廃墟アトリビュート


カラスって白かったんだってさぁ。どっかの神話では、元々純白の羽根を持った神様の使いだったんだそうだ。神様を裏切ってその羽は真っ黒に染まってしまった。言葉も喋れなくなってしまった。後はぎゃあぎゃあ煩く泣きわめくぐらいしか出来ない。あぁ可愛そうになぁ。可哀想。なぁクロウもそう思うだろう?同じ名前を持ってんだ。親近感は人一倍なんじゃねーの。どうなんだよクロウ。

寝転がったクロウから返ってきたのは苦痛の呻き声だけだった。そんな言葉が聞きたいんじゃねーんだがなぁ。腹を蹴る。「ぐっ、うぅっ」どんな痛みにも屈しないと歯を食い縛るその姿が哀れすぎる。誰と戦ってんだって。
床に乱れたオレンジの髪を適当に掴むと剃刀色の眼が俺を睨んだ。普段触れれば切れそうに輝くそれは濡れているせいでそうとも思えない。
俺はクロウの上に馬乗りになる。恐怖と、憤怒と。心地好いマイナスのパワーを纏った感情の激流は俺を押し流そうと躍起になる。だが、足らねぇ。弱いのは生命維持の限界が来ているだけだ。もう何日も食事をやっていない。

「足んねぇよぉ、クロウぅ」

柔く隆起した首の骨が手のひらで感じられた。酸素を締め出す様にじわじわと力を込める。別に殺す気は無かったのだが、栄養不足のクロウの脳は本能で必死に生を求めようともがいた。空気を求めて開いた口を自分ので塞ぐ。酷く乾いていた。普段なら血だらけにされる口付けは、今回ばかりは好きな様に堪能できた。やった。こうしてどんどん従順になっていくクロウに俺は快感を覚えていた。さながら白を黒に染めるような。随一征服欲を満たせる相手。あぁ絶対に手放さねぇ。こいつは俺のもんだ。俺の側にいるんだ。

「………めし」

唇を話したあと、好きにしていいから、とにかく飯をくれとクロウはせがみ、さっさと気を失ってしまった。なんださっきのは俺を懐柔する為のもんかぁ。流石カラスはずる賢い。高揚した気持ちが冷めていく。それでも頭の隅ではそれを喜んでいる思考もいた。自分まじで死んでくれと思ってる昔の残骸。ざぁんねん。お前とっくに死んでるだろ。俺は今ここにいるけど。

「いい子にしとけよ?」

子供をあやすように髪を撫でて立ち上がった。汗と血でべたべたした。飯、とりにいくついでにこいつ洗えねぇかなぁ。せめて雨でも降ってくれば都合が良いのに、サテライトの降雨量は非常に少ない。降ったとしても汚染されている場合が殆どだ。無いよりましだが。
はぁ、と胸から立ち上がる煙を吐き出し階段を上がる。クロウのいる地下へと続く隠し扉を念入りに封じてから天井を見ると丁度背景を四角に切り取って取ってきたような天窓が見えた。今は日が沈む色をしていた。まるで血の中でもがき続ける様に飛ぶカラスが映る。綺麗だった。赤と黒のコントラストは目に悪かったが、それ故美しい。そんで、まだそういう風に思える俺の心に感謝。





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