- ナノ -
昨日が終わり、今日の私たちは
※沢村さんが結婚するお話です
※WT夢アンソロに提出しようか悩んで没ったものです



「結婚式なんて初めて参加しました」

「俺もだ」

 私たちは隣り合う席に座り賑わう会場をぼんやりと見守る。左手にはスパークリングワイン。右手には肉をつつくフォーク。正直お腹も胸もいっぱい。お酒なんて飲む気分にもなれない。
 社会人になってもう三年も過ぎたのに結婚式に呼ばれたのが初めてなんて嘘くさいと思うかもしれないが、私たちは界境防衛組織ボーダーに所属している。結婚式なんて本来なら……いや、これは私たち自身が友好関係が狭いことへの言い訳にすぎないな。忙しすぎて疎かにしていたもののツケだなぁとしみじみと慣れない会場で考えていた。

「響子先輩幸せそうですね」

「そうだな」

「でも明日には私たちの記憶全部消えちゃうんですよね」

「……ああ」

 響子先輩の嫁ぎ先は一般企業に勤める男性。高校時代の同級生らしい。ずっと、ずっと健気にアプローチを続けていてようやく実った恋だったらしい。これは、男性側の素敵なラブストーリー。
 響子先輩はずっと、ずっと……忍田本部長のことが好きだった。それが境目なんてわからないまま、気がつけば少しずつ気持ちは行き違い、離れていき、響子先輩は高校時代の彼に絆され、受け入れられ恋をして嫁ぐことになった。これは響子先輩の波乱万丈ラブストーリーでもあって、……皮肉にも忍田さんにとってはロストラブストーリー。
 一般男性に嫁いだ響子先輩は仕事を辞め家庭へ入ることになった。二か月の間、私へ全ての業務を引き継ぎ今日を迎えた。明日にはボーダーへ勤めていた記憶は消されて、私たちのことも忘れてしまう。私たちも明日からは響子先輩抜きで仕事をこなさなければならない。よっぽどの問題児でなければボーダーを辞めるぐらいで記憶を消されたりなんてしないが、彼女の立ち位置は本部長補佐だ。機密事項を知りすぎている。
 今日の響子先輩は今まで見た中で一番きれいだった。私は戦闘に向かう響子先輩も好きだったし、オペの最前線で活躍する姿も大好きだった。それから、忍田さんに恋している姿も。あの頃の響子先輩は本当に可愛くて愛おしくて、悔しいほど敵わない存在だった。それなのに、気づけば私も忍田さんも三角関係に取り残されたてしまって。三人を支えていた一点は白いドレスを着て逃げていった。とんだお笑い草じゃない?

「あーあ、結婚式終わっちゃいますよ。いいんですか、忍田さん」

「なにがだ?」

「響子先輩のこと奪いにいかなくて」

 私が気づいてないとでも思っていたのか。むせ返って慌てる様子にこちらが目を丸くする。祝い事の日に滅多なことを言うなと叱られるが、そんな動揺していちゃ否定にもなってませんよ。知っていたのか、なんて呟いて。むしろ知られていないと思っているほうが鈍感すぎます。

「忍田さん。この後、二人で飲み直しません?」

「何を言ってるんだきみは」

 響子先輩みたいに朗らかに笑うこともできず、私の表情はただ真面目くさった横顔だったと思う。忍田さんの顔までは見れなかった。
 盛大な拍手で締めくくられた愛のセレモニー。ボーダーの代表、上司と同僚として呼ばれた私たち二人はこの場所にとても似つかわしくない存在だった。


 隣りどうしに部屋は取られていたのだから、部屋の前で眉間に皺を寄せなくてもいいじゃないか。いっこうに部屋の扉を開けようとしない彼から、するりと手に持っていたカードキーを奪って勝手に中へ入った。鮮やかとは言い難い手つきだったのに、忍田さんは私を止めきれなかった。
 部屋にはシングルベッドと小さなソファーが二対。カードキーを挿し込むとルームライトが淡く部屋を照らす。備え付けの冷蔵庫から冷えたミネラルウォーターと缶ビールを取り出した。

「みょうじ」

「私、ビールは苦手なんで忍田さんに譲ります」

「そうじゃなくて」

「今日ぐらいいいじゃないですか」

「……」

「だって、響子先輩明日には忘れちゃうんですよ。今日は感傷に浸る会ってことで」

「その必要はない。きみのような若い子を部屋に連れ込んでいるこの状況のほうが問題だ」

「連れ込んだって……私自分の意志で来ましたけど。それに、若い子なんて言うけど響子先輩とは一個しか違いませんから」

 深く息を吐き出した彼はようやく私の前に腰をおろした。が、部屋へ戻れとかマナーを守りなさいとか、自分だけ大人ぶってバカみたい。目の前にいるのは肩だしドレスで着飾ったイモかカボチャにでも見えているの?
 ペットボトルの蓋を開け、冷たい水を流し込んだ。

「なんで響子先輩はあんな野暮ったい男と結婚しちゃったんですかね」

「優しそうな人だっただろ」

「忍田さんのほうが百倍優しそうだし、いい男だし、稼ぎもいいじゃないですか」

「それは慰めか?」

 なにを言っても聞かない私に諦めたのか、彼は缶ビールを掴み、開けるでもなくただ結露を撫でていた。不貞腐れた私を見て微笑みながら。

「私はてっきり、響子先輩が告白して忍田さんがそれを受けて、結婚するんだと思っていました」

「……そうか」

「ていうか、そうじゃないと、なんか困るんです」

「なぜだ?」

「なんか、ですよ! なんとなく!」

 理由なんて言えない。はっきりとなんてしたくない。だって響子先輩はいなくなっても、私と忍田さんはこれからも職場の上司と部下だ。その分別は一応まだある。足の上でぎゅっと握った拳を見つめる。この煩わしい分別をどうやって取り払おうかって。
 きっかけを作ってしまったのは忍田さんだ。立ち上がってこちらへやってくると年下の妹をあやすみたいに困ったように笑って手を伸ばして、私の頭を撫でる。響子先輩に怒られた私を励ますように「みょうじはいつもよく頑張っている」と言っているときと同じ。

「わかった。今日はみょうじの言うとおり感傷に浸ることにするから、きみはもう部屋に戻りなさい」

 淡い照明の色が彼の優しさと合わさって、影となるほの暗い夜の色が彼の心を思わせた。
 屈辱的な感情の勢いで、忍田さんをベッドへ向けて押し倒した。

「――油断、しすぎですよ今日」

 驚きで薄く開いた口、もーらった。忍田さんとの初めてのキスはボーダー本部内にある彼の執務室でこっそりか、帰り道夜景に紛れてっていうのをずっと想像してた。でもそれも今日で妄想に変更。現実は無理矢理押し倒して無理矢理舌を突っ込んでいるだけ。はっとした彼に両肩を掴まれて引き放されるまでは。

「おい! なにをして……」

「言ったでしょ。感傷会だって」

「俺はきみにそんなことを望んでない。退きなさい」

「そう、ですか? 私はきっとこうなるんじゃないかって、今日まで髪を切らなかったんです。メイクだってナチュラルなものに変えて、雰囲気でてるでしょう? ああ、こう呼びましょうか…………忍田、本部長」

 簡単にまとめただけの髪はゴムを抜けばするりと落ちて、響子先輩はこんなふうに、聖母みたいな慈しみの笑みを浮かべていた。似ていませんか? 幸いにも顔の系統が似ていたし、結構自信あるんです。何度も鏡の前で練習した。こうしたほうがするりとあなたの心に忍び込めるんじゃないかって。

「私は、響子先輩の代わりです」

「ちがう」

「全部、響子先輩と同じようにこなしてみせます」

「違う。きみは沢村くんじゃない!」

「そんなに意地を張らないでください。ただ、目を閉じて響子先輩を思い浮かべればいいんです。私のことを響子≠チて、呼べばいいんですよ」

「そんなことできるわけないだろ!」

「今日だけは、そうしましょうよ」

「いい加減にッ――」

 いい加減にしてほしいのはこっちだ。正直、手も声も体も震えそうだった。抵抗なんてしないでよ。好きな人を想ってくれていていいから、今日は――

「私を抱いてください。忍田本部長」

 揺れ動くオニキスのような瞳を見つめて、もう一度キスをする。苦しそうなネクタイを片手で緩めていたら制する手。いっそのことその手の指先に自分の指を絡めて強く握った。それさえ振り払えないでいるなんて、相当忍田さんも動揺しているんだろうね。強引にでも引き剥がせば私は簡単に床へでも転がるのに。
 今日なんてあと三時間もすれば終わって、記憶があっても明日から私たちは響子先輩とは知り合う前の赤の他人へ戻る。時は進むのに戻る≠ネんて滑稽な話だが、それが彼女のためなのだ。でも、残されたあなたが進むために、残りたくない私が想いを果たすために、今日のあと三時間を虚しくて寂しくて胸がはち切れそうなほど切ない感傷会を始めましょうよ。
 あなたの手は戸惑うように私の素肌へ触れた。

「……煽った責任は、とってもらうぞ」

 一瞬で反転した体に視界がついてこなかった。ようやく焦点が合う頃には忍田さんの怒りに滲む表情が垣間見えただけ。初めて好きな人にしてもらうキスは、私を想うものでもなく、愛があるものでもなく、なのに最後に食べた甘いウェディングケーキの味なんて皮肉だね。

 不器用そうな骨ばった手が胸へ伸びてサテンの上を滑るが、やや荒っぽい手つきとささくれで布に傷をつけてしまいそう。買ったばかりのドレスだが、忍田さんにダメにされるのだと思えば本望だ。
 焦らされもせず下ろされたファスナーに、私はドキドキしていた。興奮と緊張と好きと寂しさと。そういうの全部気にしなくて済むくらい乱暴に抱いて欲しい。
 私が響子先輩のように「忍田本部長」と囁けば、口を塞いで舌を追いかけられる。彼からは、普段の真剣さとは違い、色香が漂う。唇が離れた時にはこっちは息も荒いというのに忍田さんは乱れた様子も見せず、はだけた胸の先端へ濡れた唇をつけた。

「んっ……あぁ」

 向けられる鋭い眼光がふわふわと浮足立つ私を咎めるようだった。ねぇこれはあなたと沢田響子のセックスなのに、そんなに怖い顔しないでよ。
 あなたが悩まなくて済むように、私がベルトを外してあげる。こんな私でも少しはあなたに反応してもらえて嬉しい。響子先輩はあれで気丈な女性だからきっとこんなことを前にしても怖気付かないだろうなぁ。だって彼女もあなたのことが好きだったから。両思いなら、なにも不安になんてなる必要ないないのにな。

「みょうじ……」

「最後だから、違う女の名前を呼ばないで」

 こんな間際に最後まで戸惑う手へ頬を寄せて笑う。後悔するなら響子先輩の気持ちに気づくのが遅かった自分を悔やんで。それからこんなバカな女を先輩の後釜に選んでしまったことにも。

「あなたが、すきです」

 生理的な涙が落ちているのを見られないように頭を抱き寄せて、キスを乞う。

「きょう、こ……」

 呼んでしまっては後に引けなくなったね。それでいい。私は好きになってもらえないのだから、それならせめて体だけでも繋がりたかった。今は痛いのに気持ちよくて、あなたの好きな人の代わりになれて、私は苦しいほど嬉しい。


 すぐに動けない私にシーツを肩までかけて「頭を冷やしてくる」なんて冷静じゃない言葉を残しシャワールームへ消えていった。私はなんとか呼吸を整え、気怠い体を起こし、少し皺のよってしまったドレスを纏う。
 水が跳ねる音のするシャワールームの扉へ額をくっつけて俯いた。

「ありがと。しのだ、さんっ……」

 大粒の滴がフロアに落ちたけれどきっとそんなの彼から落ちる水滴と混ざるだろう。パンプスの音を立てないように裸足で部屋を後にした。
 午前零時には早いけれど、これで本当に私たちの三角関係は終わり。

 来る時に着ていた私服へ着替えてすぐにホテルをチェックアウトした。家に帰ってもまだ体は熱い。痛みは繋がった証。これで「明日から頑張ろう」となれると思っていたのか、自分は。当然そんなこと思ってはいなかったけれど、想像していた以上に胸の奥が痛かった。




 それでも太陽は朝を告げる。今日からは新しく、全てが消え真っ白になった日。

「おはようございます」

「みょうじ」

「今日は、この後すぐA級の部隊長とのミーティングが入っています。昨夜遅くに不穏な襲撃があったようで、風間隊から受けた報告はここへまとめてあります。ミーティングの前に目を通しておいてください」

「昨夜遅くって……あのあと帰ったのか、一人で」

「ええ」

 受け取った書類がくしゃりと音を立てる。

「……すまない、ことをした」

「なんの謝罪ですか? 私は何か月も前、彼女の結婚式に呼ばれることが決まってから、こうするって決めていたんです。これは忍田さんの気持ちの整理じゃないですよ。自分のためにしたことですから。勘違いしないでください」

「しかしきみを傷つけてしまったことには変わりは」

「それは、――忍田さんが、遊び慣れてないから、責任めいたものを感じているだけですよ」

 目を見開いた彼は他にも何か言いたそうであったが、差し迫った時刻に舌打ちをして書類へ目を向けてくれた。ほっと息を吐きながら、しばらくはこうしてのらりくらり交わしていこう、と思った。そうするうちにそのうち忘れるし、彼の中の変な罪悪感はきっと薄らいでいくだろう。きっと私のこの胸の痛さだって毎日顔を合せていれば慣れるに違いない。


 私は響子先輩より一年あとにオペレーターとして入隊した。秀才と謳われ、上層部に引っ張られた先輩は目標でライバル。一年あととはいえ、大好きで尊敬する先輩に追いつきたくて独学だったり東先輩や鬼怒田さんにも話を聞いたり、とにかく励んだ。でもどれだけ学んでも先輩には追いつけなくて。気がつけばみんなが誉めそやす沢村響子≠ノ嫉妬していた。
 ある日、響子先輩はこんな私を「有能な後輩なんです」って忍田さんに紹介してくれた。その時に、響子先輩は忍田さんのこと好きなんだなってひと目でわかって、それから忍田さんもきっと響子先輩を好きになりかかっているんだって……。
 幸いにも人の恋路にちょっかいかけるほど性根は腐ってない。心から応援していた。けれど、知り合ってからは響子先輩と忍田さんの時間が増えるように、忍田さんと私の時間も間違いなく存在してしまった。

『私も一回は実働部隊経験したかったなぁ。そしたら響子先輩みたいになれたかもしれないなぁ』

『ほう、なら私が稽古をしてやろうか?』

『は!? 実働部隊を経験したいだけで、強くなりたいわけじゃ……!』

『遠慮するな! 慶と一緒に軽く鍛えてやろう!』

 なんてあの人、嫌がる私に本気で弧月持たせて太刀川くんの横で振らせたこともあった。ボーダーへ本就職した私に花を贈ってくれたり、残業後にラーメン奢ってくれたり。優しさを勘違いして、好きになることは止められなくて。
 だから、叶わない片思いならせめて二人に幸せになって欲しかった。

『本部長、みょうじさん。私、結婚することになったの』

 八か月後に行われる予定の結婚式に出席して欲しいと、お願いしてきた時の先輩の顔の幸せそうさったらなかった。対照的に、忍田さんの哀愁が滲んだ表情も。
 少しずつ、なんとなく少しずつ、響子先輩の気持ちが揺らいでいるのはわかっていた。でも、こんなに早くその時がくるなんて私も忍田さんも待ち構えてなんていなかった。
 喜べばいいのか、悲しめばいいのか。好きな人の気持ちを永遠に掻っ攫っておいて、自分だけ幸せになるなんてずるいよ、響子先輩。


 今日は食堂で食べる気分でもなく、売店へ足を向ける。気怠さが残っているのは間違いなく昨夜の報告書のせいであって彼のせいではない。だから、気にしなくてもいいのに。
 歩みを止めさせるほど強い力で、大きな手が私の肩を掴む。

「どうしましたか、忍田さん」

「……少し、話しがしたい」

 今や不動のA級一位の太刀川くんの師匠でノーマルトリガー最強とも言われている男が、本部内でそんな焦った表情を見せては何事かとみんなが注目してしまう。

「先ほどの資料の件ですね。わかりました。戻りましょう」

 彼女のように微笑んでそういうと、苦虫を噛み潰したような表情と「昼休みにすまない」という話を合わせた言葉。

 本部長個人に与えられた執務室。ローテーブルには書類が散らかり、ソファーには何枚かのシャツやジャケットが投げ置かれている。ずっと前に来た時はこうじゃなかったから、先輩の心が離れていった頃からだろう。この人明らかにここで寝起きしている。
 私は部屋の中央まで入らずに扉のすぐそばへ立ち、先輩みたいな笑顔を作った。こうすることが何もかもを上手く誤魔化してくれるみたいだから。

「……きみは、勘違いをしている」

「言い訳、ですか? 朝も言いましたけど、あれは私が」

「違う!」

 言葉を探す彼は違うの先を教えてくれない。それどころか、ふっと息を吐いて自嘲気味に笑みを浮かべた。

「きみは、なんであんなことをしたんだ?」

「だから私は、先輩のかわりに……」

「沢村くんの代わりにと、こんなおじさんの感傷につきあったのか?」

 おじさんって。こんないい男に誰がおじさんなんて言うのか。躊躇い一歩引けばすぐに背は扉へ触れる。一歩だけ近づいた忍田さんは私を挟んで扉へ手をつき、距離を詰める。

「かっこ悪いだろう。好きだった女が結婚して、そばにいてくれる年若い子の不器用な優しさに気づいていながらも、傷心したふりをして甘えていたのだから」

 心臓の音がまるで耳の中で響いているみたいだ。煩くて他のことが考えられない。

「甘えていたばかりに、ひどく傷つけてしまったな。すまなかった」

「なにを、言って、……これは私の気持ちの押し付けで、もし、これ以上謝ったり、責任をとるなんて言ったら、は、はっ倒しますから……!」

「だから、勘違いしていると」

 距離を取りたくて押し出した両手で、忍田さんのジャケットの襟を掴んで握りしめる。皺にしちゃったら、気にして小言を言う人も、こっそりクリーニングに出してくれる人も、もういないのに。私は、どうやったってきれいに微笑む響子先輩のようにはなれないのに。どうしてあなたはそんな風に笑うの? 私がいったいなんの勘違いをしているって?

「私が、勝手に、好きで……っ!?」

 踵がふっと浮く。耳元を私のとはちがう髪がくすぐって、一瞬呼吸が止まってしまうほど苦しい。私の視界に彼の姿は映らなくなってしまった。

「っし、しのださん!?」


「きみのその気持ちを、これからは、大切にさせてくれないか」


 選ばれるはずなんてないと思っていた。ただの一夜だけでも代わりになれたらという決死の覚悟で迎えた昨日。
 大切にさせてくれないかと言う柔らかな声に絆され、震える手はこの大きな背中へしがみつきたいともがいているよう。
 私たちの昨日≠ヘようやく夜明けを迎えようとしている。






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