- ナノ -
02
彼氏が出来てからというもの毎日のようにいろんな話を聞かせてくれる友達から、お願いがあるの!そう眼前で手を合わせて頭を下げられたのは丁度二週間くらい前。
突然どうしたものかと普段から3人で仲良くしているもう1人の友達と、そのお願いとやらを聞いた私は、その時少し悩んでしまった。

「話が弾んで紹介してあげるって言っちゃったの〜!」
「彼氏にいい顔したいのは分かるけど先に確認してからOK出しなよね」
「ごめん、反省してる!」

少しの文句を零しながらも友達はこの話に乗ってあげるらしい。確かに彼氏は欲しいし、女子高じゃなかなか出会いはないから素直に言えばこの話はとても魅力的…でも、

「なまえはどうかな?」
「んー、どうしよう」

快諾してあげたい気はするものの明確な返事を出さずに渋っていると、一緒にお願いされた友達が痛いところをついてきた。

「もしかしてだけど、なまえ好きな人いる?」
「えっいや、好きとかじゃないよ!」
「その反応はいるってこと?うそ、誰?!」

さっきまでお願いモード全開だった友達まで身を乗り出して詰め寄ってくるから、一瞬たじろぎつつもその彼の話をする羽目になる。

「へぇ、毎朝電車が一緒の他校生か」
「いいな〜、なんか青春って感じするね」

いつも同じ電車に乗り込んでくる背の高いその彼は、多分隣駅の梟谷の生徒だと思う。運動部で朝練でもあるのか結構早目の時間に通学している私とほぼ毎日同じ電車で、話したことなんて一度もないけど特徴的な髪型と早朝なのにやたらと滲み出ている明るそうな雰囲気にいつもこっそり目がいってしまう。

「そう言えば彼氏、梟谷じゃなかった?」
「うん。あっ!もしかしたらもしかしたりするかもじゃない?」

私を差し置いて盛り上がる2人にそんな偶然ないとは思いつつも、続けて、だからお願いなまえ〜!と言われればしょうがなく折れてしまう。まぁ電車の彼がほんの少し気になるのは本当だけど好きかと言われればまだyesと答える程ではないし、今はいっかな…そんな気持ちで結局OKすることにした。





「よっ、こみやん」
「おう黒尾、今日からまたよろしくな」

バレー部が使用している体育館の前でそう挨拶を交わすのは小見と黒尾。今回の合宿は梟谷が担当校となっていた。

「ところでこみやん、あいつなんなの?なんでスタートからしょぼくれてるわけ?いつもより3割増くらいで面倒くさいんですけど」

黒尾が指すのは木兎の事で、その問い掛けに一度視線を木兎に移した小見は呆れたように笑いながら答える。

「あいつ今、恋の病真っ只中なんだよ」
「は?」
「しかも良い感じだったのに自分でヘマして現在気分はドン底ってやつ」

小見から返ってきた意外な答えに、マジか。と一言落としてもう一度木兎を見る黒尾の後ろから今度は木葉の声が届く。

「そりゃ相手はビビるわな、毎日連絡取ってたとは言え顔知らなかった訳だし。軽率に声かけちゃうあたりが本当直情型だよな木兎は」
「悪いんだけど話まとめて貰っていいですかね、掴めないんですけど」

黒尾の発言に、しょうがねぇな〜。と言いながらもどこか乗り気の木葉が一部始終を説明した。

話はこうだ…
あの日、電車の中でみょうじなまえが目の前の彼女だと分かり、降りたホームで扉が閉まる間際声を掛けてしまったことが全ての始まり。
半分勢いとは言え勿論木兎は良かれと思って声を掛けたし、彼女の反応から間違いなく毎日連絡を取っている子が目の前の彼女だと分かったらしいが、その晩彼女からの連絡がピタリと止まったのだ。
翌日の朝には返事はあったものの、それからと言うものどこかぎこちなくおまけに朝の電車に彼女の姿はなくなったらしい。

「…タイプじゃなかったってことか」
「言ってやるなよ黒尾、それ1番ツライやつだからな」

黒尾と一緒になって木葉と小見が話していると、またその話か…とでも言いた気な赤葦がやって来て、そろそろ始まりますよ。と声を掛ける。

「普段から大変なのに余計に大変だなお前も」
「分かってくれるなら今回は変なちょっかいかけないでくださいね黒尾さん」
「今回はって何だ!まるで俺がいつも変なちょっかいかけてるみたいじゃねぇか!」
「え、自覚ないんですか…?」

合宿初日、しかもまだ練習開始前だと言うのにここ数日の木兎の世話のせいか他校の主将にですら既に当たりのきつくなっている赤葦を小見と木葉が宥めながら全員で体育館に戻った。





ここ数日、私は通学の電車の時間を変えている。

「おはようなまえ」
「おはよう!」
「おはよー2人とも」

今までなら3人の中で私が一番に学校に着いていた、でもここ数日は友達の方が早くに着いていてこうして机の前で出迎えられる。

「今日も木兎くん避けて電車ずらしたの?」
「うっ、」

友達が木兎くんの名前を出すからドキドキと心臓の音が煩くなる。
友達とその彼氏伝いにメッセージのやり取りをするようになった木兎くんが、まさか本当にあの電車の中で毎日見ていた彼だったなんて思いもしなかった。
あの日、電車を降りてこっちを振り返った彼が「気を付けて帰れよ、なまえちゃん!」そう言った笑顔と声が未だに忘れられない。
奇跡みたいなこの展開が嬉しいのにあの日以来同じ電車に乗る勇気がなくて、今まで楽しいって気持ちだけで返していたメッセージも言葉を選ぶからぎこちなくなってしまう。

「だって、絶対最近変だって思われてるもん…」
「なまえが避けるからでしょ」
「だってあの彼が本当に木兎くんだったなんて思わないじゃん!突然そんな事実突きつけられても緊張して話せないよ〜」

鞄を机の横に掛けてヘナヘナと自席に座ると、この展開の発端とも言える友達が得意気にスマホの画面を私達に見せてきた。

「そんななまえにいい話があるんだ!」

そこに表示されていたのは恐らく彼氏とメッセージをやり取りしているアプリのトーク画面。そして丁度見えていたメッセージの内容を見て私は即座に、無理!と言葉を発していた。

『今週の日曜うちで試合やるから観においでよ!土日だし応援で入ってこれると思うから。あとバレー部も他校呼んで合宿やってるから木兎もいるし、木兎と連絡取ってる友達も誘ってきてもいいしさ』

「ね、行こうよなまえ!」
「無理だってば!唯でさえ会うの恥ずかしくて電車の時間ずらしてるんだよ?」
「そんなんじゃ何も進展しないじゃん、木兎くんのこと好きなんじゃないの?」
「!!」

はっきりと問われると否定出来ない。
毎日ほんの数分間乗ってる電車の中でこっそりと目で追って、本人とは知らないままメッセージのやり取りをしていた。ただそれだけなのに、その2つが結び付いた瞬間にこうも急に"好き"を自覚するなんて私って凄く単純なのかもしれない。もしくは雰囲気に流されてる?
でも、あの日の一言と笑顔を思い出すだけでこんなに胸の内が煩くなるんだ、だからきっと木兎くんが日々大好きだと語ってくれるバレーをしてる姿なんて見たら腰を抜かすと思うの。きっと、ううん、絶対かっこいいもん…!

「行ってきなよなまえ」
「でも、」
「私は週末バイトだから一緒に行けないけどさ、好きなら頑張れ!折角の出会いとチャンスだよ?」

そう言って頭を撫でてくれる友達に小さく、…うん。と返すと、じゃあ澤井君に見に行くって言っとくね!バレー部の方はどうする?一言言っといてもらう?と楽しそうに言うもう1人の友達に、絶対言っちゃダメ!と慌てて言って手にしていた自分のスマホとクマのストラップを握り締めた。
画面には、私が会いに行くなんて思ってすらいないであろう木兎くんとのトーク画面を表示させたまま…


by 雨果様


HQ きみが揺らしたストラップ [ 02 ]