特に楽しくもないHRが終わり、授業も終わって、下校時刻。
…その下校時刻から何時間か過ぎて、今は八時半。
沖田君は九時ごろ迎えに行くと言っていたからあたしはここで待機してるだけ。


星を見るのにお金はいらない。
望遠鏡なんかも特に必要な訳じゃない。
今日は七夕なんだから。大きな天の川が見えるはず…。


「お母さん、これからちょっと散歩行って来るね」

「うん、行ってらっしゃい。あまり遅くならないうちに帰ってくるのよ」


お母さんに出かけることを伝えて外へ出る。
今はもう九時ちょっと前なのに外はまだ蒸し暑く汗が噴出しそうだった。
あたしは元々汗があまり出ない方だからよかったけど、汗っかきの人は夏は大変だろう。


あたしは蚊に刺されないために足を上下に動かしながら待っていると沖田君が遠くから自転車を引きながらくるのが見えた。
あたしが沖田君に手を振ると沖田君は急いで走ってきてくれた。


「待たせちまってすいやせん」

「ううん、別に大丈夫。どこから見たら星、綺麗かな?」

「学校。学校の屋上。」

「え、無理。怖いんだけど。」

「怖くないから大丈夫でさァ」

「いやいやいやいや、怖いから」

「俺がいるから平気でさァ」

「アンタがいるから余計に怖いんですけどォォオ!?」

「いいから行きやすぜ」


たしかにあたし達の学校の屋上には展望台っぽいものがある。
あそこは封鎖されていてもう入ることは出来ないけど、展望台があるくらいなんだから屋上から見る夜空は綺麗なんだろう。


あたしはいつもの坂道でもいいんじゃないかと考えた。
でも、あたしは寝転がりながら夜空を見るのを想像していたから坂道に寝るのはどうかな…と思い、提案しなかった。
多分、沖田君もそんな感じなんだろう。


「じゃあ、後ろ乗って。」

「え?いいの?」

「いいもなにも乗れつってんだから乗っていいんでさァ」

「あ、はい…」


沖田君は自転車の後ろを手で叩きながら言った。
そこに乗るのはあたしでもいいのかな?やっぱり彼女を乗せたいもんじゃ…。
とりあえずあたしは後ろに乗らせてもらい沖田君に捕まった。


あたしが乗ったのを確認すると沖田君はかなりのスピードで自転車をこぎ始めた。
結構なスピードだったからかな?いつも長く感じる学校までの道がすっごい短く感じられた。


学校に入って階段をせっせと登っていくと屋上にたどり着く。
屋上に行ったらあたしたちは二人並んで横になった。
夜空には綺麗な天の川が流れていた。
天の川の端と端には織姫と彦星がいた。


「あたし達はさ、毎日会えるけど織姫と彦星は一年に一度しか会えないんだね。だからあたし達は幸せなんだ…」

「あーあ…言いたいこと言われちまった。でも一つだけ言われてなかった。」

「え?何々?」

「好きでさァ。あやが好きでさァ」


涙が出るかと思った。
でもそれ以上に嬉しくて…涙よりも先に精一杯の明るい笑顔が顔に出た。


沖田君もあたしと同じ気持ちだったんだ…。嬉しい、嬉しすぎるよ…。


「あたしも好きだよ。沖田君が大好きだよ。」

「…キス、しちゃう?」

「しちゃおっか。」



星空

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