「あ、総悟だー!今日は土方さんと見廻り?」
巡回中、突然響いた甲高い声に、俺と土方は足を止める。
振り返ると、ニコニコと笑う団子屋の娘…名前。
いつものように髪は簪で綺麗にまとめ、いかにも清楚な着物を着ていた。
「まァな。名前は?今日はエラく暇そうじゃねェか」
「うん、この通りがら空き!困ったよ、向こうに大きな甘味屋出来ちゃったからさぁ」
苦笑いで頭をかく名前。
外からでも見渡せる店内には、殆ど人はいなかった。
いても、看板娘である名前目当ての男が数人。
団子を頬張りながら名前をチラチラと見つめるだけの、ヘタレた連中だ。
当の本人は、その熱い視線には全く気づいていなかった。
「総悟と土方さんも食べて行かない?1本くらいお団子オマケするよ」
「悪ィが俺達は仕事中だからな。またあとで…、って総悟ォ!?」
土方を無視して、店内にズカズカ入る俺。
名前は暇で困ってるみてェだし。
常連客はキモいオタクばっかだし。
ちったァ助けてやろうじゃねーか。
「名前、みたらし団子頼まァ。めちゃめちゃ上手ェの」
「あ、うん!毎度ー」
満面の笑みで笑う名前。
公務執行妨害だ。
嬉しそうに茶を入れに行く名前に、仕事なんてやる気無くなっちまった。
「つーことで、俺は名前の見張りしとくんで先行っててくだせェ土方さん」
「お前バカか?名前なんか見張らんでいいから攘夷志士を見張れ」
「いや、でも名前の団子上手いんで」
「何言ってんだ。テメェの目当ては名前本人だろうが」
愛しの看板娘
おかげで俺まで常連だ
「はい、お待たせ総悟!」
「どーも」
「ほら、土方さんも食べてって?ちゃんとマヨネーズかけてきたから」
「あ、あぁ…サンキュ。……総悟、10分だけだからな」
「ヘィヘィ」
ま、あの笑顔が見れんなら
こんな古びた団子屋も、捨てたモンじゃねェな。