クロウは、いつもより静かな食卓を眺めため息をついた。ブルーノがこちらを見たがいちいち反応を返すのは止めておく。
時計を見る。とっくに10時をまわっていた。今日はもう遊星は帰らないかもしれない。
ジャック、見つかったかなぁ。
もう4日も姿を現さない旧友を思いクロウはもう一度息を吐き出した。散々獄潰しだの罵ったわりに、いざいなくなってみるとなんともヘンな感じである。
「クロウも心配なんだね」
「はぁ?……別に、そんなんじゃねぇけど」
「だってクロウ、さっきからため息しかついてないよ」


心配?
確かに心配だ。本選まであまり時間がないというのに、今頃どこをほっつき歩いているのだ。
遊星も遊星で、寝る間も惜しんでジャックを探し回っている。以前、携帯端末に残されていたメールの文面には「ジャックはサテライトにいると思う。痣が強く反応している。」とだけ書かれていた。そりゃわかるっての。クロウやアキ、龍可の痣も、あの日を境にずっと疼き続けている。
まるで共鳴するかのように。
「ねぇ、クロウはジャックを探さないのかい?」
「俺が抜けたら、誰が金を入れるんだ?」
「う…、そうだけどさぁ」
ブルーノがはぁぁ、とため息をついた。「お前だってため息ついてんじゃん」とクロウが指摘する。


「なぁ、ブルーノ。お前にとってチーム5D’sって、なんだ」


クロウは唐突にそうブルーノに聞いた。大分低い位置にある灰色の相貌は真っ直ぐにブルーノを見つめている。
ブルーノはさして考えもせず、結論を言った。


「……大切な仲間?かな」
「だよなぁ。あいつ、忘れてんだよな」クロウが遠い目をして言った。かすかな落胆の色が伺える。
「俺たちも仲間だってのに、一人で探しにいくんだもんな。見つかるはずないっての」
「じゃあ、なおさら」
「あぁ」クロウは急に悪戯っぽく笑って両手をぱん、とあわせた。俗に言うお願いのポーズだ。
え、とブルーノはきょとんとしてクロウを見る。


「だから明日、ちょっとたのまれてくれねぇか?」




*




翌日、ブルーノはトップスへと向かっていた。
指定された場所で、風景を眺めながら時間を潰す。
スクーターを止めてから数分後、「あ、いたー!」と元気な子供の声が聞こえてきた。
龍亞と龍可である。
ブルーノは取り付けたサイドカーに二人を乗せて、今度は唯一ネオドミノシティからサテライト行きの船が出ている港へと走らせた。


クロウの隣には、アキがいた。5人は挨拶を済ませ、クロウから定期便のチケットを貰った。
「こんなものいつの間に」
驚くブルーノに、クロウは「へへっ、思い立ったらすぐ行動ってのは、俺のポリシーだからな」と笑ってみせる。
「チケット代はジャックにつけといたし」
「そんな、コーヒー代も払ってないのに」
「だから戻ってこないと困るんだ」
素直じゃないのね、とアキに突っ込まれ、双子がからからと笑った。なぁんだクロウも結構心配性じゃないか、とブルーノはホッとする。


更にその数十分後、5人を乗せた船はサテライトへと無事到着した。港ではクロウからの連絡を受けた遊星が一人で出迎えた。
「しばらく見ないうちにやつれてね?」
「いや、大丈夫だ」そういう遊星の目の下には寝る間も惜しんで探していたのだろう、はっきりとした隈が浮かんでいる。サテライトは狭いが、一人で探すのは重労働だ。こんな短期間で目星をつけるのには相当な労力を使っただろう。
憔悴を顔に滲ませながら遊星は呟いた。
「しかし、俺はてっきりお前だけだと……」
「いやあ。だって、な?」クロウが同意を求めるようにアキを見る。「私も仲間の役にたちたいもの」この痣はその為のものじゃないの、とアキがクロウの言葉を引き継ぐ。続いて龍可が「遊星ばっかりに任せることなんてできないもん」と痣に手を添えた。「俺はシグナーじゃないけど、ジャックも、遊星も、仲間だからね!!」と龍亞が遊星に訴える。「そういうこと」とブルーノが笑いながら締めた。
遊星は目を見開き、それから、


「……ありがとう、みんな」


と始めて緊張がほぐれたように微笑んだ。寡黙な男からでた素直な言葉に、仲間達は皆笑って頷いてみせる。




遊星によると、B.A.Dエリアの廃工場の中が一番反応が強いと言う。Dホイールを走らせながらクロウが遊星に聞いた。
「で、アテはあるのか?」
「……正直言って、自信はない」遊星は俯き、顔を苦悩の色に染める。「だが、ジャックは絶対に見つけ出す」
「ねぇ、この前遊星のカードが奪われた時があったじゃない?」
思い出したように龍可が声を張り上げた。あぁ、と遊星が反応する。
パラドックスと名乗る男が遊星のエースカード、スターダスト・ドラゴンを奪い過去へと逃亡した事件。遊星はパラドックスが逃げ込んだ先の時代で不思議な体験をした。精霊を従える結城十代、そして伝説のデュエリスト、武藤遊戯との共闘――。そこまで考えて、遊星ははっとする。
まさか、ジャックも違う次元に?
遊星は喉まででかかっていた言葉を止め、正面を見た。
目の前には、目的地となる廃工場があった。


「……っ!?」


突然、4人の痣が共鳴するように輝きだした。今までのじわじわとした疼きよりも苦痛を伴う痛みに4人とも顔を顰める。龍亞が特に苦しそうな龍可の体を支えた。
「龍可!」
「だ、大丈夫……、それで、思ったのは」
龍可は途切れ途切れに言葉をつむぐ。
「あの時みたいに、赤き龍を出現させることが出来れば…」
「そ、そっか!よーし……」
龍亞は両手を組んで赤き龍よ〜お願いだから来てくださいとぶつぶつ呟きながら祈り始めた。それに続くようにブルーノが、アキが、クロウが順番に目を閉じ、自分の痣に集中する。
「頼む……」
遊星もそう呟いて目を閉じる。



自身の龍の痣が瞼を指すまでに輝きを増した瞬間、聞き覚えのある龍の咆哮がすぐ傍で鼓膜を揺らしていった。





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