ダンプティ


クロウは可愛い。そりゃもう食べてしまいたいぐらい可愛い。そして甘い。砂糖よりも甘いんじゃないかってくらい、いや砂糖の甘さではないが。では何の甘さと聞かれると答えられないぐらい不思議な味だが、俺の舌の先が甘いと感じているのなら実際甘いのだろう。現に俺が今舌の上で転がしているクロウの指は半端なく美味い、このままかじるか。いややめておこう。クロウが欠けてしまうのは嫌だ。いなくなってしまうのは嫌だった。相反する矛盾に胸が痒くなる。臆病者、と言われた気がした。俺はまじまじとクロウの目を見る。臆病者。今度ははっきりと聞こえた。しかしクロウの唇はぴくりとも動いていない。けれどその声は負けず嫌いな俺のストッパーを軽々と外していった。ならかじるか。俺は大分溶けていたクロウの指に歯をたてる。ぼろぼろと口の中へこぼれ落ちるクロウの欠片。欠損部分から甘い蜜が染み出してきて俺はそれを夢中で啜った。クロウが恍惚の声をあげる。俺は調子にのってますますクロウを食べ始める。甘い蜜が毒となって欲望を肥大させた。

「鬼柳、これ以上は俺、駄目になっちまう」

クロウが呟いた。臆病者と罵ったくせに何を今更。それなら駄目になってしまえ。俺は食事を再開させた。クロウは悦びの声をあげて俺にすがりつく。腕を食らい肩を食らい服を食らい足を食らい、もうクロウは息をしていなかった。それに気付いた時には既に俺の歯牙は首筋にまで到達していた。やばい食べ過ぎた。途端に俺は恐ろしくなりクロウの名前を呼ぶ。クロウは目を開けなかった。頬を軽くはたいてみても、唇にキスをしてみても、何をやっても起きなかった。それもそのはず、心臓はとうに食ってしまったからだ。完全に手遅れだ。勝手に涙が溢れる。それは甘かった。間違いなくそれはクロウの残した毒と同じ味をしていた。そこで俺は夢だと気付いた。



クロウを食べる夢を見た。その身体は脆く、人を簡単に惑わす程甘美だった。けれどこれは夢の話だ。そして現実には絶対におこらないことだ。クロウは絶対に俺に指を舐めさせたりしないし、掠れた矯声をあげて俺にもたれ掛かり口付けを許したりはしない。俺のせいで駄目になることもない。これは夢だ。だから俺は今日もクロウを、


100405


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