サクラ
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桜舞う季節、彼女に恋をした。


誰しも望みがある。
それは、小さな望みかもしれないし大きな望みかもしれない。望みの形はそれぞれだ。
もしもその望みが叶うとしたらあなたは何を望みますか?


エイプリル  -サクラ-



入学式、きれいな制服に身を包んだ新入生たちが新しいことへの期待と不安を抱え、緊張した様子で僕の前を通っていく。
僕は、新入生たちを歓迎した。「おめでとう」と言いながら。

ほとんどの人が僕に見向きもせず通り過ぎて行くなか、1人の女の子が僕の目の前で足を止めた。
そして、僕のほうを向いて、笑顔でこう言ったのだ。

「ありがとう」

勘違いなのかもしれない。僕にお礼を言う人なんて、今までいなかったし、そんなことはありえない。
でも、やっぱり勘違いだとは思えなくて―――。
誰も見向きもしない僕に向けたその笑顔に、その言葉に、僕は、恋をした。
だけど、この気持ちを彼女に伝えることはできない。絶対に。
だって僕は――

桜の木なのだから。

人である彼女に恋をすること自体ありえないことだ。ましてやこの気持ちを彼女に伝えることなんて――

「できますよ」

突然、声がした。
とっさに声のしたほうを見ると、そこには一人の青年がいた。
下を向いていて髪で顔が隠れているせいか表情が読めない。
ただ、口元には笑みが浮かんでいる。
僕は、自分に話しかけているはずがないと思い、そのまま彼を見ていた。
むろん、人間の彼が僕に話しかけることなどありえないのだが。
しかし、彼はまた言ったのだ。
「あなたの望みはなんですか?」
近くに人がいる気配はない。となるとやはり彼は僕に言っているとしか思えない。
しかし、彼はなぜ桜の木である僕にこんなこと言っているのだろうか。
「あなたの強い望みが私を呼んだんですよ」
まるで僕の気持ちを読んだかのように彼は言った。
『え?』
「あなたには叶えたい望みがあるでしょう?」
『のぞ・・・み・・・・・?』
「そう、私にはどんな望みも叶えることができる、“エイプリル”の店主です。・・あなたの望みはなんですか?」
望み・・・そんなのひとつに決まっている。
『・・・彼女に、この想いを伝えること・・・・・』
それがあなたの望みですか、と言い青年は顔を上げ、その青く澄んだ瞳を僕に向けた。
「その望み、叶えましょう」
『本当に・・・?人間でない僕が彼女に想いを伝えることなどできるんですか?』
「できますよ。ただし、対価を支払ってもらうことになりますが」
『対価?僕には、払えるような対価なんて僕には・・・』
ない、と言おうとしたら青年がそれを遮り、僕を指差した。
「あなたの桜の花で結構です」
『桜?本当にそれでいいんですか・・・?』
「ええ、そのかわり5年間です。その間あなたは満開の桜で生徒を迎えることができなくなりますがそれでもいいですか?」
5年間・・・・満開の桜を生徒たちに見せることができなくなる・・・・・。それでも――
『―いいです』
その言葉を聞いた青年は、フッと口元に笑みを浮かべ、
「分かりました。それでは、明日、準備をしてまた来ます」
そう言い、お辞儀をして、消えた。
そう、消えたのだ、確かに。一瞬のうちに目の前から居なくなった。
一体、彼は何者なのだろうか?
そういえば“エイプリル”の店主だと言っていた。
“エイプリル”とは、なんなのだろうか?
『明日、聞いてみよう』
そう思い、僕は彼女のいる校舎を見続けた。


 

bkm
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