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「#年下攻め」のBL小説を読む
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Lack of you
俺の彼女は面倒くさい奴だ。
自惚れでも自慢でもなんでもないが、俺のことが好きという感情に己を全振りし、勢いで生きているような女である。
朝から晩までこちらの都合はおかまいなしなメールが返事する間もなく何通も送られてきたり、寝る前になれば電話をしてきたり、本部のフロアで出会えば満面の笑みで駆け寄ってくる。彼女を自分の嫌いなものに例えるのはいかながものかとも思うが、あれは――犬だ。
そういう女だから、ボーダーでの職種もスナイパーやガンナー、はたまたオペレーターのような後方支援は向いていない。現在のようなスコーピオンでアタッカーが適任。本人も気に入っているようだし、バカの一つ覚えで後先考えずつっこんでいくところが良くも悪くもこの女の強み。あと、そういうやつは大体戦闘センスがあるから困るんだよ。近距離での判断力や立ち回りは、「5を3で割るってどうやるんだっけ?」なんて言う女にはとても見えない時がある。
少々脱線したが、つまり俺の彼女はバカで真っ直ぐで面倒くさい性格をしているということ。


「荒船くん!その女、だれよ!」


「うちのオペでお前の親友」

防衛任務終わりに加賀美と本部の廊下を、反省やらなんやらを話しながら歩いていれば、曲がり角でぱたりと出会う。「荒船くん!」と嬉しそうな顔をしたのも一瞬、すぐに顔をしかめてこちらを睨みつけてきた。大よそ、付き合っている女から向けられる表情じゃねえ。
「お、始まった」と彼女の後ろに従っていた当真が笑い、カゲが嫌な顔をする。始まったのは、なまえの過激な被害妄想茶番劇。

「みょうじは荒船と勉強のことになるとアホだよなー」

「かまうな当真。巻き込まれんだろーが」

「毎度付き合ってやる荒船はヤサシイねぇ。ホント」

「外野は黙ってなさいよ!私は荒船くんと大事な話があるの!防衛任務と偽って私の親友とデートしてたなんて許せないんだから!」

この状況のどこにデート要素があるのか。なまえと親友である加賀美でさえ特に気にした様子もなく「かまってチャンはいはい」と適当にあしらっている。バカなまえの対応について言えば俺以上に慣れているから、呆れているだけだろう。
こちらが睨み返せば怯むくせに無駄に強気なところもバカ。

「お前こそ学校帰りに男引き連れて良い御身分だな」

「……か、勝手についてきただけだもん」

「テメェが個人戦しろって誘ってきたんだろうが!」

「バトルロイヤル形式で誰が一番強ぇか決めようっつってたんだよな」

「ほう」

「私のは戦闘訓練に誘っただけで、デートじゃないし!」

戦闘訓練が半分とはいえ、半分は遊びじゃねえか。そっちのほうがよっぽど裏切り行為だとは思わないらしい。んなことで俺も咎めたりしねえけど。

「こっちも防衛任務だっつの。デートじゃねえ」

「あら、違った?束の間のランデブーじゃなかったっけ?」

「かーがーみー!頼むから煽るな!」

「二人ともひどい!リア充爆発しろ!」

「「「おまえがな」」」

当真、カゲ、加賀美の三人の声が冷たく揃う。自分の彼女とはいえ、面倒くささとバカさ加減は時々呆れを通り越す。
不貞腐れ廊下の端っこで膝を抱え始める迷惑な奴。カゲから足蹴にされながら「行くぞ」と促されている哀れな女に合掌しておいた。


「行ってあげないの?」

「まだ仕事が残ってるだろ」

B級とはいえ隊長はそれなりにやるべきことが多くあるのだから、あいつにばかり付き合っていられない。
それに当真やカゲに相手してもらってんだから、別に俺でなくても……

「じゃあ明日もあの子の「荒船くんがかまってくれない」を聞かなきゃね」

「かまってないわけじゃない」

「でもここ最近立て続けに任務が入ってたでしょ?会えないから授業に身が入らないって嘆いてたよ」

「会ってても会ってなくても、あいつが真面目に授業を聞いてるとは思えない」

俺となまえは通っている高校が違い、知り合ったのはボーダーでだった。だから会うのもだいたいが本部の中。
それを知っていて、頷き笑う加賀美は、時々こうして俺の知らない学校でのなまえの些細な情報を漏らしてくれる。俺の勧めた映画を夜中まで観ていたとか、昼休みにメールの返事をしたらそれこそ大はしゃぎして自慢しているのだとか。
キャップのツバを少しだけ下げた。バカじゃねぇの。周囲にどんだけ好きアピールしてんだよ。





やっておくべき仕事を終えるとグループメッセージで鋼から『戦闘訓練室でみんなとバトルロイヤルしてるから荒船も来ないか?』との誘い。みんな、という表現の中にあいつが居るだろうことを思うと、先程の加賀美の言葉も思い返され仕方ねえなぁと思わないでもない。

だから喜ばれることはあっても、まさかまた膝を抱えられるとは思ってもなかったわけで。

「荒船くんは私より村上くんがだいすきなんだ」

先に負けたのか、訓練室の外野席でなまえはまたも膝を抱えてこちらに背を向けている。わざとらしく鼻水をすする音付き。なんて面倒くさいんだこの女は。

「気持ち悪いこと言うな」

「私のメッセージなんて十回に一回しか返事くれないのに、村上くんのお誘いにはすぐ返事した」

「お前のはくだらない話が多すぎんだよ」

返してないわけではない。返信を求めていないような報告メッセージに返す言葉もなく「そうか」と画面の向こうで俺はちゃんと頷いている。返事が必要そうなものへはきちんと返事もしている。苦情を言われる筋合いはねぇし、『宿題わかんない』に対してビデオ通話で教えてやってるだけ親切だ(当自分比)。


「……好きって、一方的にでも押し付けとかないと不安なんだもん」


どうやら今日はいつも以上に機嫌の治りが悪いらしい。その言葉には彼女の本音が入り混じり、驚きもあるが何より酷く心外だった。「一方的ってなんだ」と言い返しても、返事もなければ顔がこちらへ向くこともない。
バカのくせに深く考え過ぎてんじゃねぇよ。
どう対応するか悩んでいれば思わず溜め息が口から出ていた。それに反応してびくりと肩を揺らすなまえの不安のようなものを感じとれないほど鈍感でもない。

「……言い方、悪かった。お前からの連絡が嫌なわけじゃねぇし、鬱陶しいって思ってるわけでもない。だからそう怒るなよ」

「怒ってない」

「怒ってるだろ」

「怒ってなーいー。しょんぼりしてるだけ」

「なんで」

「っわかんない男だねぇ荒船くんは……。そんなのいつか彼女にフラれちゃ――」

無理矢理腕を掴んで膝を抱えたその体勢を崩させた。
せめて向き合えよ。言いたいことあるならハッキリ目を見て言え。

「…………な、なんちゃって」

言わせねぇけど。
さすがのバカにも感じとれるほどの怒りを向ける。視線を泳がせたなまえの目は少しばかり潤んでいた。

「そっちが怒るなんてひきょうだー」

「もういいだろ」

「よくない!……でも、このままキスしてくれたら許す」

許すも何も、今日俺の地雷をこっそりと踏み抜いてばかりなのはお前の方だからな。許しを乞うて欲しいのはこっちだ。
しかし変なところで意固地ななまえは、譲る気はないのか不貞腐れた顔をこちらへ向けて唇を尖らせ、とてもアホ面で待機している。自分の彼女に向けて言っていい言葉ではないが、変な顔。お前の神経どうなってんだ。せめて、教則本よろしく上目遣いで可愛い顔はできないもんなのか。


「お、荒船がキスしよーとしてやーんの」


思いもよらずかけられた声の方をぎこちない動きで向き直れば、一人ではなく全員がそこにいた。

「おい当真空気読めよ」

「みんな必死に気配消してたのに」

カゲや鋼だけでなく他の奴らも揃ってニヤニヤと雁首そろえてやがる。同い年のやつらを適当に集めたらしいバトルロイヤルの勝者は最後に出てきた当真だったようだ。
顔は近かったが、なまえの言いなりでするのはなんとなく嫌だった。でもあのまま誰もいなければしていたかもしれないので、言い訳も否定もしない。「終わったんなら次は俺も混ぜろ」となまえの腕を掴んだまま立ち上がる。
みんなも俺へのからかいよりも「悪いななまえ、邪魔したわ」というこいつへのからかい。余計に頬を膨らませ俺の手を振り払うと、なまえは自分の足で歩き始めた。
みんなが笑いながらもう一度、順々に仮想空間へ身を投じていく。カゲたちに弄られ膨れた面で何やら言い返している様子を、今日何個目の地雷だろうかと考えながら見守る俺は一歩後ろ。

周囲から可愛がられているといえば聞こえはいいが、仮にも自分の彼女だ。そういうのを気にしないでいられるばかりじゃない。
俺はまだお前にそんな一面を隠しているだけ。

「もう。荒船くんも参戦するんでしょ?はや――」

後に続かない俺を振り返り、一歩を埋めて来たところを捕まえた。
柔らかな唇の感触は生身と同じだとわかっていても、作られた感触のような気がして、本当は好きではない。でも今はなんとなく、俺の中でそれを言ってる場合じゃなかった。情けないほどらしくねぇ。
ゆっくりと離れたなまえが俺の胸元で言葉を探している間、視線だけで「見てないでさっさと行けよ」と訴える。当真の潜めた笑みとカゲの呆れた表情を返され残っていた二人も消えた。

「一方的なわけねぇだろ」

「うん」

結局、探していた言葉は見つからなかったのか、なまえは柔く笑って「荒船くんすきー!」と飛び付いてくる。ここが公共の場だと忘れてんのか、尻尾振ってる犬みたいに「もう一回は?」と聞いてくるバカな女。キャップのツバを下げ、面倒くさい彼女だと改めて感じながら、明日の放課後の予定を考え直していた。




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