あたしには好きな人がいる。 高校に入学してからずっとずっと好きな人。 かっこよくて、なんでも出来ると言ってもいいのかもしれない。 勉強はどうだか分からないけど…。 性格は最悪、ではないが、かなりのSっぷり。
あたしはそんな人に惚れてしまったんだ。 なんでだか分からないけど…惚れてしまったもんは仕方がない。 一目ぼれではないけど、たしかに好きだって感情はあたしの心の中にあるんだ。
あまり話せないし、話しかけられない。 好きだと分かってしまうと話しかけたくても話しかけられない。 近づきたくても近づけない。
そんなあたしの異変に気づいてるのは、あたし自身だけだった。
「あや、最近ため息ばっかり吐いてるネ。なんかあったアルか?」
「いやいや、何もないよ。」
好きな人が出来てからというもの大きなため息ばかり吐いてしまう。 それはよくあること。というか、あたしに好きな人が出来たら当たり前といってもいいようなことなんだ。 あたしがため息を吐く回数が多くなるごとに友達は心配する。 でも、話せない。好きな人がいる、だなんて皮が剥けても話せない。
「おい、そこの女子二人。次は移動ですぜ?早くしないと遅刻でさァ」
「わ、分かってるから!ちょっと話してるだけだし…別にいいでしょ!?」
「悪いだなんて言ってやせんぜ〜」
話しかけられたことにあたしの心臓はいつもよりうるさい。うるさすぎる。 あたしから話しかけることはできない。 でも、向こうから話しかけて来ることはあるんだ。 沖田君が…あたしに話しかけてくれることは。
…それより、女子二人? あたしと妙ちゃんと神楽ちゃんで三人のはずじゃあ…。
「おい、待てヨそこのサド野郎!お前、私のこと忘れてんじゃねーぞコンチクショー!!」
「視界に入りやせんでした」
「ムカつくネ!今ここで抹殺してやるぅぅう!!」
「神楽ちゃん、落ち着いて落ち着いて…」
神楽ちゃんと沖田君は仲いいんだ。あたしよりもずっと。 でも、神楽ちゃんはそれを否定している。 あたしの目には仲がいいとしか映らないのに神楽ちゃんは仲良くないアル、といつも否定するんだ。
神楽ちゃんは沖田君と仲いいから沖田君の好きな人知ってるのかな? もしかして、沖田君は神楽ちゃんのことが好きなのかな?
「あやちゃん?どうしたの?ボーっとして。そろそろ行かないと本当にマズイわよ」
「あっ…ああ、ごめんごめん。ちょっと考え事さね。いこっか」
「うん。神楽ちゃんも早く」
「ああ!待ってヨ、姉御ォ、あや〜」
人って恋するとここまで変わるもんなのかな? あたしは、初恋ではないけどいつもこんな感じだったから…。 神楽ちゃんや妙ちゃんはどうなんだろう?
普通の女の子やドラマで見る女の子はみんな頬を染めていつもより優しくなったり、いつもより可愛くなったりしていた。 でもあたしはそれの逆。 頬を染めることはあるかもしれないが、優しくはならない。 むしろ突き放すような態度を取ってしまうんだ。
だからいつも思う。 馬鹿だな、あたしって。
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