最後のシ者
ドアを開けると、食卓のほうからなんともいい匂……いや、食べ物の匂いがただよってきた。いや別に臭いとかじゃねーから。まじで。
「クロウ、おかえり」
「ふん、遅かったな」
「うっ……なんだよ、鍋?」
ジャックが、「余ったものを全部ぶちこんでみた。名づけてシンクロ鍋だ!!」と堂々とした態度で明言し、遊星が「要するにただの闇鍋だ」と解釈を入れる。なるほど、それでこんなおぞま……個性的な匂いをかもしだしているのか。ふっざけんな。
「これ、食えるんだろうな!?」
「食えるものを入れたから食えるだろう」
「懐かしいな。なぁ、クロウ」
遊星が遠い目をしてしみじみと呟く。俺はさっきから寒気がして仕方がない。確かに、昔はみんなでいろんなものを作った。たこ焼き、お好み焼き、サンドウィッチ。全部、最後には山葵辛子豆板醤山椒山盛りのロシアンルーレットになった。危機感を感じていないブルーノは「へぇ、闇鍋って始めてだから楽しみだな」と浮かれている。笑っていられるのもいまのうちだ。多分あまりの壮絶な味に記憶が戻っちまうんじゃないか。
「昂ぶる、昂ぶるぞ!!今日こそは貴様らを地に伏してやる!」
「上等じゃねぇか!毎回毎回一番最初に大当たってんのは誰だよ!」
ジャックのわかりやすい挑発を受けて黙ってられるクロウ様じゃねぇぜ!と叫ぶ俺には、勿論遊星の「鍋だから関係ないんだがな……」という呟きは聞こえなかった。
ピンポーン
「あぁ?」
「む?」
そんなことは露知らず修羅場になりそうだった戦場に水を差したのはチャイムの音だった。
ブルーノが「見てくるよ」と席を立つ。その瞬間、玄関のドアが勢いよく開いた音がした。
「……ブルーノ、鍵は」
「おっかしいな……かけてるはずなんだけど」
まさか不法侵入か。サティスファクション時代の動きが染み付いている俺は真っ先に矢面に立った。その両脇を遊星、ジャックが固める。ブルーノもその後ろの位置に収まり、じっと相手の出方を待った。こつこつこつ、と靴の音がだんだん近づいてくる。(土足かよ)やがてその足音は俺達が待ち伏せているドアの前で止まり、そして。
「ヒャッハー!!!!ひっさしぶりだなぁあ!!クロウよぉおお!!!」
「ぎゃああああぁぁあ!?」
ドアが開くと共に繰り出した蹴りを避けられ、そのまま不法侵入者の腕にがっちりとホールドされる。「鬼柳……!?」遊星もジャックも、そしてブルーノも唖然としていて誰一人行動を起こすものはいなかった。何よりも皆が驚愕した原因、それは不法侵入者の正体が滅びたはずのダークシグナーの鬼柳だったからだろう。おい、助けろよ!じたばたともがいてみるが、一向に鬼柳の腕の中から抜け出すことは出来ない。
「くっくっく、邪魔したなぁ……クロウは借りてくぜ」
「何故…何故お前がまたダークシグナーに…!!」
「何故、だぁ?」ダークシグナーの鬼柳は現在の鬼柳に一欠片も見られない非常に楽しげな笑みを浮かべ答える。「エイプリルフールっつったら、乗っ取りしかねぇだろうがぁ!」
「そうか、乗っ取りというのもあったか……俺としたことが不覚を取った」
「クロウ、一日の我慢だ。明日には元に戻ってるだろう多分」
「よくわからないけど、明日の朝ごはんは用意しなくていいのかい?」
口々に好き勝手なことを並べる仲間に、俺は肩を震わせ全力で叫ぶしかなかった。
「こんなオチで、満足できるかぁぁぁぁあああ!!!」
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