親衛隊長の憂鬱



「総隊長、これ資料です」

ほっぺたを真っ赤にした先輩がわざわざ教室に分厚い冊子を届けてくれた。

「すみません先輩わざわざ」

そう言って受け取ると

「そんな、総隊長のためですから」

そう言って走り去ってしまう。

「おい、なんだよいまの〜
遊の親衛隊みたいになってんぞ」

そばに座っていた伊月がからかうようにケラケラと笑った。




俺はここ、白樺学園の生徒会長の親衛隊の隊長をしている。

白樺学園とは都心から離れ、孤立した場所に建っているセレブ校であり、男子校であり、全寮制である。

おかげさまで生徒の九割はホモ・バイになってしまうわけでして。


容姿重視の投票が行われ、上位から生徒会に突っ込まれるという制度のおかげで生徒会に所属する人間はそれはもう容姿端麗。


それを慕う生徒が結成したのが

親衛隊

である




ーーー


勘違いしないで欲しいのが、俺が別にホモでもゲイでもないってことと、ましてや会長のファンでも信者でもなんでもないってこと。

かっこいいとはおもうけど恋い焦がれるなんてそんな感情持ったこともない。


それでも指名され引き継がれてしまったからにはやるしかないのだ。



「伊月うるさい…俺は眠い」


まだケラケラ笑ってるこいつは伊月俊(イヅキシュン)。明るい茶髪で親衛隊持ちのイケメンだ。

当たり前だが俺には親衛隊はいない。

なにより俺自身が親衛隊隊長なわけで、誰の親衛隊とか関係なく、俺は親衛隊隊長のトップ、つまり全生徒親衛隊のボスって わけだ。


高校二年生で総隊長というのは異例中の異例らしく、当初は隊長達から嫉まれ妬まれだったが、全く気にならなかったのでほっといたらいつの間にか落ち着いていた。


「なんでおまえみたいな冷めたやつが隊長とやってるんだよ〜ほんと不思議だよなぁ」


伊月の男らしい手が俺の髪の毛をぐしゃ、っとした。


「お前こそ親衛隊持つべき顔してるのにな〜、遊」


そう言ってまたケラケラ笑う伊月に目を細めた。


親衛隊を持つべき顔?

お前にだけは言われたくないわ阿呆
目ん玉腐ってんのか


そう思いをこめて髪の毛をぐしゃぐしゃする伊月の手をひねり上げた。






ーーー


食堂で昼食をとっていた。

別にお腹が空いたわけじゃないが、風邪をひいたらしくあったかいものを胃に流し込みたかっただけなのだが。

そうでなきゃ食堂になんて行きたくもない。あんな阿呆の巣窟みたいな場所。

そんなことをもやもや考えてたら

「キャァァァ!!!」

と黄色い声が聞こえた。

はぁ、またか。
なんで俺がいつときに限って面倒なやつが現れるんだろう。

黄色い声の向く先は阿呆一行。
つまりまぁ、生徒会のみなさんだ。

生徒会には生徒会専用テラスがあるんだからそっちに行けばいいのに。

わざわざ俺の仕事増やしやがって。

やれやれ、と食器を片付け、その中心部に向かう。


ーー







「そこ、ちかい、離れて」


生徒会と、キャーキャーうるさい生徒の間にたち、静かな声で諭す。


「あっ総隊長、お疲れ様です」
「みんな総隊長がそう言ってるんだから下がれよ!!」
「総隊長こんにちは!」


阿呆のわりに素直な輩ばかりだからすぐに退いてくれた。

なぜか俺の言葉に大人しくしたがってくれるから楽ではある。


「東雲くん、お疲れ様」


副会長が阿呆専用悩殺スマイルとやらを向けてきた。

どうしよう全くときめかない。


「いえ。せっかくの昼なのにうるさくしてすんません。」


そう言って謝ると親衛隊はさらに静かになった。よしよし、いい子だなわんころ。

そうだ、ちょうどよかった。
わざわざ生徒会室まで行く手間が省けた。

「会長、これ例の書類です。」


俺様〜な態度を醸し出す阿呆会長に冊子をわたすとさも当たり前かのように受け取る。


この書類作成のために俺は今日の授業中寝るのを我慢。


「おう。」


書類をパラパラとめくる会長

生徒会が実行委員のくせになんもやんないから俺がやることになったんじゃねぇか糞もっとなんかあるだろうが。

はぁ、と小さくため息をついた。



ーー



ーーー



昼だけでどっとつかれた。

なんで全てにおいてめんどくさい〜っていうような俺が隊長トップをやってるか説明しておこう。


前・総隊長がアホすぎて問題になったのがそもそもの原因なのだ。

前・総隊長は心から会長を愛していたらしく会長と自分を阻むもの全てを制裁し、学園の治安はクソ以下になった。

強姦なんて当たり前
いじめも当たり前

何人もの生徒が学園を去ったという。


それで秘密裏に先生方と理事長で話し合い、秀才かつ冷静、さらにはあえて同性愛に全く興味もなさそうな人材を選ぶことにしたらしい。


そして晴れて首席、冷静、生徒会に無頓着な俺が総隊長になったわけだ。







もちろん隊員に生徒会に興味もないなんてバレたら反乱が起こりそうだから表向きはちゃんと会長を好きなことになっている。


会長を好きなんてそんな汚物のようなレッテルを貼られるのは嫌すぎるしなによりめんどくさい。


そう言って断ったが見事に釣られ、この状態だ。

釣った材料?

そんなの秘密。


それはおいといて、ぽっと出のしかも地味〜で、冴えなくて地味で平凡な俺が総隊長になるなんてそれだけですでに反乱が起こった。


でもまぁほんとうにどうでもよかったし興味もなくて、

なによりめんどくさかったから放置しておいたら慕われるところまできてしまった。


「東雲くんのいうことはなんか信憑性があるから、みんな言うこときいちゃうんだよね」


そう微笑んだのは浜田。
副会長の親衛隊隊長。


「わりと平凡顔なのに、言葉に影響力があるなんてすごいや」


貶しながら微笑む姿はさながら天使、しかしホモでもバイでもない俺は特になにも思わず。




戻る


- ナノ -