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「#年下攻め」のBL小説を読む
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- ナノ -
03
「さむっ」

 おっぱいの大きいお天気お姉さん見ながら炬燵で和んでいたのに、遅刻するからという理由で母親に叩き出されてしまった。今年初のマフラーを用意してもらえていたのはありがたいけど、今朝すんげぇ寒いーの。けど、冬の澄んだ空気は視界をクリアにするような気がして気分が良い。
 叩き出されたおかげでいつもよりは早い時間に家を出ることになったが、コンビニで温かいコーヒーでも買って行くかと呑気なことを考えながら道を曲がる。

「おはよ」

「うわ。……待ち伏せ?」

「うん。待ち伏せ!」

「びっくりすんじゃん。なんか用?」

「えーと……話す時間が少しでも多い方がいいかなーと思って」

 適当に笑っているけど、驚いたし、寒そうだし、鼻赤いし。ちょっとだけなまえの一生懸命さに笑わないでもない。なまえもマフラーだけで、オレと同じような装備。あ、スカートな分、靴下で覆われてない面積があるからこいつのがもっと寒いだろうなぁ。鼻や頬だけでなく膝小僧まで薄らと赤く色づいている。
 そんな恰好で寒い中どのくらい待ってたのか、誰のことをどう想ってたのか想像もつかない。

「健気だなー」

「ふふ、高ポイントだった?」

「あ? うーん……ちょっとだけな」

「やったぁ」

 髪をかけて露わになった耳の先まで赤くて冷たそう。それとは正反対に温かそうな(あざとい)笑顔。なんだよそれ。今までそんな顔したことなかったじゃん。オレが見過ごしてきただけかも知れないけど。

 寒かっただろうなとは思うから、立ち寄ったコンビニの外で待つなまえにミルクティーを買ってやる。オレのほうが高ポイントじゃんって思ったのに、渡したそれを嬉しそうに両手で持って「ありがと」なんて微笑まれたら――敵うはずなんて。



 ここ最近のなまえはマジでちょっと待ってって感じ。こっちは一つも気持ちが追いついてないのに、押し付けられてばかりでキャパオーバー。特に何か変わったというわけではないけど、改めてなまえが視界に入るというか……。情報量が多い。

「なまえ、課題見せてくんね?」

 だから、絶対にオレからは話しかけないでおこうって思ってたよ。でも、やっぱ課題やってねぇのはまずくて。秀次は絶対見せてくんねーし、こういう日に限って出水は朝から防衛任務でいねーし。
 しかたないって言い訳したけど、でも誰にって感じで……。
 なまえに課題見せてもらうのなんて今日が初めてってわけじゃない。むしろ今までも出水と一緒になってほぼ毎日のように見せてもらってる。
 のに、今さら躊躇う必要ねーじゃんさ、オレ。

「いいよ。英語の課題も見る?」

「たすかるー」

 なまえのことを都合よく利用しているみたいで、後ろめたさに胸が痛む。今までひとつもそんなこと考えなかったのに、今さら。他のやつに見せてもらえば良かったっていうのも今さら。でも、今さら見慣れたなまえのノート以外見やすいとも思えない。
 ここ最近こんなことを考えてばかりで、もやもやするってだけじゃ済まない。こんなことなら……やっぱ友達が良かったってどうしても思ってしまう。

 視界の端っこにいるなまえは物静かに微動だにもしないもんだから、ノートを書き写す手を見ているのかと思えば、なにやら必死で携帯の画面を睨んでいる。あんまりにも険しい顔しているもんだから「どした?」と声かけちゃって、オレの決心ゆるくね?

「……友達が、知らない人をトークルームに招待して、毎日連絡がくる」

「へぇ。しつこいんならブロックすれば?」

 いつもならはっきりと嫌悪を示すくせに、どうしてか戸惑いさえみえる。ちょっとだけ皮肉っぽく「オレと天秤にかけてんの?」と笑えば、「違う」と強めの否定が返ってきた。

「片想いの気持ち、わかるから、突っぱねにくいなと思って」

 言い辛そうに口ごもってもう一度携帯に落ちる視線。薄らと頬が色付いているくせに、なんでもない風を装っているつもりらしい。この間まで寄りつく男を突っぱねてたのに途端にしおらしくなっちゃって。
 オレがお前をブロックすることはないけど、お前はそいつを早めにブロックしないと大変なことになりそうじゃね? とは、言い損なう。
 携帯の画面を見つめながら険しい表情はさらに深まってく。

「――ごめん。ちょっと呼ばれたから。ノート適当に机に置いといて」

 行くな、ってどの立場の人間が言えるの? 慌てたように急ぎ去っていったなまえを横目に、ノートへ視線を戻す。
 てかさ。「片想いの気持ちわかるから」ってことは、相手の男はなまえに片思いしてるってことだろ? しかもなまえ自身もそれに気付いてて。でもなまえはオレを好きで……今は。
 そこまで考えて、ふと教室を見渡す。授業が始まるまでもう少し時間があるからか、教室内は騒がしい。ざわざわとした騒がしさは自分の中にまで伝染したみたいで、ノートを取る手が動かない。どうでもいい字の羅列をただ見つめる。

 オレじゃない誰かとイチャイチャしているなまえの姿は、どうしてだから上手く想像できなかった。





 それからは数日、上手く回避できていたと思う。話しかけられれば話すけど、できるだけオレからは話しかけないようにして。心苦しさったらないのな。どっちかっていうと話したいって思う気持ちの方が強いし、嫌いになったわけでもないのに、どうして避けなければならないのか。

「陽介、今日はボーダー? そうでないなら、一緒に帰らない?」

「わりぃ」

「そっか。防衛任務頑張ってね。また明日!」

 毎日顔を出しはするけど、今日は任務があるとかランク戦があるとかではない。でもボーダーってことにしとく。
 ランク戦や任務などの急ぎの用はないから、なまえと帰ってからまた本部へ行っても良かった。今までもそうした日は何度もある。一緒にゲーセン行ったり、カラオケ行ったり、ファーストフード食べたり。あいつが好きなドーナツ屋に行ったり。その後あいつを家まで送ってから本部へ引き返す時間は長くもなければ煩わしさもなかった。
 なまえから向けられる笑顔にここ最近のわだかまりの大きさは増すばかり。なんでって疑問もたくさん沸く。
 なんで友達じゃダメなの?
 なんで元に戻れねーようなことしたの?
 なんで、オレ?
 なまえが可愛くないわけじゃない。どちらかといえば見た目はいいほうだし、性格も悪くない。彼氏いてもおかしくないのになんで今さらオレ?
 素直に「ラッキーじゃん!」って付き合えないのは、オレがこいつをどう思っているから?

 あれから何日も経ったはずなのに、答えは出ているはずなのに、すっげぇもやもやすんじゃん……。

 去年だかいつだったか出水と、マフラーで女子の後ろ髪がぽやんって膨らんでるの可愛いよなって話していたことを、なまえの背中を見ながら思い出す。なまえの髪もそういうふうになっていて。

(彼氏だったら触れんのかな)

 細い髪の筋を指先に絡めて梳きすかしてみたいという考えが、いつの間にかあらぬ方向へ思考を進めていた。







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