授業中書いた手紙
『ルドガー先生と校長が兄弟で、しかも校長のが弟ってマジ?』
「……おい。」
わ、ばかジャック、しーっ!と鬼柳は口許に人差し指をあてて静かに!の意思表示をする。それから渡した紙をとんとんと叩いた。ここに書けと言うことらしい。面倒だ、と思いながらもジャックはペンポーチから紫のペンを取り出して簡潔に答える。
『そうだ。わかったら前を向いて授業を受けろ。』
『暇なんデスー。前の奴がデカいから黒板見えねーんだよ。お前もでかいけど。』
『なら変わってもらえ。お前よりブルーノの方が殴り心地がよい。』
『危うく他人の人生潰すとこだったわ。現状維持決定。』
「この問題は……そうだな、教科書も開いていない鬼柳に答えて貰おうか。」
唐突にルドガーに当てられ、鬼柳は慌てて立ち上がった。勿論問題なんて聞いていない。いい薬だとジャックは傍観を決め込み、周りに助けを求められる雰囲気でもない。うーなんだよジャックのばかやろー!いよいよ覚悟するしかないと鬼柳が腹をくくった時、小さく「答えは3だよ」と囁く声がした。
「さ…3……?」
「あぁそうだな、座って良いぞ。」
「あってて良かった」無事着席した鬼柳にそう笑いかけるのは前の席のブルーノだった。「助かったぜ、サンキューな!」とウインクしたところで肩をトントンと叩かれる。中断された続きには『命拾いしたな』と書かれていた。
『ほんとにな。ルドガー先生怖いんだよな……。』
それはジャックも心得ている。鬼柳とジャック、そして下級生の遊星とクロウが纏めて進路指導室に送られたとき、ルドガーが笑顔で「まぁ食べなさい、ゆっくり話し合おうではないか」と蜘蛛の丸焼き料理を出してきた時は本当にトラウマになるところだった。実際遊星なんかはまだあの時の恐怖を引き摺ってるらしく、「大きな蜘蛛に橋から落とされる夢を繰り返し見るんだ……もう嫌だ」と目の下に隈をこさえてたりする。
『クロウからメールかえって来ねー。』
『当たり前だ。』
『ジャックー暇なんとかしてー。』
『そのまま右手を上げてみろ。』
鬼柳が疑問に思いながら右手を上げる。すぐさまルドガーが「では次の問題も鬼柳に解いてもらおうか」と言ったところでようやく鬼柳は自分の失態に気付いた。あ、いや違うんです、と弁解するももう遅い。
「ジャックぅ〜!」
鬼柳があーだのうーだの唸っている間、ジャックと言えば水色と紫色のカラフルな紙を誰にも気づかれないようにくしゃくしゃぽい、と鞄に投げ入れた。
100421