男の戦い
「……あ?」
窓から、何やら気になるものが見えた。着替えもそこそこに、俺は窓にへばりついて目を凝らす。噴水の影、待ち合わせやらで賑わう人混みの中に一際目立つ長身の男がいた。見覚えがある、セキュリティの牛尾だ。いや、そうなのか……?
「なんだ、ありゃ……」
思わずもう一度牛尾をまじまじと見てしまった。かっちりと固められた特徴のある前髪はいい。それは普段と変わらない。ばっちり着こなされた黒のスーツ。それも前に一度、WRPGの予選抽選会で見た。まぁ許容範囲だ。しかし、あの手に持った赤い薔薇の花束はなんだ。スーツと合間って、まるで今からプロポーズでもするかのようである。いや、まさか。牛尾の想い人である、ジャックの秘書の姿が思い浮かぶ。牛尾のおっさん、遂にやるのか!?
「牛尾か」
「うわ、遊星!?」
「ふん、覗き見か」
「それはジャックもだろう」
いつの間にか俺の両脇ががっちりと固まっていた。頼むからお前らいきなり人の後ろに立たないでくれ心臓に悪い。遊星はちらりと窓の外の牛尾を一瞥し、「逢い引きか」と言った。
「そこは普通にデートって言おうぜ」
「相手は誰だ。狭霧か?」
「だが今日はエイプリルフールだ。万が一と言うのもある」
「なるほどな」
「お前らは何を期待してんだよ」そう言えば二人とも一字一句間違えずに「エイプリルフールなオチをだ」と断言した。アクセルしそうなシンクロっぷりだ。つかそれいっちゃダメだろ。畜生これだから勝ち組は、と牛尾をもう一度見たところで、既に牛尾の隣に女がいたことに気づく。
「む、女がいるな。誰だ」
「……あれは…十六夜アキじゃねーか!?」
「なんだと!?」
「ぐえっ、遊星痛い痛い押すな!」
俺をぐいぐいと潰すように遊星が窓に張り付く。「なんだ遊星、嫉妬か」「バカな。あれだ、アキは薔薇につられただけだろう」人様の恋愛事情につられたお前らが言うな。二人は少しの間談笑した後、十六夜だけが去っていた。どうやら牛尾の待ち人は十六夜では無かったらしい。遊星が安堵の息をつく。
「ん、また人が」
「……カーリー渚だ」
「なんだとぉ!?」
「ジャック痛い、押すな」
「お前らは俺を潰す気かぁあ!」
心なしか青ざめているように見えるジャックをよそに、カーリーは何枚か写真を撮って去っていった。まったく、一体牛尾の相手は誰なんだ!?
「……ゴヨウとか?」
「寝言は寝てから言ってくれ」
「あれは、龍可じゃないのか?」
「んだとぉ!?」
今度は俺が驚く番だった。流れ的に。遊星も冗談を飛ばすのをやめ注視する。「幼女はねーよ」「幼女はないな」ジャックが何か言いたそうにこっちをジト目で見る。あぁ言いたいことが解る絆パワーが恨めしい、が無視をした。
「…あんた達はさっきからなにやってんだよ!」
「ぞ、ゾラ!?」
まったく予想だにしてなかった乱入者に俺達は面食らってしまった。途端に気まずさが場を包み込む。またゾラのマシンガントークに付き合わされてはかなわない。俺達は最初から示し会わせたようにその場から逃げ出した。
……結局、相手は誰だったんだ……。
「遊星についていく」
「ジャックについていく」
・
「一人で行動する」