ああ恋ってうつくしい!

「俺のタイプってクロウみたいな奴だなー」
「おーまじか。サンキュー」

そう言ってクロウは冗談混じりに俺の肩に手を回して二人にピースなんかしてみせた。「どうだ遊星、ジャック!羨ましいだろ」とおどけるクロウにジャックは付き合いきれんと言うようにふぅとため息をついてみせる。遊星は柔らかい笑みを浮かべた。嘘の中に隠した本音。冗談だと銘打ってあるからクロウはこうやって無防備に俺に触れてくる。もし本気だって知ったらクロウはどうなんだろう。もうこうやって俺に笑いかけてくれたりしないんだろうな。俺はもやもやした気持ちを押し込めて得意気に「よっしゃー両想いー」なんてほざいてみせる。実際は可哀想なほど片想いなのに。

「それ以前に男同士だろう!」
「なんだよジャック、モテないヤツの僻みか〜?」
「いやジャックはモテるぞ。ただ続かないだけだ」
「それはフォローか貶しめてるかどっちなんだ遊星」
「両方だ」
「……遊星貴様ぁぁあ!」

ジャックは律儀に卵焼きを咀嚼してから怒鳴り散らした。(あれでジャックは結構マナーに気を使う奴だ。逆に使わないのは遊星で、口角に飯粒をつけたまま携帯をいじってる時なんかが良くある)ぎゃあぎゃあと煩くなってきた中で、いつの間にかクロウの腕が離れていったのを少し寂しく感じた。



「ごめん、俺好きな人がいるから」

放課後に可愛らしい手紙を貰った。指定された場所にいたのはなかなか可愛い女の子で、思った通り好きです付き合ってくださいと告白をされた。昼間の肩の寂しさを思い出し少しだけ揺らいだけれど結局断った。あぁこれで青春をまた一つ無駄にした。か細い女の子の背中が去っていくのを見て、悪かったなと罪悪感が芽生える。俺なんか忘れて他のいい奴探してくれよ、クロウ以外で。ふらりと視界の端に移る桜の花びらは女生徒が置いていった想いの形だろう。その小さなハート型の桜の花は鼻先を掠めて落ちていった。いつか誰かに踏みにじられるしかない花弁。あー俺みたい、なんてちょっとセンチメンタルになってみる。そんな事を思った刹那、頭に衝撃が走った。思わずうずくまる。時間差で落ちてきたのは、履き潰された運動靴。

「痛ってぇ……!なに、靴……?」

その靴を拾い上げると頭上で「ゴメン靴落とした!」と陽気な声がした。仰ぎ見るとピンクの色に混じった鮮やかなオレンジが見える。え、まさか……クロウ!?それよりも、誤解され…いや、見られた!?俺は一瞬でパニックに陥った。そんなわたわたする俺の気持ちを知らずにクロウは「とうっ」と猫もびっくりな軽やかさで地面に着地する。10点、さすが体操部。じゃなくて。

「好きな奴いんの?」
「あの、いやこれには訳が……えっ?」

「いや、やっぱいい」クロウは靴を俺の手からもぎ取るとふいと顔を背けて靴を黙々と履いた。桜の花びらが靴の下敷きになっていく。でも。このまま見過ごしたらなんか駄目な気がするとストップがかかった。(……何でだ?)別にクロウは俺のことなんとも思ってないはず、なのに。(心のどっかで引っ掛かっている)(まわされた腕)(落とした靴)(撤回した問いかけ)ひきつるような心臓の痛みが心拍数を上昇させた。

「……いる、よ。ずっと前から、片想いの」

ぴた、とクロウの動作が止まったようにまえた。言ってしまった。ここで引き返せば何もなかった事に出来る。(でも俺は、)口の中が乾いてくる。

「……なんでコクらねぇの」
「俺、そいつからただの友達だって思われてると思ったから」

クロウがゆっくりと顔をあげる。眼があった。多分それらの元は悲しみであって不安であって期待であって、けれどいろんな感情がごちゃまぜになって結局灰色に集約していた。今までずっと近くにいたはずなのにクロウが遠く感じる。なにを考えてるかわからない。けど、それってきっと当たり前のことだ。

「……クロウが……好き」

声ってこんなに震えるんだ。心臓ってこんなに煩く鳴るんだ。風がふく。それはクロウの唇を揺らし、地面に散らばっていた桜の花びらをもう一度空へ舞い戻らせた。



100411
拝借 確かに恋だった
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