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「#甘甘」のBL小説を読む
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01
 三門市民なら「嵐山准」の名前を知らない人はいない。ボーダーの顔である嵐山准は、快活で明るく優しさの溢れた人物だ。彼の業務は多岐に渡り、新規入隊者への対応、メディア露出、防衛任務等、なんでもやってこなすA級五位の隊長。ボーダー隊員でもあり、私生活には大学生という二足の草鞋を履いたとても多忙な人物だ。
 そんな彼を、彼の隊まるごとを私は支えている。メディア露出って部分だけだけど。

 私は服飾系の高校を卒業後、ボーダーへ就職した。それより前の大規模侵攻で家も家族も失い元々はボーダーの戦闘員として入隊。そうすれば孤児であってもボーダー宿舎という部屋も借りられ、補助金もたんまり出る。
 ただ、私は戦闘員としてはあまりにも不向きだった。トリオン量があっても戦闘にはまったくと言っていいほど役に立たない。それもそのはずで、私には戦う理由がなかったのだ。近界民との戦闘に面白さなど見いだせなかった。生活に必要だからボーダーへ入り、生かされた命を生きるだけ。
 それを見かねたのが当時孤児組の世話をしていた東さん。中学卒業を控えた私の「服飾系の仕事へ就きたいという将来の夢が潰えた」というどうしようもない話を聞いて、少し遠くにある服飾系の高校を受験することを勧めてくれ、通わせてくれた人。と、同時にボーダーの隊服やエンブレムのデザインなどを考える部門職への転向を根付さんに話を通してもくれた。当時はまだそういう部門もはっきりとしたものはなく、服飾に関係なくてもなんでもこなさなければならなかったが、多少なりお給金をいただけるということなのでしかたなかった。

 そういうわけで、私はこのメディア対策室に居座って四年と少し。どういうわけか、デザイン担当から嵐山隊のマネージャー兼スタイリスト担当となっていて、今日から兼偽装彼女だそうだ。

「よろしくな、なまえ」

 太陽のように輝く眩しい笑顔を向けてくる男へ顰めた顔を向けた。

「言っておくけど、根付さんと東さんにどうしても頼まれたから引き受けただけ。これ以上仕事に支障をきたさないためだから」

「わかっているさ。でも、ありがとう」

「今日の仕事は十時から○○放送局で番組収録。嵐山隊みんなで行きます。二十時の防衛任務までには戻って来られる予定だけど、間で各自睡眠はとるように。任務後、本部にて待機。明日の朝五時には△△テレビの朝番組に生出演で……」

 ハードすぎるスケジュール。正直メディア一本でやっているわけじゃないから、こんなに詰め込んでもらっても隊員の体調面が心配になる。木虎ちゃんなんてまだ中学生だ。体調だけでなく精神面においても心配だ。世間のほとんどは好感を持って接してくれるが、隠れたところで受ける誹謗中傷がいつか彼女の心を傷つけてしまわないか心配でならない。
 それでも彼らは責任感というかプライドを持って仕事に取組み、誠実に対応しているところをみると本当に偉いなぁと感心さえする。

「なまえは同い年なのに本当にしっかりしてるよな」

「あんたがしっかりしていないから、綾辻ちゃんとは別に私がメディアマネとして付く必要になったんでしょう。その辺ちゃんと考慮して発言してくれる?」

 それなのにこの男ときたら。絶対何も考えてない。一部隊の隊長としての責任とかそういうのじゃなくてさぁ……!

「今日の防衛任務は夜間だ。木虎は外しておいた。明日の朝は早いが四時に局のロビーへ集合するように伝えてあるよ。まずかったか?」

「…………問題ない、です」

 こちらの顔色や考えを読んで、わかったうえで小首を傾げて笑っている。それができるならもっと、こうっ……!
 続く言葉が出てこないほど完璧すぎるところが嫌い。顔が良いところが嫌い。人のこと見透かすみたいな態度も嫌い。ウソかホントかわからない誰にでも向ける笑った顔も嫌い。
 だけど、この男は私がマネージャーになるまで一人で自己管理から隊員の管理、メディアとのやり取り等全てをこなしていた。真にできないわけではない。

「さっきの件、今週金曜日、雑誌撮影後に夕飯を一緒に、という流れでお願いします。手を握る以上の接触は認めません」

「わかった。なら雰囲気の良さそうなレストランを予約しておこう」

「は? そこまでする必要ありませんけど。この間、近場のみんなで行ったラーメン屋とかで……」


「俺がそうしたいんだ。だって俺はその日なまえに好きだと″数窒キるんだろう?」


 そんなの偽装なのに。
 この男が笑っている理由はわからなかった。どうせ私をからかいたいだけなのだろう。私はもう一度顰めた顔を向けてやった。




WT 壊した障壁は愛でできていた [ 01 ]