- ナノ -
例えるなら君は白い花 1
※赤葦くんがとっっっても変態です






私の彼氏、赤葦京治くんは少し……あー…だいぶ?変わっていた。
例えば告白。



「みょうじさん、彼女に、なってもらえませんか?」



なぜ敬語。彼女になって欲しい、の前に言うことはなかったのか。
こんな何の変哲もないいつもの放課後。
部活に行こうかと思ったところで突然引き留められて、読めない表情…というか清々しいほどの無表情のまま告げられたのは告白にも満たない言葉。

「え…っと?」

脳内はコンマの数秒で彼の言葉を噛み砕き理解しようと試みた。

「それは、つまり……え?赤葦くん、私を好きなの?」

「…………うん」

ちょいちょいちょい、その間はなんだよ。若干悩みませんでした?気のせいですか?

「あかーーーーしーーーーーー!!」

重苦しいような、ふわっとした適当なような空気に割って入ってくれたのは三年の木兎先輩。バレー部キャプテンで騒がしいし色々な意味で有名な人。

「あかーしーーー!!部活まだ来ねぇのー!!?」

「…行きます。でも木兎さん、空気読んでください」

「空気は吸うものだぞ?」

赤葦くんは深い深い溜息を吐いて、私に向き直った。

「みょうじさん、考えておいてくれる?」

「え?うん?あー…赤葦くん? 部活、頑張ってね」

この時、人生で心臓が止まるほど驚いたTOP3に入るぐらいには驚いた。
赤葦くんがまるで白いスミレの花のようにふわりと表情を崩して笑ったから。

「みょうじさんもね」






そうして私は赤葦くんと付き合うことにした。
別に優良物件だったからじゃないよ。顔、身長、運動、頭脳すべてにおいて文句なしの物っけ…男子を断る理由など私にはない。同じクラスで、ほとんど話したことはない…というか休憩時間の度に木兎先輩に連れて行かれるものだからよく知らない、という方が正しいかも。悪い噂など聞かないし、これほどの優りょ…もといい素敵な男子なかなかいないのではないだろうか。
ただ手の付かない物件には何かあるということを、この時の私は考えもしていなかった。

「そう、それで赤葦くんと付き合うことになった」

「嘘!!マジ!?おめでとう!!」

「あー…木兎先輩に殺されないようにね」

移動教室の合間に友人たちへ報告。
第一声は良いとして

「「でもなんで、あんた?」」

いやホントそれ。なんで私なのか私が聞きたいんだよね。
答えを探しながらぼんやりしていたら、登り階段ですれ違いざまに人にぶつかり教科書や筆箱を盛大に落とした。謝罪をお互いに交わし、下に落ちてしまった教科書を拾おうとした時、階段の一番下に噂の彼。
ただし、ちょっと…ねぇ…

「……あ、かあしくん…?」

しゃがんで上を見上げていた彼とようやく(強調)視線が合ったし、自意識過剰じゃなければ、見られていたであろうスカートの中身を隠すように押えた。

「なまえ先行ってるね〜」

ニヤニヤ笑う友人の腹立つことこの上ない感じ。ぶつかった人もそそくさといなくなってしまっているし。
急いで落ちた教科書を拾う。残念ながら筆箱は彼の手の中に。

「赤葦くん、筆箱臭わないでくれる?」

「あんまりみょうじさんの匂いはしないね。 はい、どうぞ。怪我しなかった?」

「…アリガトウ。ねぇ、スカートの中見た、よね…?」

偶然にせよ何にせよ、みっともない物を見せてしまった事を謝罪したいつもりだったけど、彼は表情一つ変えずに「見えたから」と言い切られ、言葉を詰まらせたのは私。次の言葉を探していれば、赤葦くんは例の笑顔らしき表情。

「黄色好きなの?可愛いね」

もこもことした筆箱の黄色は、今日履いているナニかしらと同じ色味なことは認めよう。でもだからと言って、それを指摘する必要はないじゃないか。急激に熱くなる顔を恥ずかしくて教科書で覆った。

「あっ、あっ…!!」

文句の一つも言いたいのに、言葉は出て来ない。そんな私を見かねて、どうしてか彼の手が頭に乗った。

「授業、遅れるよ」

鳴るのは予鈴。
慌てて二人で走り出せば、窓の外から香る茉莉花。
少しだけドキドキしたのは走ってるせいかな?






「あはは!そうそう、あの時の柴田がねー!」

隣の席の松下と思いの外話が盛り上がって、ケラケラと笑っていた放課後。早めにLHRが終わって部活へ行くまでまだ時間がある。同じ小学校、中学校を通っていただけあって話しやすい松下は数少ない男友達だ。


「みょうじさん」


そんな私たちの笑い声を割って来たのは、最近私をもやもやさせている赤葦くん。
赤葦くんと付き合いだして二週間は経ったのだけど、彼氏彼女のようなことをしたことはない。手を繋いで登下校?毎日メールやラインでの会話?電話?まず携帯の連絡先も知らないこの現状…ぶっちゃけ、“彼氏彼女とは?”っていう疑問に行きついてしまう。
それでも気が付けば赤葦くんを観察しているし、そこで赤葦くんってモテるんだなって気付くし、赤葦くんが私を彼女に選んだ理由ってもしかして告白を断るのに都合が良いから??
そんな考えに行き着いて、でもなんで私?って結局堂々巡り。

「おい、なまえ?呼ばれてんぞ?」

「え…?あ…」

そばまでやって来た赤葦くんを見上げてようやく自分が一瞬ぼんやりしていたことに気付いた。

「てか、なまえと赤葦って付き合ってんだって〜?」

松下が冷やかすように言うが、今まさにその問題を考えていたんだよ。つっこんでくるなよ。じっと私を見ている赤葦くんの視線がなんだか痛い。
答えろってことですか?

「あ、ウン」

「ウン、って…お前本当に乙女感ねーなー」

「うっさいよ」

乙女感ってなんだよ。きゃは!そうなのぉ!私赤葦くんと付き合ってるぅ!なんてハート飛ばしながら言える関係かどうかは甚だ疑問なうなんだよ。

「赤葦もなんでなまえなんかが良いんだか?」

先行くわ、と付け足して立ち上がる松下。おいどうか、置いて行くな。よければ赤葦くんを連れて行け。


「みょうじさんは“なんか”じゃないよ」


ほらみろ。また困るようなことを言う…。私はこの時どんな反応すればいいんデスカ?

「へぇ〜…赤葦でも惚気んだな!せいぜい仲良くしろよ!」

今度こそ松下は爽やかな笑顔でこの場を変な空気にして去って行った。静まり返った教室内はもうほとんど人は残っていなくて気まずい。
視線を彼の方へ戻すこともできずに、ただ少し熱くなった頬に手を当てた。

「みょうじさん、少し良い?」

なんだろう。一抹に過るのは不安。
踵を返した彼に付いて行くけれど、睨んだって背中は何も語ってくれない。

…こうなったら私だって聞きたいことを聞いてやる。

どうにでもなれ!と半ばやけくそに腹を括れば、中庭の前で急に足を止めた彼の背に鼻をぶつけた。さすが身長182センチと3ミリ…。誕生日は12月5日。好きな食べ物は菜の花のからし和え。

「俺も、」

思考は全然ここにはなくて、突然振り向いた赤葦くんに腕を掴まれてびくりと肩を揺らした。



「俺も………なまえって呼びたい」



なんと形容したら良いのか。頬を染めて、眉間にしわ寄せて機嫌悪そうな顔。
もし私が好きな人にこんな顔するとしたらそれは…

「ヤキモチ?」

「違うっ、…く、ない…」

はぁ…と深く重い溜息を吐いて赤葦くんはその場にしゃがみ込む。“違うくない”と言った彼の本心を考えると、それはやっぱり理解できなくて。でも、もしそうだったら?なんて考えてしまえば早くなる心音に、甘くくらりとする脳内。

「赤葦くん本当に私のこと好きなの?」

兼ねてからの疑問は、ぽろりと口から溢れた。驚いた顔が見上げたのも一瞬、口を尖らせ斜め上に視線は固定。

「…みょうじさんが、他の男子と話してるの見たら嫌だったから、やっぱり好きなんだと思う」

「うん、とりあえず太もも上を見ながら言うのやめようか?」

少しだけ、虚しいというか、寂しいというか、悲しいと思ったのは、赤葦くんも気持ちがはっきりしていないということ。
あと少しイラッともした。

「赤葦くんって変態なの?」

パンツ覗いたり、筆箱嗅いだり、またパンツ覗いてるし。優良物件だと思っていたけど、これは世に名高い変態というやつ?

「違う違う。みょうじさんの太ももが好きなだけ」

「それを変態って言うの!」

即座に突っ込んだけど、頭抱えるわ。優良物件だとばかり思っていたけどとんだ落とし穴。通りで「マジで俺!あなたのこと好きです!」って感じじゃないと思った。

「みょうじさんの太ももって柔らかそうで、でも程よい筋肉でしなやかそうで。透き通った綺麗な肌もつるりとした感じも、触り心地が良さそう」

「そんな恍惚な表情で言われても触らせないよ」

ゆっくりと伸びてきた彼の手から一歩引いて逃げる。変態だ。これはかなりヤバイ部類。

「ねぇ、なまえって呼ぶのはダメ?」

話はそこへ戻るのか。


「その前にこれだけハッキリさせたいんだけど」


このままでは埒があかない。私の中で重要なことを聞いてハッキリさせたい。

「赤葦くんは、私が好きなんじゃなくて、私の太ももが好きなの?」

「言い方は悪いけど…そうかも?でも、好きだよみょうじさんのこと」

鈍器とまではいかなくても、硬い何かで殴られたような気がした。その好きは触れたら満たされ、体型を崩したら飽きられるってことだよね?

「わかった。名前の件は、“ダメ”。…少し考えさせて」

中庭に咲く白いゼラニウムの横を通り抜けて私は荷物を取りに教室に戻った。早くしないと部活に遅れる。今日の宿題は何が出されていた?夕飯はなんだろう。
考えたくないから思考を逸らすのに、どうしても赤葦くんの顔が邪魔をした。



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