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星占いは信じる価値あり
後ろを振り向くとみょうじは何やら真剣に雑誌をめくっていた。普段ならノート見せてとか、暇〜とか何かと話しかけてくるくせに。別に話しかけられなくったって良いんだけど、一限から三限までこうも黙っていられると熱でもあんのかと心配になる。
いや、心配するような間柄でもねーんだけど。

集中して読んでいるようで、こちらには視線さえ寄越さない。
開かれたページに書かれているのは『モテ女・非モテ女の差!!』こんなの研究したってお前はモテませーん。

「ねぇ鉄朗、どう思う?モテ女はあざとくないといけないんだって」

「まぁ、わざとらしくねぇ程度に可愛げがある女の方がモテるだろうな」

「……可愛げ。私、可愛げしかないのにモテないのなんでだろーね」

冗談も休み休み言えと鼻を摘まむとむっとした顔を向けられる。
知ってるか?モテちゃ困るから、牽制してるんだよ。

「可愛いは結構言われるんだよ〜」

手を払いのけて雑誌に視線を落とすみょうじ。
知ってるよ。
大して化粧はしてないけど長い睫毛とか透き通る肌とか赤く柔らかそうな唇とか。みんなが言う「可愛い」が詰まってる。その可愛いだけじゃない、そこも含めて全部、俺はみょうじが好きなんだけど。

「話してみると意外とバカだからな。そこからすすまねーんじゃねーの?」

「…鉄朗、今日もいやに冷たいですね」

可愛げがなければ、告白する勇気もない俺はこの関係を大事に守っていくことがすべて。崩さないように。崩れるとすれば、お前が俺の方に崩れればいい。


「鉄朗くんは好きな人できないんですかー?」


調子に乗ってこういうこと聞いてくるところとかただの鈍感。お前だよバカ。いい加減気づけよ。

「さぁね」

「あのさ、」

急に改まったようにみょうじは居ずまいを正した。

「もし、鉄朗に好きな人できて、もし、もしもだよ?それが…」

なに?急に顔を赤くして恥ずかしそうに前髪を整え始める。それなに?
視線は机の上をさまよい始めた。
なにそれなにそれ?どういう反応なわけ?


「鉄朗の好きな人が、もし、それが私だったら…早く言ってね?」


「は?」

恥ずかしそうに口を尖らせて突然投げて寄越されたのは、告白にも満たない言葉。
それは、俺、どう解釈したら良いんだよ?

「いや!あの!だ、だってね!?ほらここ!!今月の運勢のところ!!」

慌てて誤魔化すようにページをめくっている。自分が何座で今月の運勢がどうだとかちっとも興味ないので、さっきの話の続き教えてもらえませんか?

「今月、私の星座と鉄朗の蠍座…すごく、相性良いなぁと思ったから…」

今月一番相性がいい二人!と表題が打ってあって、どデカく囲まれた枠の中に書いてある星座。誕生日は祝ってもらったことがあるけれど、俺が蠍座なんてよく知ってんなあ…。半分呆れているのに、半分はひどく嬉しくて。
些細なことで、なに喜んでんだよって自分に言い聞かせるも、緩む口元を手で押さえざるを得ない。必死に髪を弄って照れてるの誤魔化そうとしてるみょうじ。
なんだよそれ。

「お前なぁ…世界にあと何人の蠍座がいると思ってんだよ」

「へ?!あ、そっか!」

「ほんっと…………バカだよな」

そんなに赤い顔されたらこっちが照れるつーの。

「あははー…じゃあ前言撤回で……出直しマス」

パタンと閉じた雑誌で顔を隠される。

「俺しか見えてねーのかよ?」

「ち、ちがいますー!ちょっと思っただけ」

雑誌から目元だけ出して見つめる視線と目が合う。


「そ?まあ、俺はお前しか見えてねーよ」


どうやらこの雑誌の星座占いはよく、当たるらしい。

『蠍座:積極的な発言で彼氏・彼女をゲットできちゃうかも!勇気を出して!』

この俺の人生で雑誌の占いごときに励まされる日が来るとは誰が想像した?
固まってしまったみょうじから「私もだよ」と返ってくるまでそう時間はかからなかった。



HQ short [ 星占いは信じる価値あり ]