[君と喧嘩して](1/1)



それは吐いた息が白くなるほど寒い冬のこと…――


「さようならー」


学校から次々と生徒達が下校する。
私と総悟君もその中の一人。


「総悟君、帰ろ」

「チッ、またあんな一之瀬と帰んのか…。総悟君っ!今度はあたしとも帰ってね」

「あんな一之瀬とはなんじゃい!」


総悟君は学校に入ってからすっかり人気者。
ファンクラブまで存在するほどの人気。
でも私と仲がいいって話があるからか、誰も告白する人はいないらしい。

へっ!やってやったって感じさ!!

小さくガッツポーズする私を変な目で見る総悟君。
二人で並びながら下校していると総悟君がいきなり呟いた。


「この世界は平和でさァ…」

「え?どしたの、いきなり」


総悟君の制服はものっそい似合う。
学校生活にも結構慣れてきた総悟君。


「俺のいた世界には天人つって悪い奴がいたんでさァ。でもこの世界にはそいつらがいない…だから平和なんでィ」

「へー…たしかに、この国は平和だよ。でもね、世界にはもっと不幸な国があるんだ」


制服の上からコートを着て寒い道路を歩く私と総悟君。
話をする度に白い息が空中に舞う。

…そういえば、今日はバイトだな――


「総悟君、悪いんだけど今日バイトの日だから先帰ってて」


これまでにも何日かバイトの日があった。
その度に総悟君の顔が歪む。


「今日もですかィ?」

「うん…ごめん」

「別に謝る事ァないんですぜ?でもやっぱり…俺もバイトしまさァ」

「え?なぜ?私一人でも結構稼いでるから大丈夫だよ?」

「でも美香ばかりに負担はかけさせられねェ。お願いでさァ」


少し悩む。
総悟君がバイトはじめたら総悟君の身体にだって負担はかかるだろう。


「そこまで言うなら…でも本当大丈夫?私なんかの心配はしなくてもいいんだよ?」

「前の世界は超キツい仕事だったから大丈夫でィ」

「そっか…店長にお願いしとくね。総悟君も一緒に来てね」

「了解でさァ」


そういえば…今日って何日だっけ。
なんだか、大切なことを忘れているような気がする。


「今日って何日だっけ?」

「たしか…12/12でさァ」


12/12…か。
バイトなんかしてる暇ないじゃん。
今日は大切な日なのに。


「ごめん、やっぱり今日はバイト行けないから先帰ってて」

「なんでですかィ?」

「大切な用事があるの…本当にごめん」

「それは本当ですかィ?」

「うん、ごめん」

「なら別に大丈夫でさァ」


ごめんね、総悟君。
今日はバイトよりも大切な用事があるんだよ。


「どんな用事なんでィ」

「それは…言えない。」

「俺に言えないような用事なんですかィ?」

「ごっ、ごめん…」


なんだか総悟君が怒っている様子。
なんでこんなに怒っているのか私には理解不能だ。


「もういい、帰る」

「なんで…そんなに怒ってるの?」

「別に怒ってなんかねェや」

「怒ってる!何か不満があるなら言ってよ!!」


歩き出す総悟君の腕を掴む。


「…が」

「ん?」

「美香が俺に言えないようなことしてるからいけないんでィ!!」


総悟君を引き止めた私の手を振り払い歩き出してしまう。
…申し訳ない気持ちで胸が一杯になる。
遂に私の目から涙が零れ落ちた。




君と喧嘩した…――


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