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幼馴染は忠誠を誓う
私には付き合って半年の彼氏がいる。彼が彼氏になるまでに、すごい努力と血と涙と汗を流したのに、あっさり彼は「俺もお前のことずっと好きだった」なんて。もっと早く言ってよ。むしろ本当かよーって信じられなかった。だって彼はずっと他の女の人に夢中だったから。

「夕くんって私のどこが良かったの?」

私たちの関係はいわゆる“幼馴染”だ。私を“女”として認識するタイミングはあったのだろうか?
夕くんの部活が終わるのを待って、二人で並んで帰る、帰り道。

「ん?んん〜…お前は忘れてるかもしんねぇけど」

あったんだ…!
自分で聞いておきながら衝撃が隠せない。

「小学校上がる前かなー…なまえがお姫様役やったことがあったろ?保育園の劇で」

……随分と古い話を持ち出され必死に記憶を辿る。そういえばそんなこともやった。お姫様っていうか、オズの魔法使いのドロシーだけどね。

「あの時、両サイド三つ編みしてる姿が思いの外、胸に刺さった!」

「え」

「あ?」

「ドロシーの服じゃなくて三つ編み?」

「服?どんなの着てたっけ…?」

なんだそれ笑ってしまう。しかもそれをお姫様だと思ってたのか今の今まで。さすが夕くん。大雑把に輪をかけた男。ボールを拾う時だけ丁寧。
それでも結構前から私を意識してくれていたんだね。それは素直に嬉しい。

「お前悪口考えてね?!」

「気のせいです。ねぇねぇ!じゃあ、当時を思い出して可愛いお姫様兼彼女に跪いて王子様みたいに手の甲にキスしてよ」

「は?」

冗談半分で言ったのに、固まってしまった夕くんにもう一度笑った。

「できるわけないよね〜。そういうキャラじゃないし。冗談でした」

彼の肩を叩いてごめんと言えばひどく眉間に皺を寄せられる。

「お前そんなことやって欲しいのか?」

やって欲しいかやって欲しくないかで言えば、やって欲しい。夕くんが私を女の子扱いするところを見てみたい。付き合って距離感が変わったかと言えば、ほんの少しは近づいたと思う。けれど接し方が変わったというほど変わったわけでもなくて…。よそよそしくならなかったのは良いことだと思うけれど。
それに二人になった時はまぁそれなりに、うん、違うし…。そんな思考に行き着いて少しだけ顔が熱くなる。

違う。そうだお姫様に跪く話だ。潔子さんにはやってたの知ってるんだからな。
でもだからって、私が同じように対応してもらえるわけではないことはわかっている。

「冗談だって。夕くんは見下ろされるの好きじゃないでしょ?」

「おい、その発想はどこからきた?事と次第によってはアレだぞ?」

「失言デシタ」

「別に嫌じゃねぇけど…」

頭を掻く彼にやってくれるのかもなんて一瞬期待の眼差しを向ければ、じと目で見られる。

「今から跪く王子様はそんな顔しないよ。帰ろう?」

お願いしといて、万が一夕くんにそんなことをされてしまえば恥ずかしくてどうにかなってしまう。こうやって強がっていられるのも今がそういう雰囲気じゃないからで。

それなのに、背を向けて歩き出そうとすれば指先を掴まれて振り向かされる。
男の子の力ってやっぱり強い…。
夕くんを良く知る幼馴染だと侮っていたのは私の方かも知れない。



「なまえ。俺のお姫様」



手のひらが誘導されて夕くんの頬に添えられる。

「……おい!恥ずかしいことさせたのそっちだろ?!ちゃんと見ろよ!」

「無理ぃぃぃ…死んじゃうからやめてぇ」

いくら夜道とはいえ、歩道の真ん中で二人で赤面してなにをやっているんだ…。お願いしたのは私だけれども。夕くんの時々ノリが良すぎるところ問題だぞ。
せっかくやってもらった、夕くんの“跪く”をまじまじと見ることもできず、掴まれていない手で顔を覆って彼と同じ目線で座り込まざるを得ない。
だって絶対かっこよすぎるし、適当な軽口叩けなくなる。

「も、わかったから、手を離して…」

私たちはお互いこういうキャラじゃない。離して欲しくて手を強めに引っ張ば、逆に「なぁ!」と引っ張られた。

「なまえ上!上見てみ!飛行機!」

飛行機?今この状況で飛行機関係ある?!飛行機なんて別に珍しくもないのに、そう突然言われて思わず顔を上げ……た……。

ちゅっと音を立てて離れた顔が妖艶ににやりと笑っている。
これは日常でもバレーの時でも見ることができない、二人の時だけの夕くん。




「まぁどっちかってぇーと…、見下ろす方が好きだな!」




顔赤い、なんて悪戯が成功した子供みたいに笑う彼に腕を引っ張られて立ち上がった。
どうやって家まで帰ったか覚えてないけれど、家の前でもう一度された濃厚なキスは忘れられないほど私の眠りを妨げた。





HQ short [ 幼馴染は忠誠を誓う ]