終わる一日
そこにつく頃には、もうあたり一面が燃えている様に赤く染まっている有様だった。頬に当たる夕日に思わず眼を細める。いまだ荒廃さを残すその場所は、俺達の原点。チーム・サティスファクションのアジトの一つだった。
「変わってねぇな……」
誰かが使用していた痕跡はあるものの、乱雑に散らばった椅子やベットは持ち去られずにそこに残っていた。いくら旧サテライトが発展途上だと言っても、すべてに手が入った訳ではない。かび臭い臭いにただ懐かしさがこみ上げる。ベットに腰掛けると、埃が宙に舞った。けほり、と咳き込む。
「クロウ……」
キィ、とドアが耳障りな音をたてた。その直後に聞こえてきた硬質の声に俺はふいに泣きそうになった。こつ、こつと断続的に聞こえてくる音はあの頃と違う。服装も、立場も、思いですら。この街のように、変わっていく。
「……鬼柳。久しぶり、だな」
「あぁ……。そうだな」
鬼柳は俺の隣に腰掛ける。埃が舞う。窓から差し込んできた光を浴びたそれはきらきらと輝いて見えた。汚れた中でひたすら綺麗なものを探そうとしていた俺達の残骸だ。ふぅ、と息をつくとそれらは暴れ、必死に落ちまいと空中で足掻く。
「会いたかった」
「……それは、嘘か?」
ふい、と顔を背ける。現実味が無かった。俺達に挨拶もなしに旅に出て、記憶を取り戻して、勝手に苦悩して。俺の知っている鬼柳京介はそんな男じゃなかったのに。どこまでも仲間思いで、一人が嫌いで。他人のためにしか生きられなくて。お前はその他人をあの町で見つけたっていうのに、なのに会いたい、だなんて白々しい。
「嘘じゃない」
「………」
「クロウ、こっちを向け」
剥き出しの肩に手が触れる。そのままぐい、と引っ張られる。眼が合った。金糸雀の色。一本一本夕日に染め抜かれた銀白色の髪。匂い。それが俺の横を掠めた。背中に手が回される。肩越しにバカみたいに丸い夕焼けが見えた。
「鬼柳……なんで、こんな日にわざわざこっち来るんだよ……」
せめて夢なら、まだ笑えたのに。そう言って俺は鬼柳の背中に手をまわした。熱かった。鬼柳が触れた部分、頬、目頭。血管が通ってる箇所全てが熱かった。どうしようもなく顔が歪んでいくのを感じる。
「何でだよ……俺、もうお前がいなくても、平気だって、思ったのに」
「……クロウ」
「何で、だよ。ずりぃ。卑怯者。嘘だって言えよ」
「……俺、クロウに嘘なんか言わねぇよ」
抱きしめる腕に力がこもった。鬼柳が俺の顔を覗き込む。「………泣き虫クロウ」金色の眼に映った俺を確かめる前に、俺の視界は鬼柳の柔らかい色に埋め尽くされてしまった。
後書き