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「#エロ」のBL小説を読む
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03
「なまえ、大丈夫?」

日曜日、澤井の彼女と二人でやってきた梟谷学園高校。
見慣れない校門を潜り抜けたところまでは良かったが、体育館へ近づくにつれて明らかに重くなる足取り。
それは一緒にいる友人にも伝わってしまったようで、心配そうに声を掛けられた。
とはいうのも、友人の彼氏と木兎とは所属部活が違うために一緒に居れるのもここまでなのだ。

後はなまえ一人で見に行かなければいけない。
彼氏が待っているであろう友人をこれ以上足止めするわけにもいかず、心配させまいと笑顔で「大丈夫だよ」と頷いた。

「・・・どうしよう」

しかし、いざ一人になるとどうしていいか分からなくて思わず独り言ちる。
既にボールの音が聞こえてくるくらい体育館は近いのに、それ以上進む事が出来なかった。

梟谷は他校で、知り合いといえば気まずさを残している木兎だけ。
しかもその木兎に見に来ることは伝えていない。
更にいえば、女子高であるが故に男子の部活を見学するという経験もなく、これだけ条件が揃っているのに、それでも我が物顔で中に入るという度胸をなまえは持ち合わせてはいなかった。

だから結局扉の外から密かに見ることになるわけだが、出来る限り近寄ってみれば、開いている扉はボールが外に出ないためかネットが掛かっていたけれど、何とか中でプレイする人が見えた。

「あっ・・・」

後ろ姿だったけれど、なまえにはそれが木兎だとすぐに分かった。
いつも密かに見ていたその姿を間違える事はない。

連絡を交わしていた時の内容から、いつか見てみたいなと思っていた木兎のプレイを見れるとあって浮き足立ち、目を細めるようにしてジッと見つめる。
しかし、何度か繰り返されるプレイを見て首を傾げた。

なんか、元気ない?
点が入ったのに喜びを表さず、どことなく肩を落とす仕草。
そして不自然なくらいに木兎へと上がらないトスに調子でも悪いのかと疑ってしまう程。

しばらくそのまま見ていると、スクイズを手に持った二人組が外に出てきたのを何気なしに目で追うが、聞こえてきた会話に耳を傾ける。

「やっぱり木兎の調子でないとダメだね」
「ペナルティ、多い」
「赤葦も結構キてるっぽいし・・・やばいなぁ」

木兎、という単語に敏感に反応して聞き逃さないように拾えば、どうやらなまえが思っていたとおり木兎の調子は悪いらしい。
何かあったのだろうか、と思った瞬間。一つの可能性に思い当たりサァ・・・と血の気が引いたような感覚が身体を巡った。

スマホを取り出してトーク画面を遡って見てみれば、あの日から明らかに変わってしまった態度。
一目見て分かるほど減ってしまったメッセージ。
時間を変えてしまい会うことが無くなった電車。
思い違いであればそれでいいが、もし自分の所為だったらどうしよう。と、自業自得なのだけれど頭を抱えたくなった。

「あ、」
「え!もしかして!」

先程の2人組だろうか。
驚いたような声が聞こえてスマホに向けていた視線をあげると、想像通りなまえの方を見て固まっている女の子達。
その瞳は揺れるクマのストラップとなまえとを交互に映して、お互い無言で頷き合った後に「お願いがあるんだけど」眉を下げてなまえに向かって両手を合わせる。

「ちょっとだけ来てくれないかな?」

言葉は下手な割に、逃がさないとばかりにグッと掴まれた腕は強制を示していて、半ば2人に引きずられるように体育館の中へ足を踏み入れた。

「ぼーくとー!」

体育館に響き渡る声に、呼ばれた本人のみならず全ての人が視線を向ける。
一気に向けられた瞳に驚いて後退りしそうになったが、木兎と目が合った瞬間、縫い付けられたように足が動かなくなった。

ゆっくりと見開かれる瞳。
段々と上がる口角。

まるでスローモーションのようにそれが見えて、心臓がキュッと音を立てる。

「よっしゃあ行くぜー!次俺に持ってこいよあかーし!!」
「はぁ・・・やっとですか」
「チッ、復活しやがった」

そう黒尾が呟いた言葉通り、さっきまで落ち込んで居たのが嘘のような活躍を木兎が見せて、劣勢だったにも関わらずこの試合は梟谷が勝利を収めることとなった。

「・・・すごい」

流れを変えてしまう迫力のあるスパイクに、つい口から感嘆の声が漏れる。
生き生きとしたプレイは想像していた以上にカッコよくて・・・魅せられて、腰こそ抜かさなかったが目を離す事が出来なかった。

電車の中で見かけていたときに感じた、明るい雰囲気と文面から感じた朗らかな性格。
なまえを呼んでくれた時の、あの笑顔。

そして今、目の前で満面の笑みを浮かべて喜ぶ姿を見て、なまえの中で淡く芽吹いていた想いが確信的なものに変わった。

木兎が好きだと、ココロがそう伝えてくる。
手に持ったままだったスマホをキュッと握りしめて、もう片方の手でクマのストラップを無意識に撫でた。

ポーッと木兎を見ながら、さっきのプレイを頭の中で反芻していたなまえは、自分の方へと向かってくるその姿にさえ見蕩れていて、目の前でその足が止まった時、ふと我に返った。

「なまえちゃん」
「っ、・・・はい」

声を掛けられた事で漸く逃げ場を失った事に気づいたが、自分の気持ちを自覚したなまえは込み上げる恥ずかしさを抑えながらも木兎と向き合う決意をする。
グッと顔を上げて木兎に視線を合わせた。

「来てくれたんだな!」
「う、うん。連絡も無しに来てごめんね」
「全然ダイジョーブ。スゲーやる気出た!」

本当に嬉しそうに満面の笑みを浮かべる木兎に、心臓が素直に高鳴った。
どうしよう、何を話そうとなまえが頭の中で忙しく考えていれば「木兎さん」と、横から聞こえてきた声に顔を動かす。

「丁度休憩入るみたいなんで、外で話してきた方が良いですよ」

皆、興味津々みたいですし。
赤葦が告げたその言葉に木兎もなまえも周りを見渡せば、殆ど全ての人が自分達に注目していて、ムッと口を尖らせた木兎は「そーするわ」と、さり気なくなまえの腕を引きながら外に出る。

しかし遠くに行くわけにもいかず、結局木兎が選んだのは人気の無い体育館裏だった。

「今日バイトは?」
「えっと、休みで」

隣同士、1人分の距離を空けて壁に背を預ける2人。
緊張していたなまえも、会話を交わすにつれて普段の調子が戻ってきていた。
ぎこちなかった表情にも、段々と笑顔が浮かぶ。

「1人で来たのか?」
「ううん。澤井くんの彼女と一緒だよ」
「あー、アイツ試合って言ってたな」

タオルを置いてきてしまったせいで、流れてくる汗を何度も肩口で拭っていた木兎だったが、止まらないソレに面倒になったのか裾を掴んで顔全体を拭いだす。

必然的に晒された腹部には鍛えられた筋肉が見えて、バッチリと視界に収めてしまったなまえは免疫がないせいで瞬時に赤くなってしまった。
女子高で、兄弟もいないため普段目にすることの無い男の身体に動揺を隠せない。

「あのさ!」
「は、はい」

俯きながら熱くなった頬を確かめるように手を当てていたが、木兎から発せられた強めの言葉に驚いて再びその顔を見上げた。

「俺、考えんの苦手で。考えても良く分かんねーから聞くけど」

すると、先程よりも真剣な面持ちをした木兎を見て、上がっていた熱が急激に下がっていくような感覚がした。

木兎がなにを言うのか、想像がついてしまったから。
まだ、さっき自覚したこの気持ちを伝える勇気までは持てていない。
だからお願い、聞かないで。
なまえがそう祈ったのも虚しく、木兎は核心に迫る質問を投げかけた。

「なんで、電車の時間変えたの?」



by 神無様


HQ きみが揺らしたストラップ [ 03 ]