「大切な女にやる花をくれ」
それが彼が私に初めて会った時に発した最初の言葉である。薔薇をください、百合をください、という注文なら何度も聞いたことがあったが、大切な女にやる花をくれ、などという注文は初めてだった。今時彼女に花を贈る人なんてそうそういないのでとても驚いてしまい、しばらく目を点にして注文した彼を凝視してしまった。「早くしろィ」とせかされ我に返る。
「えーっと・・・彼女さんにでよろしいですか?」
「・・・家族、姉でさぁ」
「あ、すみませんっ」
彼女へだと思っていたが全くの勘違い。お姉様への贈り物だった。彼女へならマーガレットやチューリップなど愛の花言葉がある花束にしようかと思ったのだが・・・どんな花束にしようと迷っていたらまた彼が話し始めた。
「今月誕生日なんでさぁ。物とかより自然のものが好きな人だから今年は花束贈ろうと思ってんでィ」
「そうなんですか!きっと喜んでくださると思いますよ」
こんなお姉さん思いの弟さんを持てて幸せなだなぁと思いつつ、その思いに答えなければとお姉様の容姿や性格などを聞いていく。彼の口から発せられる言葉を一つ一つ噛み締めお姉様を想像する。とても綺麗で、体を患わっているけれどとても明るくて、弟思いで、一途で・・・そしてレンゲソウ、デージー、フリージア、カラー、ジャスミン、百合、そしてカーネーションが入った花束が出来た。
「すみません、時間かかっちゃって・・・」
「いや、こっちこそ語っちまってすまねぇ。でもアンタに花束つくってもらえてよかった」
「そ、そんな!滅相もない・・・」
釣りはいらねーから、と行って店を出て行った彼に私は既に惹かれていた。

その日から彼は頻繁に私の店に足を運ぶようになった。花を買いに来るわけではない。ただ雑談するだけ。花屋なんてそんな沢山お客さんが来るわけでもないので、彼が話し相手になってくれるのはとても嬉しかった。最初は緊張して相づちを打つぐらいしか出来なかったが最近は敬語も外れ、友達以上恋人未満の域に達していると思う。その恋人未満の壁を飛び越えたいけど今の関係の崩すのが怖く、それは中々叶わぬものだった。そして彼は相変わらず花を買うのは月に一度、お姉様の誕生日の時だけだった。


ある日突然彼は店に来なくなった。何かあったのだろうか。彼は真選組の一番隊隊長だと言う。すごく心配だが私のような一般市民が口を出すわけにもいかず、ただただ彼が店に来るのを待った。どうか無事でありますように、と。そう祈ること一週間後、彼はようやく店に来た。
「総悟っ!久しぶり!怪我はないの?どうしてたの?」
「・・・仏花をくれねぇか?」
「え?」
今にも崩れ落ちそうな悲しい顔で、かすれた声で、彼は仏花をくれと頼んだ。お姉様が亡くなったんだ。聞かずとも分かった。あれほど大切にしていたお姉様が亡くなった事実に、私は泣きそうだった。けれど一番悲しいはずの総悟が堪えてるのに私が泣くわけにはいかない。必死に涙を堪えながら総悟に仏花を渡した。彼はありがとう、とか細い声で言って店を出た。その日から彼は年に二回花を買いに来るようになった。


「アイリスあるかィ?」
彼が年に三度目の買い物をするのはこれが初めてで。花の名前を言って買い物をするのもこれが初めてで。私は初めて彼と出会った日のように目を点にして彼を凝視してしまった。
「おいコラ。アイリスあるかって聞いてんでィ」
「あ、あります」
「急に敬語使うなよ、気持ち悪ィ」
「うるさいな!」
一本だけ、と言われて一番綺麗なアイリスを一本とり包む。アイリスの花言葉ってなんだったかなぁ・・・ど忘れしちゃった、後で調べよ。そんな事を考えながらはい、と総悟に花を渡す。
「さんきゅー。で、はい」
「・・・は?」
総悟に渡したアイリスは私に返ってきた。は?なにコイツ。何か汚れてたかな?
「明日朝の7時にここに来いよ。じゃあな」
「え、ちょ、ええ!?花は!?」
「・・・名前にでィ。ばーか」
そう言っていつものように店を出て行った。状況をあまり理解できないままとりあえず明日来いと言われた場所が書いてあるメモを見てみると、そこは超高級ホテルだった。何かのパーティーに誘われてるのだろうか。次にアイリスの花言葉を調べる。
「え、これって・・・」




翌朝ホテルに時間通り行けば普段来ている隊服ではなく正装に身を包んだ総悟が立っていた。
「おはよう、これ昨日の返事」
そう言って店から持ってきたアヤメを渡す。
「俺アイリスしか花言葉知らねーんだけど」
「自分で調べろばーか」




「あなたを大切にします」「あなたを信じます」






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -