PLY


右半分にマーカーを増やして帰ってきた俺を迎えた二人の反応は、ジャックは何も言わずに黙り込み、遊星は無表情な顔を強張らせ同じく黙り込むというものだった。嫌な沈黙が俺達三人を包む。最初に口を開いたのは遊星だった。と言うのも、ジャックははなから発言を放棄しているようだったし、俺も自分の不手際を追及されることに弁解したくなかったから、結果的にそうなってしまった訳だが。

「クロウ、もうこんな事はよすんだ」
「一ヶ月ぶりだってのに、随分なご挨拶だな」
「違う、俺はお前の為を思って」

平行線を辿る会話に、「遊星」ジャックが言葉の続きを遮る。しかし遊星は「ジャックは黙っていてくれ」と再び俺に向き直った。ジャックは溜め息をつき、知らんぞ、と目を伏せる。

「お前も……分かっているだろう。こんな事をしても、鬼柳はもう……」
「鬼柳?なんでここで鬼柳の名前が出てくるんだよ。あいつは関係ねぇ。俺がわざわざセキュリティんとこに忍び込むのは、ガキの為に決まってんじゃねぇか」

俺がまくし立てると、ジャックがふん、と鼻をならした。「よく喋るな。さては図星か」

「……ちげーよ」
「クロウ。ならお前のホルダーに大切に仕舞ってある、その未完成のデッキは何なんだ」

諭すような口調だった。遊星はゆっくりと腰のホルダーを指差す。思わず隠すように一歩後退った。遊星の青が、ジャックの白が滲んでいく。

「全部鬼柳が使っていたカード達だ」

ぴたりと当てられ、閉口した。俺は遊星の青い目を見た。もう自分の身を危険に晒す行為は止めろと、言葉よりも説得力を持った力強い視線が、俺の真新しいマーカーに注がれる。目を逸らしても振り払えない。
だけどな遊星。俺はこの考えまで振り払うつもりは毛頭なかった。鬼柳の遺体にさえ会えなかった俺達が、どうやってあいつを弔ってやればいいんだよ。俺達みたいなサテライトのゴミには死んだ後に何が残るんだよ。慟哭したい程の寂寥感が胸をつく。頭の中の何かがひっきりなしにお前のせいだと糾弾する。いや何かじゃない。最初から俺自身の言葉だった。俺は確かに鬼柳の死に罪悪感を持っていた。心のどこかで、鬼柳を殺したのは自分だと俺自身が思っている。だってチームを最初に抜けた、鬼柳を一番始めに見捨てたのは紛れもなく俺なんだ。だからそれを他人に、ましてやいつもつるんでいた仲間に止めてほしくなかった、のに。

「俺の人生はもう半分死んでるんだ。今更マーカーが増えたぐらいでどうにもならねぇよ」

半ば自暴自棄な言葉を吐き捨てる。鬼柳が死んで、俺は半分になってしまった。それでも残りの半分はまだ生きている。俺を心配してくれる遊星やジャック、慕ってくれている子供達、そしてこの未完成のデッキによってなんとか生かされている。でも、ごめんな皆。俺はもう詰んでるんだ。片翼だけじゃ飛べねぇんだ。このデッキが完成して、俺なりに鬼柳の墓をたてることが出来たその時は、俺は素直にその隣で眠らせてもらうぜ。



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