四人目の雑談者
「マーサ、やっぱり来てたんだな」
「あぁ、どうしてここにいるってわかったんだい?」
「ジャックに聞いたんだよ」
「おーい、俺たちもいるぞ」
オープンテラスで楽しく談笑しているのは、マーサ、雑賀、氷室の三人だった。「まったく、マーサハウス出の子供はみんなあんた大好きだよな」と雑賀が茶化すと、「皆あたしの子だからね。ちゃんと愛が伝わっているのさ」とマーサは胸を張って答えた。ほんとにマーサには頭が上がらない。理想の母親像だ。
「ところで、どうしてココに来たんだ?」
「あぁ、必要な物を買いに来たんだよ。町が発展して行ってるって言っても、まだまだ足りないものは沢山あるんだ。そこで、運び屋として雑賀と氷室ちゃんに来てもらったんだよ」
「ちゃんはよしてくれよ」氷室が苦笑を混じらせて言う。「最近あんたがそういうから、子供達にも氷室ちゃん氷室ちゃんって懐かれる始末だ」
「はは、でも悪い気はしないだろ?」
「……まぁ、そうだが。ったく、矢薙のじーさんめ……」
ぐい、と氷室がコーヒーをあおる。「ほら、クロウもそんなとこに突っ立ってないで座りな」とマーサに促され、開いている席に座った。氷室がオレンジジュースでいいか?と聞いてきたのでそれを注文する。やがてジュースが運ばれてきたところで「で、何の話をしていたっけな」と雑賀が話を戻した。
「ほら、今日は四月一日だろ?朝から子供達の可愛い嘘で大変だって話だよ。……しかし、あんた達を世話してた頃は愉快だったねぇ」
「マーサ、その話は素直に忘れといてくれよ……」
「なんだなんだ、何をやらかしたんだ、クロウ?」
雑賀が続きを促した。俺は「大したことなかったんだけどよ」と前置きしてから記憶の糸を引っ張り出す。
「あの頃はとにかく、マーサや皆を驚かせるのに必死でさ。一番印象に残ってるのがあれだ、遊星のやつ」
「遊星か……あいつの子供時代が想像できないな」雑賀が呟くと氷室が「俺はあのジャックにも子供時代があったなんていまだに信じられないぜ」と相槌を打つ。実は二人に子供よりもはっちゃけてしまった満足時代があるのは黙っておこうと思う。黒歴史だし。
「まず遊星がクローゼットに隠れてて、俺とジャックが皆のいる朝食の席に飛び込むんだ。『皆、大変だ!!遊星が…!』ってな。皆何かあったんじゃないかって遊星がいるはずのベットを覗き込むんだけど……くくっ、」
「なんだよ、どうやって皆を騙したんだ?」
「……ベットに近くの川で採ってきた蟹を忍ばせといて、『遊星が蟹になっちまった!!』て叫んだんだけど…っ!そんときの、皆の顔がさっ…ぷはっ、…あーダメだ、思い出しただけで笑いが……!」
「くっ、そう来たかぁ…!初めて独房で会ったときに一瞬思ったけどよ、……ははは、」
「しかもさ」マーサが話の続きを紡ぐ。「皆バカみたいに信じこんじゃって、取り合えず水槽とエサを用意した後にバツが悪そうにでてくる遊星の顔が可愛くてねぇ」
「『俺の髪型はそんなに蟹に似ているのか……』って一週間ぐらい引きこもっちゃったんだよなあいつ。そっから、遊星の前で蟹とかそういう単語は禁止ワードなんだ」
「そんな話があったんだなぁ」雑賀がしみじみとコーヒーを飲み干した。それから時計を見て、「もうこんな時間か。そろそろ帰らないと子供達に遅いって怒られるぞ」と付け足す。
「そうだねぇ、じゃあ、あたしらはそろそろ行くよ」
「面白い話を聞かせてくれたお礼に、ここの代金は払っておくぜ」
「サンキュー、ガキ達をよろしく頼むな」
代金を払い店を出るマーサたちを見送り、俺は一気にオレンジジュースを喉に流し込む。
もしかしたら知ってるやつが来るかも知れない。もう少しだけここにいるとするか。