- ナノ -
崩壊と再生
私は喋るのが苦手だ。
まず対人すると言葉に詰まるし、端的に伝えようと思ってキツイ言い方になってしまう。でも訂正する言葉も謝罪も動揺の陰に隠れて出てこないから、結局誤解されたままなんてことは、よくある。

「なまえ…そんなんじゃ赤葦くんに一生なんにも伝えられないよ?」

心配してくれるのは、こんな私を理解してくれているほぼ唯一の友人。

「わかってるー!でも、本人を前にすると、なにも言えなくなっちゃうんだもん」

赤葦くん。
二年でありながら、バレー部の副主将を任せられるほどの逸材で、かっこよくて、優しくて、紳士で……。彼を誉めるために形容する言葉はたくさんあるのに、本人を前にするとどれも陳腐な言葉に聞こえて、結局どれも伝えられない。私の性格も相まってしまって。

「簡単じゃん。好き、って言うだけだよ?玉砕するか、実るか、玉砕するかは、赤葦くん次第。」

「玉砕が多いから!」

成就するとも思ってはいなくて、そもそもに自信を持てていないのも事実。



そんな私にチャンスの神様は前髪を見せびらかしてくれたのだ。

「たいいく、いいん…」

「よろしく、みょうじさん」

名前を呼ばれてぎょっとした。今年一年間の委員会や係などを決めるくじ引きが行われ同時に席替えも行われたのだが、荷物を持って左隣へ移動してきたのは、かの有名な赤葦京治くん。

「あ、あ、あかあ、っし!!?」

「なに?みょうじさんって案外フレンドリー?じゃあ俺もみょうじって呼んでもいい?同じ委員会だしよろしくね」

決して呼び捨てにしたかったわけでも、こんな急な展開を期待したわけでもなくて。
彼の表情はちっとも変っていないのに、私は赤面して動揺して口をパクパクして、まぁみっともなかった。
だってまさか好きな人と同じ委員会になるとも思わなかったし、そんな日に席替えがあって隣に好きな人が越してくるなんて、夢妄想でなければ起こるはずがない。

神様お願いです、次回は予告してください。




数日後の体育の授業終わり。
男子はサッカーで女子はソフトテニス。さっそくこき使われる体育委員とは、その職、体育の授業での後片付けや準備など。
女子が使用したテニスラケットを両手に抱えて、体育倉庫へ急いで向かう。頭の中は隣の席になった赤葦くんと赤葦くんと赤葦くんと次の授業があるから急がなきゃってこと。つまり両手も視界も塞がって、精一杯だったのだ。
私はさっき好きな人と近付くチャンスをくれた神に、この直後恨みを向ける。

「うッあぁ!!」

自分の体は一瞬で宙に浮く。
辿り着いた倉庫の扉は閉まっていた。この両手に抱える溢れんばかりのラケットを一度降ろすべきか案じていた時、地面に並べてあったサッカーボールに気付かず、足元を掬われたのだ。
これは顔面から扉に熱いキスコース……。そう思って目を閉じ痛みを待つが、前のめりに倒れた体は一つも痛みがやってこない。

「みょうじ、大丈夫?」

聞こえる声に、目をゆっくり開けさらに、脳内はパニック。
もしやこの私の体を支える手は、私が好意を抱いている男子ではないのでしょうか?神様!?

「あああかっぁしっく!!!?」

あろうことか、自分の体を赤葦くんに支えられていたようだと気付いた時には、心が地面へ倒れていた。
神様、次回予告は!?
至近距離にある赤葦くんの顔に、ドッドッと体中に響く心音と急上昇する体温。大丈夫かと確認し直してから離れた彼は、腕に抱えたラケットを奪って倉庫の奥へ持って行ってくれた。

「ごめん。扉、勝手に閉まるからボール片付けるのに手間取ってて」

サッカーボールを入れる鉄製のボール籠は倉庫の奥にあって、そこへボールを運ぶとストッパーのない扉は自然と閉まってしまう。

「悪いけどみょうじ、手伝ってくんない?」

少し、ほんの少しだけ彼の表情に呆れと疲れを感じて、ってそんなの感じなくても喜んでお手伝いしますとも!!だって私はあなたと同じ体育委員!!
返事はせず(声にならなかっただけ)、大きく頷いた。

倉庫の中で扉を押えてストッパーの代わりをする赤葦くんへ、ボールを外から手渡しする作業。赤葦くんは私からボールを受け取ると、弧を描くように籠へ投げいれていく。ストンととてもキレイにおさまるボールたちが、いっそ嬉しそうにさえ見えた。

「さ、さ、さすが、じょ上手、デスネ!!ナイスシュート!」

「…………バレー部なんだけど」

「い、今のは、その……知ってるし!!」

あ、ヤバい。キツい言い方になってしまった……。“玉砕”がズゴンと頭に落ちる。これいらないから、優しい言葉よ落ちてきて!!


「まぁ、でも……バレー以外で褒められるのも悪くないね」


光の速さで私の心臓へと隕石が落ちてきた。
私の世界は今日、崩壊と再生。
赤葦くんが、少しだけ、笑った……。クールで、無表情で、冷たい赤葦くんがそっとその口角を上げたのだ。

※彼のための世界が創生されています。しばらくお待ちください。

「みょうじ、ボール」

「へ、は、あ!」

脳内で優しい音楽と先ほどの笑った赤葦くんの映像が流れていたが、赤葦くんの声で現実へ引き戻される。
上手に言葉を紡げない私は、一生懸命残りのボールと心臓を彼へ捧げた。


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