01
伊佐敷くんとは二回目の隣の席。
嬉しくて内心でガッツポーズした。
春に初めて隣になった時、一目惚れ。
口は悪いけど、意外と真面目に授業聞いてたり、あとチラリと見えたクマちゃんシャーペンが筆箱に潜んでいるとこ可愛い。
試合の応援もクラスの女子に紛れて何度か行ってるけど、野球してる時は本当にかっこよくて…
好きになって、しまいました…。
話したことはあんまりない。
隣の席特権で、授業中向かい合って教科書の読み合わせや、小テストの答え合わせとか、その時に二言三言。
完全に片思いだよ。
辛い。
でも好き。
何か進展が欲しくて話題を探す日々は無駄に終わっていく。
それが、ある日、チャンスの神様は突然現れた。
お昼休み、いつも彼は野球部のメンバーとお昼を食べに行くのに、今日はあろうことか椅子に座ったまま。
むしろしばらくしたら、彼の周りにわらわらと野球部のメンバーが。
その中に、同じクラスのあいつはいないことに安堵する。
「伊佐敷のクラス結構人がいるんだな」
野球部のキャプテンくんが、周りを見回す。
確かに今日は雨だから、普段に比べたら割と多くの人が教室にいた。
「席足りねぇから他行くか?」
きっともうすぐしたら、友達がお弁当を食べに私の席へやってくる。
それを待っていた私だけど…
「あの…良かったら、席使って、ください」
勇気を出したけど、恥ずかしくて声が小さく尻すぼみ。
しかも、思わず敬語とか…ありきたりすぎるだろ。
「あん?!」
「ヒィ!!?」
「みょうじ、ここで飯食うんじゃねぇのか?」
「……」
「…あ゛?」
「なっ…いや、あの、えっと…友達のとこ、行くから、机、使ってください!!」
「伊佐敷、それ恐喝」
「あ、おい!!」
慌ててお弁当を抱えて、逃げるように走って教室を出た。
名前呼ばれた!
苗字だけど!
知ってたんだ、私のこと!
存在してた!彼の中に!!
「隣の人の名前くらい覚えてるでしょ。大袈裟なんだから、なまえは」
「だって、まともな会話したことないんだよ?!今日が初めてでめっちゃ感動した!」
「まともな会話、してないから。
てか、いつからそんな乙女になったわけ?」
「恋したら!人間は!乙女になるんだよ!!」
「余裕なさすぎでしょ」
友達はケラケラ笑うけれど、私には大進歩。
今日は占い最下位だったのに超絶ハッピー!
デレデレの緩みっぱなしの顔は、抓られたけれどそれも許しちゃうほど今の私は浮かれてる。
思いの外、友達と話し込んでしまい、教室に戻ったのは授業開始五分前。
慌てて席に戻った。
「みょうじ」
今、誰か素敵なボイスで私を呼んだ?
「…チッ…みょうじ!」
「はひ!?わ、わたし?!」
私しか他にいないその苗字。
恐る恐る私を呼んだであろうその方向に顔を向ける。
ひどくぎこちない動作で。
するとどうでしょう。
あの目下話題沸騰中の伊佐敷くんが、こちらを見ているではありませんか!
顔怖いかっこいい鼻血でそう…。
「机、悪かったな」
「あ、ううん、大丈夫だ、で、す、よ」
「…ブッ!フハハッ!なんで敬語になんだよ」
これ、今日、世界滅亡するんじゃないかな?
伊佐敷くんが私を見て笑ってますよ?
「なんと、なく?」
「そーかよ。授業、始まっちまうぞ」
彼はまたクスッと笑った。
私の机の上には空いたお弁当箱が載っているだけで、教科書もロッカーだ。
それなのに、笑った彼に見惚れてしまっていて、始業のチャイムと先生が教室に入ってきたことでようやく現状を理解した。
「あ、教科書っ!!」
AofD 伊佐敷くんと付き合うまで [ 01 ]