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私が諏訪洸太郎に恋しない理由
悲鳴で目が覚めた。それに激しく揺さぶられてはさすがに起きないわけにはいかなかった。

「――っオイ!バカ!起きろ!」

「もー、おきるから揺すらないで」

一体何が起きたっていうのだろうか。トリオン兵にでも囲まれた?今日の二限が休講になったって言う話なら昨日の夜風間くんから聞いてるよ。だからそんなに慌てなくてもまだ寝ていられるのに。
昨日の夜はいつもの同い年メンバーで飲み会が開催された。場所はここ諏訪宅。みんなは一限の講義があるって言っていたようないないような。よく覚えてない。一番最初に諏訪が潰れて寝たのは確か。そこまではなんとなく記憶もある。床や机にびっしりとチューハイの缶や焼酎だかワインだかの空き瓶が転がっていて昨夜の惨劇を物語っていた。

「いやー、さすがに飲みすぎましたね」

「バカかテメーは!呑気に“飲みすぎましたね”なんて言ってる場合じゃねーだろーが!!」

「え?なに?なにか有事の際?」

「有事もクソもなにもっ……だぁー!!ほんっとお前バカ!状況みてわかれよ!」

「やだぁ、私より成績低い諏訪にバカとか言われたくないんだけど」

状況見てわかれって言われても。やっぱり飲み過ぎたかとしか思えない。諏訪でしょ、私、風間くん、雷蔵、レイジくん……うん、メンバーはいつも通りだし、ちょっと飲んだ量がやばいなとは思うけれど、変に思うところはない。ここは間違いなく諏訪の部屋だし、自分の両手や体を見ても私は私で諏訪は諏訪。
首を傾げる私を見て、諏訪はふっか〜い溜息を吐いて項垂れた。

「ところで、諏訪くんお腹すきましたね」

「ところでじゃねーし、腹減ってねーし、勝手に人のベッドで二度寝よろしく横になってんじゃねーし、頼むから状況をよく考えてみろよこのスットコドッコイ女」

「…………なに?もしかして諏訪ってば、私がベッドで寝てるのが気に食わないの?」

「たりめーだ、このバカ女」

絶世の美女ならまだしもただの大学兼ボーダー仲間の私の添い寝ごときでは気に食わなかったか。
硬いスプリングを軋ませ、諏訪はベッドから降りてキッチンの換気扇の下へ行くと煙草に火を点けた。私がこの部屋へ来る時はいつもそうするから、彼は自室では換気扇の下で煙草を吸う種族なのだと思っていた。でも昨日、私がこの部屋へ来た時、灰皿はリビングテーブルの上にあったから、どうやら諏訪は私へ気を使って換気扇の下族に移民しているらしい。

「こっちで吸っていいよ。ここ諏訪んちだし」

「バカ」

「もう。さっきからバカバカ言い過ぎ。何がそんなに気に食わないの?」

ワンルームだからそう広くはない部屋を数歩ほど歩けば、すぐに彼の傍へ辿りつく。換気扇に吸い込まれていく煙とは別に燻った匂いが漂っていた。
煙草の煙が有害なのはわかっているが、別に嫌悪するほどではないと示すつもりで彼の傍へ寄った。特に諏訪が嗜んでいるのだから、一宿の恩義さえある私が文句など言うわけはない。
けれど、やはり諏訪は私から煙草を遠ざけて嫌な顔をする。

「こっちくんじゃねーっての」

「大事な友達をそんなに嫌悪しなくてもいいじゃん!」

「お前、いい加減にしろよ?女だろーが」

「なに?女だと友達になれないって?」

「んな話してねーよ」

「じゃあなに?なんでそんなに私のこと避けるわけ?」

本当は男同士の飲み会に私が来ていることうざかった?そもそも友達じゃなかった?いつもみんなで飲んだり遊んだり、バカ騒ぎして楽しかったのに今さら何を言いだすの?

「言っとくけど諏訪がなんと言おうと私は友達だと思ってるから!」

理不尽な諏訪の怒りに対し、子供じみているけど、両頬を膨らませて彼のTシャツの裾を掴む。諏訪が例え顰めた顔でこっちを見ていようと、ちゃんと理由を言うまでは離さないつもり。
一口吸った煙草をくしゃりと灰皿へ押し付けた彼は煙混じりの溜息を吐く。

「ダチだとかそうじゃないとか言ってんじゃねーよ。男女が一緒のベッドで寝てることが問題だっつってんだよ」

「え、なんで?」

間髪入れずに疑問を投げかければ「お前のそういうとこな!」と諏訪は呆れて顔を覆った。さらには「会話になんねー」とか。会話してるよ。大丈夫。コミュニケーション取れてる。

「だって、諏訪は私なんかにそんなことしないでしょ。ヤる気があるなら寝起きに押し倒してるって」

カラカラと笑う。そんなことにならないのは諏訪が私の事をそんなふうに見てないってわかっているから。そうじゃなきゃ私だっておいそれ見知らぬ男の部屋になんて泊まらない。私たちの間には信頼関係がある。諏訪がそれを容易く崩すような男だとは思わない。
私の熱弁を聞きながら、相変わらず眉間に皺を寄せたままの諏訪は何度目になるかわからない溜息を吐いた。

「もういい。腹減ったんだろ、外に飯食いに行こうぜ」

「……やだ。諏訪怒ってるもん。やだぁー!」

「怒ってねえよ!」

「怒ってるじゃんその言い方!」

離れることでTシャツを掴んでいる私の手を振り払うつもりだったのかもしれないけど、そうは問屋がおろさないんだからな。さっきよりも強い力で両手で掴み直し、距離を詰めて見上げた。……ら、あれ?

「す、すわ?」

「ホントお前バカ!!女として意識してっから節度を保てっつってんのわかんねーのかよ?!」

「は?」

「だいたい子供産む体だろーが!大切にしとけ!」

「え、え、なんの話?」

ここまで言ってまだわかんねーのかって苦情が聞こえても良さそうなのに、一向に聞こえない。それどころか、さっきから見上げている諏訪の表情はみるみる赤くなっていっている。

「だって、諏訪、私が勝手にベッドで寝てたのが気に食わなかったんでしょ?」

「あーそーだよ。テメーが人の気も知らねーで呑気に寝こけてたから」

「それって私が嫌だからでしょ?」

「……」

あ、また赤くなった。視線が右往左往して泳いでいる。これは、これは、……諏訪らしくない表情だ。どちらかというとおちゃらけた一面とは裏腹に、いつも冷静だし、頭の回転は速い。いい加減な風貌だけど、戦闘になれば頼りになる男。東さん、とまではいかなくても後輩たちにはとても好かれている。
そんな諏訪という男が、顔を赤らめて動揺を隠せもしてない状況はどういうことなのか。ようやく口から出てきた言葉も「逆だっつの」と聞こえるか聞こえないかの声。

「え、ど、どういうこと?諏訪はもしかして私にケーオーアイしてるってこと?」

「ケーオーアイ!」

「いや、ちょっと恋だなんて言葉にし辛くて……ちょっとごめん。待って」

「今言ってんじゃねーか!」

私はおもむろにベッドの上を漁って携帯を見つけ出し、画面上にあるいくつかのボタンをタップした。
てっきり嫌いなんだと思ってたのに逆だってなると、私だって動揺してしまう。

「もしもし、レイジくん」

「あ?!なんでレイジに電話してんだよ!」

「授業中?ごめん、それどころじゃないって。話聞いて。ねぇ、朝起きたら諏訪が私にケーオーアイしてるっぽいらしいんだけど、これって、私、告白されたってこと?」

そういえば昨日、風間くんが「付き合うなら俺たちの中で誰がいいか」なんてらしくない話題を振ってきた。疲れていたのか諏訪は珍しくすぐに酔い潰れていて、私たちだけでワイワイ飲んでたんだけど。

「……どう思ってるかって……驚いてるに決まってる!!うん、うん……。だって、まさか…………いや、そりゃ言ったけど」

私は風間くんの質問に少し考えて「諏訪かなぁ」と答えた。

「一緒にいて楽しいし、気を許せるし、意外と優しいとこもあるし……言ったよ?でも、諏訪は友達だしそんな風に私を見てない……って」

私は自分の顔がバカみたいに熱くなっていることに気付いた。携帯を離してもやっぱり熱いのは自分の顔。レイジくんがなにやら言っているけど一つも思考まで届かない。
シナプスシナプス応答せよ。
その隙に、同じように顔の赤い諏訪に奪われてしまった携帯。
なんでこんな近い距離にいるのよ。離れてよ。近い。胸がキュッと音を立てたじゃないかバカバカバカ!


「それがお前の気持ちかよ?」


真剣な顔で詰め寄って来ないでよ。嫌ってわけじゃなくて、こんな距離に来られるのは変に意識して困ってしまう。
さっきまで吸っていた煙草の匂いが呼吸するたび体に取り込まれて鼓動を加速させていく。ま、待って、ねえ、待って。こんな急展開についていけるわけない。

「と、友達から始めさせて!」



この後、バーカと笑われたけどさすがにこれは自分でもバカだと思う。動揺は思考の異常回路を作るみたい。

私が諏訪洸太郎に恋しない理由は、だって、ずっと友達だと思ってたんだもん。まさかそうじゃないなんて思わなくて……そりゃそんな風に思ってる女がベッドで呑気に寝てたらキレるよね……。
どきどきと鳴る胸を押さえて、さっきまで無自覚に詰め寄っていた自分を責めた。




※加筆修正勝手にしちゃったのでおまけです

「おーおー、なまえチャン。ちょっと話しようぜ」

「わ、っ私帰る!」

「逃がすかよ」

「や、無理。ダメ。考えられない」

「考えろ。頭動かせ」

「無理!諏訪近い!離れて!」

「やだね。このままチューしてもいいんだぞ」

「はぁ!?は!?はぁ!?…………わかった」

「はぁぁッ!!?」

「ちゅーしたら、……考えられる、かも」

「なわきゃねーだろ!!」

「す、すわが言いだしたんじゃん!」

「もー、ホントお前バカ!」






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