短編たち | ナノ



遭遇4



「まじお前ふざけんなよ」


また俺を組み敷いて口元をにたにたさせるマリモ。


「ふざけてないぞ、俺は。
だってナミが勝手に逃げるから。

まったくナミはダメだな」

「っ、」


マリモのいつものギャンギャンしたうるさい声ではない。静かなトーンには少なからず怒りが含まれてるらしい。


静かな、でもねっとりとした声に俺の中の警報が鳴り始める。これは、結構、やばいやつだ。

わりかし人生的な意味で諦めようとした。
だってマリモの力くっそつぇーし、なんで掘られなきゃいけねえのかやっぱわかんねーけどとにかく動転してそんなことを思った。

だがまぁ一瞬だけどな。

ふたたびマリモの手が俺の体を撫でようとしたとき



「おい、波田。すげー音したけどお前大丈夫か?」


こんこん、と遠慮気味に俺の部屋をノックする。その声に目を見開いた。


チャンスだ。
お前こういうときはほんと役に立つよな

そんなことを思いながらスゥと息を吸い込んで、思いっきり叫んだ。


「馬鹿猿!!!!さっさと助けろ!!!」


支倉お前グッジョブグッジョブ


は?とかえ?とか戸惑った声が聞こえたのち、俺の部屋の扉が蹴破られんばかりにすごい勢いで開いた。


「…え。」

「もー!唯!今いいところなんだぞ!」


俺を組み敷くマリモをみて支倉はカチンコチンに固まった。ついでにその目が肌蹴られたシャツだとか外されたベルトが転がってるだとかを見てると思うと屈辱的すぎて死にたい。


「はやく助けろ、殺されてえの?」

「お、おう…、え、修太、お前どきなさいこら」

なんだそのオカン口調は。
気持ち悪い、と支倉をじっとり見つめるが支倉は予想外に深刻そうな顔をしていた。


あーそっか、支倉マリモが好きだからさすがにショッキングなのか。


「唯!なんで邪魔すんだよ!!」

「修太、とりあえずお前は1回ここを出ろ。今日のはさすがに良くねえぞ」

「支倉お前も部屋出ろよ」


マリモの首根っこを掴んだ支倉は険しい顔でわりと容赦なくポーンッとマリモを部屋から投げ出した。

立ち上がって乱された服を直した俺はむだに険しい顔をして玄関に突っ立っている支倉を訝しむ。


ピーピー文句言ってドアをドンドンと叩いていたマリモも少しすればあきらめて去っていった。



「……おい支倉、お前もさっさと帰れ。
せっかくの休みの時間を削んじゃねえ」


ぼーっとドアを眺めていた支倉はゆらりとこっちに振り返るとなぜかじりじりこっちに近寄ってくる。


「聞こえねえの?帰れって言ってんだけど」

「……波田、お前」

「何だよ……うわっ!?」



がしっと腕を掴まれる。
見たこともない真剣な目にゾワゾワと鳥肌が立った。

冗談じゃねえ

こいつなに考えてんだ。


「ちょ、ここ俺の部屋だぞ!?ずかずか入るな!死ね!!!!」

「……」


待て待て、なんでお前俺の寝室に直行してんの?は?


「何するつもり…ぶふっ、」


引きずるように寝室に連行された俺はそのまま乱暴にベッドに向かって投げられた。

トン、と俺の顔の両脇に支倉が手をつく。
まるでキスするかのような至近距離にますます頭が混乱する。


見たこともない険しい顔と、強い力にたじたじの俺はとにかく意味わかんねえ死にてえなと思った。












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