意志不通



そう、例えば越えられない壁があるとする。高くて分厚い壁だ。でも俺はどうしてもその壁を越えてみたかった。その壁を越えたところに、きっと俺が安住できる場所があったんだ。今でもそう思ってる。まずはお前の意見を聞きたい。なぁ、その壁を越えるのにはどうしたらいい。

(登るしかねぇだろ。)

そうだよな、まずはそう思うよな。まぁだから俺はまず最初にその壁を観察することにした。長い年月をかけて作り上げられた高い壁だ。分厚いし固い。ちょっとやそっとじゃ登れそうにもない。
それに観察してて気付いたんだが、どうもその壁、丁度柱を軸にしてぐるっと一周してるみたいだった。まるでレスリングのコーナーみたいにな。ただ三本しかなかったけど。で、肝心の登れるか登れないについてだが、どうも無理だった。なんせ、足を引っ掻ける窪みすらないまっ平らだったんだから。
で、次の手だ。お前、どうする。

(俺なら、壊す。)

おいおい、いきなりかよ。ま、嫌いじゃないけどな。壊すったって、さっきも言った通り壁はものすごく分厚かったんだぜ。まともに怖そうと思っても、外からじゃ全く歯が立たない。だからっていつまでも指くわえて見てるわけにはいかないよなぁ。そろそろ俺の肌に触れる空気も冷たくなってきて、外にいられる限界も近かったんだ。あの壁のなかに入れば風ぐらいは凌げるだろ。つまり俺は手っ取り早くこの壁をどうにかしてしまいたかったわけだ。
なぁところでお前はダイヤモンドの弱点って知ってるか。あんなに強固なダイヤモンドでも割れるときゃ割れんだよ。一点に力を集中させりゃあな。力で押して押して押しまくる、俺の得意分野だ。だからさ、入っちまったんだよ。壁壊して、その中に。流石に罪悪感はあったけど。

(けど?)

けどな、そこがすげぇ心地よかったんだ。やっぱり壁のなかは天国だったんだよ。冷たい風に身を震わすことも無かった。いつだって壁が守ってくれた。俺はここが世界の全てだと思った。ここから二度と出てやるものかと思ったよ。やっと見つけた居場所だったんだ。

でもな、あいつらにとっちゃ俺は壁を侵入してきた異物でしか無かったのかな。
時々感じたんだ。外にいても中にいても、茅の外なんだってよ。いくら壁を引っ掻いても俺の爪に傷をつけるだけで、柱に体を密着させても、体を芯から冷やすだけだった。直感した。俺はお前らにはなれないのだと。

「なぁ俺はやっぱりただの異物でしかなかったのか?何年間も一緒だったお前らを結果的に引き離してしまったのは俺だったのか?ああすまねぇ本当に。でも俺が開けた壁の穴はどんどん広がって抑えきれねぇんだ。俺の世界が無くなっちまう。」

(馬鹿野郎。それならいったい何のためにこんな話に付き合ってやってると思ってるんだ。鬼柳、頼むから俺の上から退け、そして言わせてくれ。壁に穴なんかあいてないし、柱だってお前を蔑ろになんかしなかった。なのにお前には全く届いていなかったんだな。俺は寒いし情けないし笑えないしで泣きそうだ。まったくそんな理由でこんなことまでしちまうのかお前は。さっきまでの身を焦がし溶かすほど育てあった体の熱も、お前の悲劇を演出する言葉も、容赦なく首にかかる圧迫感も全部ひっくるめて、裏切られた気分にしかならねぇよ。)




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