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※大人及川×18歳ヒロイン

社会人になって、ようやく仕事も生活も安定し始めた二年目。
人付き合いでの合コンとか飲み会とか、楽しかったりするのは大学までだったなぁ。

「ねぇ!岩ちゃん!」

「あ?」

「もう飲み会ばっかでうんざり…何か断る口実ないの?!」

少し多めに含んだビールが心地よく体に染み渡る。

「理由なんて適当に、断れば良いだろ?…てか、これも飲み会じゃねーのか?」

男二人で赤提灯ぶら下がる大衆居酒屋。
焼き鳥片手に進むビールは、美味しくて困る。

「これは、いわゆる男子会!」

「やめろ、キメェ」

後頭部を叩かれても気にしない。
そう、これは男子会。
気取ったり、気を使ったり、色んなこと考えなくて良い楽しい会!!
別に合コンや飲み会が嫌いってわけじゃないけど、疲れるんだよね!うん!!
だから、断る理由が欲しくて思い悩むのに、口から出るのは肯定。
自分でもどうかしてると思う。
溜息を隠すようにもう一度流し込む。

「そんなにこの間の連絡取り合ってた女が良かったんか?」

そう。
こうなってしまっているのは、失恋という深い傷。
追いかける恋なんて滅多しないくせに、たまにやると全く上手くいかない。
一体何がダメだったのか。

「う…岩ぢゃん、その話は今日はよしてよ!俺は今…!」

「ネギまとポンジリお待たせしましたぁ!」

泣き言の途中を華やかなか声が遮る。
二人の間に、照り照りとした焼き鳥が置かれた。
ポンジリ食べよ…

「…なまえ…?」

手を伸ばしかけた時、岩ちゃんが不意に呼んだ名前は随分聞き慣れているはずなのに、誰のことか一瞬では思い出せなかった。

「ん?…あ、れ?もしかして!一くんと徹くん?!
え?!嘘!?懐かしっ!!」

顔を見れば、少しうーんと考える。
高校生とか、大学一年生とか、子どもと大人の境目にいるような、綺麗よりは可愛い顔の女の子がそこにはいた。
幼さが残るその顔は見覚えがあるような…。

「…徹くん、覚えてないの?隣の家のみょうじなまえだよ!小さい頃よく後ろに付いて歩いてた!」

「お前、よく子守りさせられてたろ?」

深い記憶の奥底を掘り起こせばようやく微かに光が射す。

「え…なまえ?あのちっさかった、なまえなの?!」

思わず大きな声が出て慌てて口を塞いだ。
中学に上がる前までだったと思う。
学校が終わってランドセルを置きに帰ると、小さな女の子が家に来ていた。
隣の家のなまえ。
夕方親たちが忙しい時間、遊んで欲しいと隣のおばさんに頼まれた。
最初は嫌々だったのに、「とーくん」とあどけなく自分を呼び、服の裾を掴む彼女の可愛さにメロメロになった俺は行く先々を連れて歩いたなぁ。
公園に一緒に行ったり、雨の日は部屋で絵を描いたり、岩ちゃんも一緒に遊んだっけ…なんて記憶がはっきりと蘇った。

「うっわ!突然大きくなっちゃってるよ!!なまえいくつになったの?今は…」

「なまえちゃーん!戻ってきて!」

「あ、ごめん!二人ともまだ飲んでくよね?あと少しで上がりだから!」

また来るねと言って、店長に呼ばれた彼女は店の奥に入って行った。


愚痴もすっかり忘れて、随分久しぶりだねーなんて岩ちゃんとしばらく昔話に花を咲かせていたら、エプロンを外して髪を解いたなまえが俺たちの席へやってくる。

ワイシャツは第二ボタンまで開けていて、華奢な首筋にかかる髪を煩わしそうに避ける姿は先ほどの可愛さはどこへやら…。
艶っぽさが垣間見えて、驚きで心臓が跳ねた。
驚きで。

「本当に久しぶりだよね!
この春に高校卒業で、卒業式までの自由登校の間ここでバイトしてるんだ!二人はえっと…25、だっけ?」

俺の横に腰を下ろしたなまえは俺たちの顔を覗き込む。
嬉々としたその表情はやっぱり子どもだよ、子ども。

部活を頑張りたくて、地元から離れたこっちの高校に進学し、一人暮らしをしているんだとか。
そんな積もる話をお互い聞き合った。
トイレから戻ってくる時に目に入った時計の針は、10時を随分前に過ぎていた。

「ってか、帰らなくて大丈夫なわけ?」

「こんな時間!?やば!」

「及川、近くだろ?送ってやれよ」

「えぇ!この歳になってまで子守り?!」

「ちょっと!徹くんヒドいから!もう子どもじゃないですぅ!」

彼女が慌てて荷物をまとめる様子を見て、岩ちゃんに肩を叩かれる。
俺の住んでるマンションの近くのアパートだとか言っていた。
仕方ないなぁとわざとらしく溜息を吐いて、自分もコートを羽織る。
岩ちゃんはもう少し飲んでくと言うから、お金を置いて先に出た。


「ふふ!今日はすっごく幸せっ!」

電車の中でも始終楽しそうに話しをしていた。
最寄り駅に着き電車を降りれば、俺の腕に飛びついて密着して歩く。
飲んでるのって俺で、こいつじゃないよね?
ニコニコしている幼馴染を見れば、無下に振り払うこともせずそのまま歩く。

「何がそんなに幸せなわけ?」

「だって、徹くんだよ?最後にちゃんと話せたのは徹くんが高校卒業する時だよ?
ずっと会いたかったんだ〜!!」

「え?そうだっけ?」

「ねぇ、高校の卒業式の時、私がなんて言ったか覚えてる?」

突然、ピタリと止まる足。
高校?それ何年前よ?つか、なまえ何歳だった?
小学生?

「覚えて、ない?」

むっとした顔がちょっと可愛い。
昔、「今日は女の子の友達もいるよ」って言うとよくそんな顔してたなぁ。

「私、気持ち変わってないよ?」

思い出せないから、謝罪の言葉を口にしかけた時、伸びてきた手に言葉が詰まる。

スローモーションの出来事は止められない。

気付いた時には背伸びをしたであろう彼女の閉じられた瞼と長い睫毛が視界に入った。
頬に添えられた手、唇には柔らかな感触。
離れた瞬間にふわりと香るのは、先ほどまで居酒屋にいたとは思えない、甘いフレグランス。
そして思い出すのは、あの日の言葉。


『私、徹くんと結婚する!!』

『あはは!なまえが大人の女性になったらね〜』


あの時俺は軽く受け流していた、小さな告白。
それがまさかの波乱を呼ぶなんてちっとも考えていなかった。

「じゃ、徹くん送ってくれてありがと。
あ!さっき徹くんがトイレに行ってる隙に一くんに連絡先聞いたから、あとで電話するね!」

スマホで投げ寄越すキス。
ディスプレイに表示されていたのは、確かに俺の番号。
い、岩ちゃんッ!!!?
なんてことを…っていうか、今なまえが、俺にキス…!

パニックに陥る自分の脳内はただ彼女の名前を呼ぶことしかできず。

「ちょ、なまえ!!!」

「とーるくーん!おーやーすーみー!!」

すでに遠くに見えたそれは手を振り返し大きな声でそう叫んだ。
激しく脈打つ心臓は脳内を余計に混乱させ、真っ白になる頭。
唯一、唇に残る感触が現実を教えた。


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