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お誕生日番外編 おバカの赤いリボン
「覚くん、お誕生日おめでとう!」

人の行き交う廊下で今日の主役を捕まえる。

「ワー!ありがとー!それじゃあまた」

「ちょ、ちょっと待ってよ!!」

去ろうとする覚くんの手を掴んだ。だって、なんで?!なんで逃げるの!?

「ちなみに聞いてあげるけどなに?」

「やだなぁ!プレゼントだよプレゼント!」

私はズイっと赤いリボンで結ばれたそれを覚くんの前へさし出す。

「で?」

「私をも・ら・っ「やだ」……なんで?!まだ最後まで言ってないじゃーん!」

赤いリボンで結ばれたのは私の両手首。 獅音くんにわざわざ結んでもらったのに。 周りはすごくざわついていたけど、獅音くんは「誰の入れ知恵?」って聞きながらも笑いながら結んでくれたよ?

「男なら!上げ膳食わぬはなんとかって言うでしょ?!」

「据え膳食わぬは、ね。」

「どっちも一緒!」

近寄った距離はすぐに一歩引かれ遠ざかる。おかしい……なんでだ?英太くんや隼人くんはこうしたら喜ぶと言っていたのに。それどころか、覚くんは目も合わせてくれないし一定の距離を保ったまま。

どうしたものかと思っていると、対向して歩いていた生徒が肩にぶつかってきた。謝罪なくすぐに走って行くので気を付けろと文句を言おうかと振り返るが、その姿を見送るあまり、結ばれた手の事を忘れ後ろにバランスを崩す。

「あのねぇっ…!お前が気を付けろよ」

「はは、ごめんごめん…」

覚くんが腰を支え腕を引いてくれたおかげで尻餅を突かずにすんだけれど、思わぬ近さにドキリとしてしまう。良い匂いもするし、大きな手と逞しい体により安定した支え。心配と呆れを含んだ困った表情もたまらない。
はぁ…なんでこんなかっこいいんだ私の彼氏は…

「なまえ、顔気持ち悪い」

「えー?照れちゃった??カワイイ彼女にそんなこと言われて照れちゃった?」

「可愛いは認めてあげるけどね。ほら、こっち来て」

……っ!?可愛いを、覚くんが、否定しなかった!ようやく私を認めてくれたのね!?
なんて自分でもバカな考えだと思うけれど、浮かれてしまうのだ。好きな人に可愛いって言ってもらいたい、好きだと言ってもらいたいのは乙女の永遠の課題!

そんなぽやぽやした頭でついて行くと、廊下の角、周りの視線から死角になった場所の壁に隠される。私の視界からは覚くんと階段から降りてくる人しか見えない。その階段も屋上に続くものだから、この時間に降りてくる人なんてほとんどいないだろう。
だから、見上げればすぐ近くに覚くんが見えるだけ。


「お前さ、意味わかってこういうことしてる?」


リボンごと引っ張られる手。
覚くんがリボンに薄い唇を寄せる。眉間に皺寄せ、すこし伏し目なのがきっと恥ずかしさのあらわれ。
密着した体が熱い。しゅるりと解かれたリボンが手首を自由にした。

「わかってるよ?ちゃんと」

覚くんの両頬を包んで引き寄せると、こつんと当たる鼻。

「なんでこういう時だけ、ためらいないのかねぇ」

次に触れ合うのは唇。
ためらい?そんなものは必要ない。欲しいモノを欲しいだけ、要求する。
ひとしきり彼の唇を堪能して、はたと思い出す。

「あ、ちゃんと誕生日プレゼントもあるよ!」

「ケーキでしょ?昨日寮中に甘い匂いがしてた」

「うん!ブラウニー!」

「前回ひどい失敗してたもんな〜。今回はちゃんと食えんの?」

この日のために友人に手伝ってもらいながら何度も練習を重ねた。試作品たちももちろん覚くんに食べてもらっている。

「今回は合格点もらえると思うよ!」

「どうだか……でも、その前にもうひとくち、お前をちょーだい」



「ん、覚くん、おめでと」

甘く絡まる舌にお祝いと愛を込めて。



H.B.2017



HQ キスは七回の約束 [ お誕生日番外編 おバカの赤いリボン ]