短編たち | ナノ
駄犬篠塚
「ああああ!!もう!!!!」
持っていたボールペンを書類に叩きつける。
あ、ごめんごめん篠塚がびっくりして固まってる。
「んだよ今度は。」
「きなこ、あんこちょっとおいで」
「「はーい」」
きゅう、と抱きしめればきなことあんこもえへへとしがみつく。どうしよう。可愛い。
呆れたような支倉はこんな光景は見慣れているからか、すぐにまた書類を片付け始めた。
風紀に呼び出されて一週間。
つまりあのマリモにキスされて一週間。
反省文はすぐに提出したし、万事解決。
に思えた。
「支倉、なんであのマリモはすぐ物を壊すわけ?死ぬの?やっぱりウンコなの?」
「ウンコはやめとけよ…
器物破損の書類なんてまだ軽いだろうが。
篠塚は損得計算までしてんだぞ。」
「そぉだよ〜波ちゃん!俺のが大変だよ!」
「黙って駄犬」
ああまた篠塚にキツく言ってしまった。
ごめんて。そんな目で見るな。
マリモが転がり込んできてしばらく経ったが、あいつは想像を上回る厄介マリモだった。
まず器物破損。
机から始まり窓は割るわドアは壊すわ、食堂の皿が何枚も犠牲になった。
加えてあのマリモはイケメンホイホイだった。
風紀の灰谷は惚れたらしい。きんもちわりぃ。ついでに同室の一匹狼、爽やかくん、クラスの委員長。まぁ気に入ったとか言ってたあたり支倉も釣られたのかもしれない。
そんなのはいい。
全然いい。
あいつらがマリモの尻を追っかけてることは至極どうでもいい。
問題は追っかけてるのが親衛隊持ちのイケメンであることと、マリモが親衛隊嫌いであるということだ。
「…また制裁か。つぅか制裁されんのはいいけど報復してんじゃねぇよ死ね」
「いや被害にあっちゃ駄目だろ」
「うるさいバカ猿」
おまけにあのマリモ、喧嘩に強いらしい。
どこまでマリモなんだ。阿寒湖に帰れ。
さて。
器物破損の書類を書き終わり。
支倉を一発なぐり。
きなことあんこを抱きしめて。
その書類を提出しに犬を連れて生徒会室を出た。付いて来いといったらなんか上機嫌に抱きついてきたから床に投げつける。
栄養剤投げてもシャーペンぶっさしてもご機嫌な篠塚は生徒会一タフだなとおもう。
いや、支倉もまぁタフか。
「俺さぁ、そのまりもちゃん?に会ったことないんだけどさぁ」
篠塚は明るすぎる茶髪(というかもう金髪でいいかもしれない)をくるくると指でいじりながらくびをかしげた。
俺より2センチくらい背が低く、俺と似たように筋肉がつきにくいらしい篠塚はネコにはもちろん、時折タチからも人気を得ている。
下半身野郎という名に従いセックス依存症かてめぇか、と言いたくなるくらいには食い散らかしている。
いや、うん。お前が楽しいならいいよ。
でもお前に食われたあと放置されたチワワが俺に縋ってくるのやめさせてくれないか。
「篠塚もマリモの尻追いかけたいの?追いかけてもいいけど掘るなら徹底的に掘ってくんない?」
それかお前が掘られろ。
そしたら仮眠室をラブホにすることもなくなるかもしれねぇし、そっちのほうがいいかも。
「やぁだよ」
掘られろマリモ、掘られろ駄犬、なんてぼんやり考えていたら耳元でいやに艶っぽい声が響く。
いやまぁ篠塚なんだけど。
「…なにしてんだ犬のくせに」
「えー?壁ドン?」
「死ね。おとなしくマリモでも掘ってろ」
身長俺より低いくせになに俺を囲っちゃってんの。うぜえ。
「やだってばぁー、見た目も重視派なんだよ俺」
「んじゃマリモに掘られろ」
なぁにが見た目も重視派だ。
見た目もクソもまず親衛隊を女代わりにしてる時点でいろいろ間違ってるだろこのクズ。
「それこそやだなぁ、そうだぁ、
波ちゃんが俺に抱かれてくれるならい…ぐえっ」
言わせるものか。膝で腹を蹴ればいとも易く崩れ落ちる篠塚。
クレームは無視して置いていった。
どいつもこいつも頭湧いてんじゃねえの。
まとめて去勢してやろうか。
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