短編たち | ナノ



イベント発生の兆し2





昼休み、馬鹿の支倉の有言実行をこれほど恨んだことはない。


「んじゃいくぜ」


いつもだらだら仕事してるくせにがりがりやっていた支倉は意気揚々と立ち上がり寝ていた篠塚の首の根っこを掴んだ。


「ねえねえ波ちゃん」
「転校生って」
「「どんな子なの?」」


「…キチガイ、としか言えない。てか本気?きなことあんこに危害加えそうで怖いんだけど俺」


「大丈夫だよ」
「そこらの不良よりは」
「「強いから」」

「耳が酔うから交互に喋んないで、かわいいなこのやろう」


ぎゅっと抱き寄せて癒されていると馬鹿が俺の首の根っこまで掴んできた。


「なに現実逃避してんだよ副会長サマ」

「黙れよ会長の分際で」

「分際もくそも一番偉いだろうが」

「死ね!」



ーー


廊下を一丸となって歩き始める。
なぜか。

「まじ双子書記抱きてぇ」
「会計も抱けるわ」
「波田様ぁ〜!抱いてください!」
「支倉様!踏んでください!」


きなことあんこの安全のためです。
篠塚もなんか言われてるけどあれはいいや。むしろ一回掘られて反省すればいい。

やっぱこうして聞いてると自分のケツ穴がどんなに安全かがわかる。
支倉は踏んでくださいって言われてめっちゃ複雑な顔してる。どがつくノーマルだから引いてるのかもしんない。


食堂に通づる廊下を歩き、ドアを開けるとこれまた耳がぶっ壊れるんじゃないかってくらいの大声が響く。

チワワの声かわいい。
切実に。


「おい波田、例の奴はどこだ」
「きなこ、あんこ、ご飯は何にしますか?」
「僕たちは」
「えっとね」
「「カレーライス」」

今日はハエがうるさいな。
きなことあんこのためにカレーライスの食券を買い、自分の分の和食定食の食券を買い、きなことあんこを連れて特別席に上がった。


「ちょ、波ちゃん会長泣きそうだよ」
「会長は強い子なので泣きません」
「な、泣かねえよ!」


あとから上がってきた篠塚が支倉にタオルを渡しながらおろおろしている。
ちょっと目が赤いから泣いちゃったのか支倉。弱い子め。


「なんで波ちゃんおそとだと敬語なの?」
「なんでなんで?」

「言葉遣い戻すとうっかり下品なこといいかねないからな、俺」

ケツ穴とかちんことか余裕。
ウンコとか話してて二回は出てくるフレーズだし。


「それは妥当な判断ですね、先輩」
「あ、橘。お前サボりすぎかよ下水に流してほしいの?」
「役員席だからって聞こえかねないんで敬語に戻してください」
「はい」


橘は書記。
後輩のくせに意見してくる生意気な後輩だ。有能だからいいけど。

視線を感じて斜め前を見れば支倉がなんとも言えない顔で見ていた。
え、もしかしてまだあのキチガイに会いたいとか思ってるんだろうか。


「…支倉、転校生の写真なら見たんですよね」
「ああ」
「なら自分で探せばいいんじゃないですか」
「!そうだな!」
「お前は馬鹿かよ」


あ、思わず口悪くなった。

にしてもこいつ本気で馬鹿だ。
はぁ、とため息をついて一口ご飯を口に運んだところで腕をぐいっと引かれた。


「見つけた!行くぞ!」


なんで俺を連れてくんだよ死んでくれ





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