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「#年下攻め」のBL小説を読む
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誠意を込めて好きだと言って
「んで…今回はなんでフラれたワケ?」

黒尾がなまえの横に座れば、その腰に腕を回され抱きつかれる。こうやって甘えて来られるのも何時ぶりだと、思い返しながら頭を撫でてやる。
というのも、このなまえという女は、彼氏ないしその候補ができれば、途端に黒尾との距離を置く。変なところ義理堅い。だからといって、その面を彼氏やその候補たちが知っているわけではなく、フラれる原因は大体そこ。

「お前誰と付き合ってんの?とか言われた。私こんなに愛してるのにネ。」

愛している。
そう言いさえすれば男に愛してもらえるのなら、なまえの口からはそんな言葉はたやすく出る。
でも現実はそう簡単じゃない。

なまえは黒尾に向ける視線に対し“タダノトモダチ”と弁明するも、その言葉に伴わない対応の違いに、納得できない男どもは簡単に手放す。

「何それ?お前誰かと浮気でもしてたの?」

「ううん?…それがさ。黒尾くんとの関係を疑われてさ…。ヤキモチ?」

黒尾に深く溜息を吐かれ、私悪くないと不貞腐れる。その溜息には、「またか」とか「だよな」とか、呆れと納得と少しの優越感。悪いのはお前だし、もっと悪いのはきっとわかっていてやっている俺。

「お前、いい加減、俺から離れたら?」

「苦しい?」

「そうじゃなくて、俺離れしたら?」

「……やだ。それとも黒尾くん彼女でも作る気になった?」

その表情は見えないが、黒尾の腹に回る力が強くなった。

作る気になったと言えば、離れる気があるのだろうか?
その真意を黒尾は計りかねているものの、自分からこの状況を手放せないのも事実。都合が良い存在であっても、なまえに触れられるポジションが自分にとって一番好ましい。さらに、特定の“彼女”という存在がいないのは、理由は違えど結局黒尾も同じ。


「なまえに彼女になって欲しいんですケド?」


勢いよく顔を上げた彼女の顎をそっと撫でるように掴む。お互いの揺れる瞳の奥には心の内側が見え隠れ。

「…………ダメだよ」

動揺を隠せないまま否定するなまえに思わず吹き出す。

「くくっ…お前どんだけ俺の事好きなわけ?」

「ち、違うし!好きじゃないし!黒尾くんといるのが、ちょっとだけ、心地良いだけだし……好き、じゃない、もん…」

好きじゃないと呪文のように唱えるなまえが可笑しくてまた笑う。なまえ自身、どうしてこんなに自分が狼狽えてしまうのか、笑っている黒尾を見つめながら考えた先の結論に、一瞬で顔に熱が籠る。

「好きじゃねぇんだよな?」

ニヤニヤと締まりのない顔をした黒尾は完全に挑発している。

「好きじゃないっよ?」

そんな意図は混乱するなまえに伝わるわけもなく。ただ眉尻を下げる。
いつまでそうやって自分の気持ちに嘘を吐き続けるのか。付き合わされるこちらの身にもなってください、と黒尾は心の中で笑った。それでも今の関係が、繋ぎ留め方を必死に考えた末のことなのだとしたら。愛おしくもバカだなと黒尾は思うわけで。

不安げに向けられる視線に、黒尾の限界。奪うように唇を重ね、食い尽くすように口内を舐め取る。抵抗する手を纏めてベッドへ押し倒しても離さない。余裕なんて与えず、絶え間なくその舌を絡めて混ぜ合わさる唾液。

「っ…ぁ…」

なまえから小さく漏れる喘ぎ声に理性とサヨナラしかけたのをなんとか繋ぎとめる。


「まだ好きになんねぇ?」


必死に空気を取り込む姿は、余計に黒尾を欲情させる。けれど、なまえの目には薄ら涙と困惑の表情。

「…ばかっ!くろ、おくんは、ホントは、わたしなんか…好きじゃない、くせにっ!私が好きになったら、他の女の子みたいに嫌いになるくせに!」

肩で呼吸しながらそう罵る彼女の言葉を黒尾は反芻する。え、それ本気で言っているんですか?


「は?好きだけど?」


緩んだ手を口実に、なまえは勢いよく身を捩り黒尾の腕の中から抜け出しベッドを降りた。
今度は黒尾が困惑する番。黒尾は常々好きだとか付き合って欲しいとか言っていたが、どうやらなまえはそれを本気としては受け取っていなかった。
黒尾はなまえに倣って、彼女を作った。でもそれは“俺のこと本気になったら終わり”という条件下のもとで。黒尾自身は本気で付き合っているわけではないから、なまえ以外の女に本気になられても鬱陶しいだけだと思ってそうしていた。当然その理由で数多の女をフッてきたが、どうやらなまえの耳にも入っていた噂。

「く、くろおくんのばかっ!!」

弁明する余地もなく真っ赤に熟れた表情をしたなまえは、その捨て台詞を残して黒尾の部屋をどたばたと出て行った。
お互いに都合の良い存在でいるのは明らかな両片思いなのに、こんなにもまどろっこしくなった原因はもはや思い出せない。

残された黒尾は小さく舌打ちをした。

(あぁ…クッソ…早くなまえとヤりてぇ)

それでも口元はニヤけていて、携帯を手に取り彼女に“戻って来い”とメッセージを送った。



HQ short [ 誠意を込めて好きだと言って ]