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キスの催促
岩泉×生徒会の女の子


ドサドサと鈍い音ともに「ぐえっ」という悲鳴にも似た声が自分から出たことに驚いた。
自分の周りに落ちたブルーの分厚いファイルブックや段ボール。ズキズキと痛む頭。血が出たんじゃないかと思ったけど、そんな様子はない。
今日に限って誰も助けてくれる人がいない放課後の生徒会室の中で、一人痛む頭を抱えてしゃがみこんだ…

「オイ、なまえ!」

その声は!?期待と嬉しさで勢いよく振り向くけれど、ズキリと痛む頭に出鼻をくじかれる。

「…は、はじめくん…」

潤む視界の向こうに確かに見えるはじめくん。

「ど、うして、ここに…?はじめくん…もしや、わたしの、ヒーロー?」

巷で流行のヒーローはついに私の所にも来てくれたのか。

「バッカじゃないの?自分が書類の確認に来てくれって呼び出したんじゃん」

この悪態は、大嫌いな及川徹。くっ…なぜお前までいる。でも、そうだった。
“体育館使用について”という書類を各部へ回覧として回したのにバレー部だけ主将、副主将のサインがなく来てもらったわけだ。待っている間に、溜まった書類を整理しようと思いファイルに手をかけた時の出来事。
大丈夫か?と心配しながら落ちたファイルを拾い元の所に戻してくれるはじめくんは本当に優しい彼氏。
半年前に及川の紹介で知り合って、一目惚れした私は少しずつ距離を縮めて行った。一か月ほど前に、ようやく私から告白して付き合い始めたので日は浅いけど、こういう優しくて頼もしいところとか本当に好き。

「ほんと、なまえはどんくさいよね」

「及川うるさい帰れ顔だけイケメンお前に用はない。嘘、ありました。書類見てサイン寄越せ」

「それどういう態度?人にものを頼む態度じゃないよね?」

ファイルをぶつけて痛めた頭のてっぺんをわざとらしくグリグリと押してくる。
痛いっ、痛いっ…!

「やめてやれ」

及川の手をどけてくれるはじめくん。

「やっだー岩ちゃんってば、ヤキモチ?」

「うるせー。クソ川ちゃんとサインしとけよ。俺、こいつを保健室連れてってくるから」

「え!?」

なにその展開!?フラグ!?もしかしてフラグ立ってます!?
胸の高鳴りが鳴り止まない私の腕をはじめくんが引いてくれて、及川はヒューと冷やかし見送ってくれる。握られている腕が熱く感じるけど、そんなことより…
保健室で!!はじめくんと!!


「ちゃんと冷やしなさいね」

「ハイ…」

保健室に一人投げ込まれた私は、優しい保険医の先生に手厚い治療(アイスノンを渡されただけ)を受けた。
そりゃそうか…。そう簡単に二人っきりになれるわけなんてないか。無人の保健室なんて、学生カップルにしてみれば夢見る桃源郷。
しょんぼりせざるを得ない。
だって本当ははじめくんとイチャイチャできるんじゃないかって、すっごく下心たっぷりで期待していた。なんせこの一か月と言うもの、はじめくんと両思い(?)になれたと思っていたけれど、手を繋いで帰ったのが一回だけ。一回だけ!!それ以外は、一切の接触行為をおこなっておりません!
今どきの高校生にあるまじき純粋なお付き合いをさせていただいてます。

…そんなんじゃ私は物足りない。

だって好きなんだ。もっと触れたいし、キスだって、その先だってはじめくんとしたい。
焦ってるわけじゃないけど…。はじめくん、メッセージのやり取りも簡素だし、おしゃべりでもないし…いやそういうとこが好きなんだけども。かっこいいし、気取ってないし、優しいし、時々ふっと笑う笑顔が可愛いし…うん、好き。すっごく好きなんだ。
でも…私だけ、好きなのかな?



先生にお礼を言って、保健室を出た。

「なまえ」

「ひぇっ!!?…はじめくん、待っててくれたの?」

「まあ」

「へへ、それは待たせてごめんね?体育館前まで送るよ!私ヒマだし!」

二人で歩き出すけれど、弾まない会話。
いつもほとんどの時間を私が一人でしゃべってるだけなんだけど、今は一生懸命話題を探す。

「なあ…」

はじめくんの発した声に足を止め振り返った。視線を下げたはじめくん。
え…?なに?え…まさか…
悪い予感しかしなくて、一瞬で私の気持ちは焦りへと変わる。

「だ、だめ!!やだ!!!!」

「は?」

どうしよう…絶対にいや…
ドラマや漫画で見る別れ際に縋る女みたいにはなりたくないと思っていたのに。

「別れたくない!はじめくんと、わかれたく、ないっ…!私、うるさいなら黙るし、鬱陶しいなら控えるし、はじめくんに好きになってもらえるようもっと努力するから…!」

自分でも驚くぐらいの大粒の涙がこぼれる。
きっと引かれるのはわかっているけど、やだやだと私は首を振った。

「ちょ、ちょい待て!ちゃんと話を聞けよ!」

「やだぁ!別れ話なんて聞きたくない!!」

「ちげえよ!……ただ、及川と、距離が近ぇって、言いたかっただけ」

「…え?」

心の中で彼の言葉を繰り返す。
瞬きでクリアになった視界の先に映ったのは、恥ずかしそうに少し顔の赤いはじめくん。
それはつまり、そういうこと?及川が言っていた“ヤキモチ”ってやつ?はじめくんが、私に?

「バカなこと考えてんじゃねーよ」

「はじめくんに、好かれてないって、思ってた」

「なんで?」

本当にわからないといった感じに頭を傾げられる。ということは、はじめくんはちゃんと私を好きでいてくれているらしい。
私ははじめくんに近寄った。そばへ立つと私より少しだけ高いその身長。見上げれば、少し開いた三白眼。

「もっとはじめくんに触れたい」

彼の襟首を掴んで背伸びをした。強引に当たる唇は思ったより柔らかい。
二人して赤くなる。
いくら放課後の廊下だといっても人通りがないわけではないのに、この大胆な行動。でも、これが素直な私なのだからしかたない、と思いたい。

「は、はじめくんが!好きだから!もっといっぱい色んなことしたいし、触れたい…」

言い切るとはじめくんは口元を抑えて視線を逸らした。はは、まあこの反応もらえただけでも良かったよ。そう思って胸をなで下ろしたのも束の間。今度は私の方が顔を上げさせられる。
さっきよりも、優しく触れる唇。


「俺も、もっと触れてぇって思ってるし、なんならヤりてぇし、……でも、お前のことを思えば気安くできねぇだろ」


離れた距離。彼の本音は愛に溢れていて。

「ちゃんと好きだから、他の男に気安く触られんな」

ちゃんと念も押される。
まさかはじめくんにそんなこと言われると思っていなかったから、真っ白になった頭とブワッと熱を上げる体。

先生、アイスノンをもう一つください…。




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