a display of fireworks



「ほら」
そうやって差し出されたりんご飴を見てアキはぱちくりと目を瞬かせた。いつの間に。いいの。お金払うわよ。どうして。と4つほど言葉が出て結局どれも言えないままとりあえず「ありがとう…」とその飴を受け取った。遊星は双子にも同じように飴を渡した。彼らの場合は姫りんごで、アキのものより一回り小さかったが。
「遊星、俺にもくれよー」
ぶーぶーと文句垂れるリーダーには、「自分で買えよ」クロウが華麗にチョップを繰り出して黙らせる。クロウは先ほど鬼柳にたこ焼きを横取りされてご立腹だった。その苛立ちをそらそうと龍亞が機転をきかし話しかける。
「クロウ!ちょっと、いる?」
「おっ、いいのか」
飴で口元をべたべたにした龍亞がクロウに飴を差し出した。「へへ、さっきのたこ焼きのお礼」と笑う龍亞の飴を少しだけクロウはかじる。そして唇の端についた飴の欠片を手の甲で拭って舐めた。
「……下手くそが」ジャックがポケットティッシュを取り出してクロウに渡す。
「さっさと龍亞と洗ってこい。もうすぐ花火があがるぞ」
「げっ、よし行くぜ龍亞!」
「わかった!全速前進だぁあ!」「人にぶつからないように気をつけろよ!……、っとぉ」
言ったそばからから人にぶつかった鬼柳はブルーノに苦笑され罰の悪そうな顔をした。「鬼柳さんも気をつけなきゃね」としっかり物の龍可にたしなめられ頭が下がる思いである。
「龍可ちゃんってすげぇ妹に似てるなぁ…」鬼柳はしみじみと呟いた。
「ニコか」遊星はそう言いながら鬼柳の妹を思い出していた。「龍可と気があいそうね」とアキも同意する。それからふと時計を見て「あら、もうこんな時間じゃない」と呟く。「そろそろ始まるわよ」
「あっちの方向ね」「じゃあぼちぼち行こうか」「待て、クロウと龍亞はどうするんだ?」「すでにメールを送信済みだ」そう口々に言いながら場所を移動する。


ドォン!


と、その時鼓膜を揺らす爆音が響いてきて思わず皆足を止めた。「…始まったわ」アキがいくらか顔を綻ばせて言う。その直後、二発目の花火があがり辺りは歓声に包まれる。
「だが、こうも密集してると見にくいな……」
遊星が花火の合間を縫って呟いた。そうなのだ。頭ひとつ飛び抜けているジャックやブルーノはまだしも、その他のメンバーにはどうしても他人の頭が被ってしまう。
「龍可、見えるか?」
遊星がはぐれないよう手を繋いでいる龍可に聞いた。龍可は苦笑してちょっと、と口ごもった。それを見て鬼柳はジャックに「乗せてやれよ、背中」と耳打ちする。
「……龍可、乗れ」ジャックが腰を屈めた。
「えっ!そんな、悪いわ」と戸惑う龍可を「こんなサービス、滅多にせんぞ!」とジャックは急かす。「そうそう、乗っとけ乗っとけ!」と鬼柳が軽々と龍可を持ち上げ、肩に乗せた。
「む、鬼柳!」背中ではなく予想外の場所にかかった負荷にジャックは声を上げるが、間近に感じる龍可のたじろぎにまぁこっちの方が見えやすいかと納得し腰を上げる。「きゃあっ」「ジャック、落とすなよ」遊星がのんびりと忠告した。
「な、なんか恥ずかしいよ…」
「あー!龍可見っけー!」
ようやく追い付いた龍亞がジャックの腹にダイブする。「なぁー俺もやってやってー!」とごねる龍亞もジャックはしぶしぶ抱えた。「ジャックモテモテー」と囃し立てる鬼柳を睨み付けるが、双子をぶら下げた姿だとまったくサマにならない。
「お前ら目立つから助かったぜ」
クロウがブルーノとジャックの背中を叩きながら言う。ブルーノは人の良さそうな笑顔で「クロウもおんぶしてあげようか」と余計なお節介魂を見せた。びきりとクロウの額に青筋が浮かび、同時に鬼柳が吹き出す。
「いーじゃねぇか、やってもらえよ、クロウ!」
「誰がやるかぁあ!」
「え、なんで怒ってるのクロウ」
ぎゃあぎゃあと花火の音に負けず劣らず騒ぎ始めた三人をよそに、「…もっと広い所にいこうか」と遊星はアキとジャックの手をひき、夜空に散っていく花火を見上げた。




100807
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