現実を覆してみせた。





「う、うぁ、ああ…っ」
「……っ」


マスターの為に歌を唄う。それがボーカロイドの役目であり生きがいでもある。
しかし最近はボーカロイドの便利な体の構造のせいか、性欲処理としてボーカロイドを買う人が増えてきている。(俺も半分くらいそれが目的で買うた。)

今俺の下で気持ち良さげに腰を振っているボーカロイド――千歳センリも、最初は毎晩毎晩のセックスに嫌々と泣いていたが、今はすっかり俺に身を委ねてこの生活を楽しんでいる。


「あ、も、出るぅ…マスター、出るうぅ…」
「はっ…もう出るん…?ほんま早いなお前…」
「、あ、マスター…出してよか?ねぇ、マスター…」
「ちょう待って、今日まだゴム付けてへんから」


こうやって何でもわざわざ俺に聞いてくるのはこいつの癖だった。何故か訛りのきいた甘い声を聞きながら、俺は軽く腰を動かしてちんこを抜こうとする。が、「あっ、」という焦った声と共にきゅうっと孔を締め付けられた事によってそれは敵わなかった。

急な締め付けによって危うくイキそうになったとこを何とか踏ん張り、「何やねん」ってセンリを見ると、センリは子供みたくぶんぶんと首を振ってこっちに両手を伸ばした。
お望み通り手を取って体を抱きしめてやる。


「、今日はゴムいらんけん…生で良か」
「ちょ、何言うてんねんお前、アホか」
「アホでも良かけん、やけん、こんまま中に出してほしか…」
「アカン。そんなんしたらお前壊れてまうかもしれへんで」


そう、精液だって液体なのだ。もしもこのまま中出ししてしまったら、ボーカロイドの唯一の欠点、「体内に水が入ると故障する恐れがある」という約束事に触れてしまう。
故障なんてとんでもない。最悪一生動かなくなるかもしれないのに。だから俺は歯痒さを感じつつも、いつも挿れる前には必ずゴムを付けていた。
なのに、こいつは何を考えとるんや。

センリは俺の目を見るや否や、「大丈夫ばい」とこくこく頷いた。


「何が大丈夫やねん。ほんまにアカンって」
「ふふ…マスターはまだ知らんと?」
「はぁ?何をやねん」


純粋に分からなくて尋ねてみると、センリは得意気な顔で、ちゅ、と小さく俺の頬にキスを落とした。


「…俺たち、別に中出しされても壊れんとよ」
「は…」
「ばってん、もし中出しされっと…俺たちボーカロイドでも、妊娠する事があったい…」
「!? 妊っ…」
「そいのちかっぱ危険やけん、説明書にはすんなち書いてあっと」
「え、ちょ…」


いきなり過ぎて訳が分からへん。中出しはしたらあかんけど、実はしてもよくて、もししたら子供が出来てまうかもしれんって事…?
ていうかそんなん知っとる訳ないやろ!


「…本来俺らは体の危なかねら、マスターにはほんなこつんこつば伝えなか」
「じゃあ、何でセンリはマスターである俺に、」
「んなこと一つしかなかやろ…?……俺、光っちん子供が欲しか」
「……お前、」
「やけん、お願い…マスター…。俺ん中に、出して」


肩口に温かい感触が広がる。
俺と、センリの子供。誰でもない、俺たちの子供…。

「っあ」耳元でくぐもった声がする。


「ん…マスターの、おっきくなったと…」
「…体は大丈夫なん?」
「体は丈夫やけん、そん心配なか…」
「でも、お前男やん。やのに子供が…」
「…ボーカロイドに、性別は関係なかとよ」
「……そうか」


ぐっと腰を掴んで、一気に最奥を貫く。突然始まった律動に腕の中の体ががくがくと震える。


「ふ、やぁ、マスター…、あっ、マスター…」
「…もうイキそうなん?」
「ん、ん、やあぁっ…あっ、マスター、出してぇ…」
「……っ」
「俺ん中に…いっぱい…っ」
「…言われんくても、お前ん中に全部出したるわ…っ」
「はっ、あ、ああぁ……!」


ひくん、と波のように中が収縮して、為すがままに俺のモノが全て搾り取られる。

そのまま、ふにゃふにゃになっている体内から性器を引き抜くと、中から少量の白い液体が溢れて、本当に中出ししたんだと改めて思い知らされた。
初めての感覚に戸惑っているのか、センリは肩で息をつきながら、やわやわと自分の腹をさすった。

「…俺ん中、マスターので満たされとっと…」
「…気持ち悪い?」
「そげんこついっちょんなか。…それよか、幸せばい」


そう言って、本当に嬉しそうにセンリは笑った。
俺もつられて口角が上がる。


なんの根拠もない言い草やけど、俺は、こいつの言った事を信じてみようと思う。

ボーカロイドだって人間の子を産めるんだ、という事を。