Accident that is often




踏み外した、そう思った瞬間にはもうアキの体は宙に投げ出されていた。声帯から漏れた悲鳴が遠い。「危ねぇ!」「クロウ!?」咄嗟に手を伸ばした男子生徒の体を巻き込んでアキの体は階下まで投げ出された。体に走る衝撃に一瞬頭が真っ白になる。

「うっ……」

声が出るのを確かめてゆっくりと目を開ける。目の前には薄汚れた天井がぶら下がっていた。ざわざわと耳が雑音を拾い始める。脳が、自分のおかれた状況を理解し始めようとしていた。そう確か階段を踏み外して……。

「いってー…怪我、ねえか?」

と、一際大きな声を鼓膜が拾った。そこで始めて、自分が男子生徒を下敷きにしてしまっていることに気付く。「ごめんなさい……っ」アキは慌てて立ち上がろうとしたが、その動作が痛みのせいで阻害されてしまう。もう一度その人物の上に崩れる形になってしまい、その付いた腕が鳩尾にしっかり食い込んだ男子生徒はひどい呻き声を上げた。

「あっ。ご、ごめん」
「いや……だいじょーぶだから、ゆっくりどいてくれると嬉しい」

今度は恐る恐るだがどうにか男子生徒の上から体を退けることに成功した。オレンジの髪の、快活そうな少年だ。少年は色素の薄い目をアキの右足首に向けて、「足、挫いちまったのか。ごめんな、庇いきれなくて」と申し訳なさそうにしゅん、と眉を下げた。いいえ、ありがとうとアキが口にしようとしたところで階上から狼狽しきった声が降ってくる。

「クロウー!大丈夫かぁーっ!!」

だだだ、と階段を降りて(というより飛び降りて、の方が正しいくらいの剣幕だ。)きたのは、少年の友人らしい。クロウと呼ばれた少年は「なんとか大丈夫だぜ、鬼柳」と返事を返す。クロウの友人はほっとした表情を浮かべた後「そっちの女の子も大丈夫か?」とアキに容体を聞いた。

「……このくらい何ともないわ」

アキは何とか手摺を頼りに立ち上がる。が、やはり挫いた右足では歩けそうもない。顔をしかめるアキに、やべーな、とクロウが呟く。

「鬼柳、この子を保健室まで連れてってくれねーか。俺先生に知らせてくる」
「おぅ、任せろ!」

そういうなり鬼柳はアキを両腕でひょいと抱えあげた。途端に高くなる目線と距離にアキはパニックに陥るも、足を怪我した状態では動くこともままならない。

「本当に、大したことないから…!」「安心しろよ、俺女の子には優しいから」
「ごめん人選間違えたわ。気を付けろよ何するかわかんねーぞこいつ」
「クロウ酷い!……って、あれ、お前も?」

そのまま同じ方向に歩き出したクロウに鬼柳が尋ねる。「いや……俺もさ」クロウは鬼柳から目をそらしながら小さな声で白状した。

「なんか肩イったっぽい」
「はぁ!?え、全然大丈夫じゃねーじゃん!」
「さっき気付いたんだよ、ほらさっさと歩け」
「いやダメだろ!えーと、そうだクロウ俺の背中におぶされ!二人ぐらい運んでやる」
「ジャックやブルーノならまだしもお前じゃ無理だ」

ばっさりと切り捨てられた鬼柳は「うぅ、俺だって結構力あるしクロウちっちゃいから大丈」まで言ってクロウに睨み付けられ口を閉ざす。かと思えば「まてよ、ジャック…ブルーノ…?」と抱えたアキの顔をまじまじと見たあと、重大なことに気付いたかのように目を見開かせ、叫んだ。

「お前どっかで見たことあると思ったら十六夜アキじゃねーか!」
「え、えぇそうだけど…」
「なんだよ今頃気付いたのか」
「やべーよこれ遊星に見られたら誤解されねぇ!?」
「安心しろ鬼柳もうバレた」
「えっ」




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