

「い、良いって!」

こんな言い方しかできない自分にショックで視線は足元を彷徨う。なんで好きな人にこんな言い方してんのよ。
“玉砕”はもはや私の首からプラカードのように下がってる。


「迷惑?」


彼の口から出た言葉も、不安そうな彼の表情も理解できなかった。迷惑かけてるのはどう考えても私。

「ちがっ!……迷惑は、私が!」

「違うなら良かった」

彼は私の肩に腕を回して支えてくれる。おかげで先ほどよりスムーズに足が出た。
でも、そんな事よりもこの密着に体中で緊急警報が鳴っている。
赤葦くんが…近い!!
横顔がすぐそばで、肩に回された手がなんか、もうッ!!!!

「あっ、あっ、か!」


「俺が好きでやってることだから、気にしないで甘えてよ」


好き、甘えて、好き、甘えて、好き、俺が好き…
その言葉だけがリフレインして、噴火した頭ではそれからのできごとを記録することは不可能だったみたい。気が付いたら保健室の先生にガーゼ当てられてた。もちろん赤葦くんはどこにもいない。
美味しいところを堪能できない残念なやつです。結局お礼も言えませんでした。

ふと、自分が握っているタオルをよく見ると、スポーツブランドのロゴが入っていた。これはもしや、赤葦くんの部活用のタオルなのでは……?
そういえば、水道の近くには部室棟があった。私、気づくの遅くないか?
だとしたら、この血塗れのタオルは赤葦くんのもので、赤葦くんの部活用のお気に入りのもので、日頃赤葦くんの汗を吸い取るために頑張ってるやつで、赤葦くんのあんなところやこんなところを拭いてる…っ!!思わずタオルを鼻のそばへやりスーハーするも鉄臭い。
あ、このタオルなかったら、赤葦くん今日の部活困るのでは?
そこまでようやくたどり着いた思考。赤葦くん、赤葦くんうふふ〜なお花畑脳内も、ショックの嵐によって流された。

「もう、終わりだ」

「は?このくらいの怪我、大したことないわよ!」

テープを巻き終えた先生が呆れたように傷口を叩いて、痛みが現実を教えてくれた。
神様わかってます。

次回予告は、……“玉砕”。



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